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サイド黄
正式に俺らのチームメンバーとなった大我の成長が早い。
やはり以前からやっていたからか、車いすに慣れてからはめきめきと上達していった。
でも、どこか無理しているんじゃないかと思う。練習はみんなが終えてからも1人でやっているし、始まる前に早く来て練習をしていることもある。
今日も、体育館の下駄箱にはいつも大我が履いている靴がある。大我は昔から使っていたバッシュをそのまま使っているらしい。ほかのみんなのものはない。俺は両足がないから、靴なんていらないんだけれど。
しかし、コートに大我の姿はない。どこにいるのだろう、と不思議に思いながらもとりあえず着替えようと更衣室へ向かう。
ドアを開けてまず最初に目に飛び込んできたのは、床に倒れている大我だった。
「大我! おい、どうした」
慌てて駆け寄るが、抱き起こすことができないのが悔しい。
「落ち…た。着替えてたら、バランス崩して。スマホも取れないし、誰も来てくれないから…もう……」
まるで子どものように、涙を流しながら言う。でも病的な理由で倒れたのではなくてよかった。
「大丈夫、俺がいるよ。でもどうしよ…」
自分が車いすから降りたら、大我を車いすに乗せてやれない。
「ちょっと誰か呼んでくるからな、待ってて」
再び玄関に向かうと、ちょうど入ってきた慎太郎を見つけた。いつもは義足の彼ならできるかもしれない。
「ちょ、慎太郎!」
俺に気づいた慎太郎は目を大きくして、「どうした高地」
「大我が、大我が落ちてた。起こせない」
「え」
2人で更衣室に戻る。
「え、ちょっと大丈夫!?」
慎太郎はすぐさま抱き起こし、そのまま車いすに乗せる。
「ありがとう慎太郎…」
「いいんだよ。大丈夫か? ……ん、なんで泣いてるの」
慎太郎も大我の涙に気づき、驚く。
「……こんな俺、嫌だ。起きるのも1人でできないなんて。人の助けがないと無理だなんて」
物音がして振り返ると、ジェシーと樹、北斗がいた。
いつの間にか練習開始の時間になっていた。
3人は声も出せず、入り口で止まっている。
「みんなは、どうして冷静なの? なんで障がいを受け入れられるの…。俺にはそんなこと無理!」
涙ながらの訴えは、俺の心に重くのしかかる。
と、「受け入れたわけじゃないよ」
静かに言ったのは北斗だった。
「俺と樹は大我と一緒の、事故で脊髄損傷。慎太郎も同じく事故で足を切断してる。ジェシーだって、病気で障がいを負ってる。でもみんな、全部受け入れて生きてるわけじゃないと思うよ。辛すぎて拒絶したくなるもん」
大我はうつむく。
「高地は生まれたときから足がないらしいけど、嫌になるときだってあるよね。だからみんながきっと通る道だよ」
北斗に言われ、知らず知らずのうちに口が開いていた。
「そう、俺だって思うときがある。足があったらいいのにな。歩くのって、走るのってどんな感じなんだろうって。みんなは当たり前に知ってたことだけど、俺は知らない。障がいに慣れてるって思われがちだけど、苦しいもんだよ」
俺の言葉に、大我が顔を上げた。
「俺だって、骨肉腫っていう病気して左足を切ったあと、絶望って言葉じゃ表しきれない絶望感だったから。片足がなくなったなんて、信じられない。みんな一緒だろうけど」
ジェシーも言う。
「そうだよね。俺も医師に一生歩けないって言われたとき、もう死んでもいいって思った」
樹は、そのときの心情を思い出したように苦しそうに言った。
慎太郎も続く。
「結局は、みんな気持ちは一緒。一生付き合っていかないといけないことだけど、自分でも認めたくないし信じたくない。大我だけじゃない」
大我は下唇を噛む。
「ごめん……俺、自分勝手なこと言っちゃった」
「謝んな。大我は悪くないから。さっ、練習するぞ」
肩をポンと叩き、みんなも促す。
「みんな、ありがとう」
大我は笑って言った。
初めて会ったときから思っているが、こいつの笑顔は本当にかわいらしいというか、綺麗だ。
俺も満面の笑みで返した。
続く