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死ネタもいいですねぇ…… 私も書こうかな……うふふふ((
YOASOBIさんの『優しい彗星』のパロディです。ナチスの崩壊が指導者の最後と同じだったらという設定で書いてます
あまり原曲らしさが残らなかったので読む前に原曲を聴くことを推奨します
ちょっとグロい死亡描写ありますので注意
闇夜を駆ける一台の車
先輩からの電報を受けた私は彼の故郷を訪れている
どうやら、連れていきたい場所があるというのだ
他愛ない会話をしながら車を走らせる彼を横目でみる
朧月が彼を優しく照らしているのがなんとも美しいと思った
彼とは、争いが支配する暗い世界で同盟を組み、多くを教わり、共に戦った
時には増える問題に頭を悩ませ、時には仲間の勝利の喜びに浸った
その中で、独善的故に周囲を振り回すことも多く、意地の悪い時もあるが…それでもついて行きたいと思わされる彼の圧倒的な”強さ”にどうしようもなく惹かれてしまったのだ
そんな彼と過ごす、幸せな日々に私は救われていた
だからこそ私の全てをもって彼のそばで生き、彼を守りたいと思った
そしてその気持ちは私の”強さ”になった
守るべきものがあれば強くなれる
この言葉を身をもって理解する日が二度も来ようとは思ってもみなかった
辿り着いたのは空気の澄む、静かな丘
夜空に浮かぶ満ちた月と囲むように位置する一等眩い三つの星
私達の全盛期を表現したような、美しい空
輝きに見惚れる私を愛おしそうに眺める彼が、そっと私の視線を奪った
「最後に、愛するお前とこの景色を見たかった」
見たこともないほど穏やかな表情
灰色の雲が一つ、星を隠す
「最後……?っまさか、あなた、」
何となく、嫌な予感はしていた
脳裏に蘇るのは先日見た”東部戦線崩壊”の報せ
正しく察したと認識した彼は、真剣な表情で私を見つめる
「ああ。だから、お前に頼みがある」
ホルダーにしまっていた愛用の銃を握らせ、自身の心臓の辺りに銃口を向ける
その行動の意味することはただ一つ
焦って銃を手放そうとするが強い力で握らさせており離すことが出来ない
「嫌だっ!私は…貴方を殺したくなんてないっ!」
「殺すのではない、自殺に付き合わされるだけだ」
「貴方が死ぬというのなら!私もここで死ぬ!」
必死の抵抗を試みるも、照準は少したりとも動いてくれない
貴方まで私を置いて行くのか
「お前が死ぬ必要なんてないだろう。大丈夫だ、お前は一人でもやっていける」
感情的に叫ぶ私を宥めるように諭す先輩
なぜだ、なぜ…わかってくれないんだ!
「私はっ!私の全てを貴方に捧げると遠の昔に決意した!私の命は貴方の命だ!それを絶つというのなら私も連れていってくれ!」
目頭に溜まっていく大きな雫
表面張力が無くなり零れたそれは、月光を受け流れ星のように輝き、靴を濡らす
初めて見せる涙に、一瞬揺らぐ彼の空気
質のいい革でそっと涙を拭いながら、申し訳なさそうな表情を浮かべ、彼ははっきりと告げた
「すまないが、その願いは叶えてやれないな」
「お前にはまだ勝ち筋がある。あの米帝相手でも渡り合ってきただろう」
「流石は俺の相棒だ。俺が教えたことは間違いではなかったな」
ポスッと大きな手が優しく頭を撫でる
雲のかかる月明かりを受けて、苦しげに儚く微笑む彼に目を奪われた
「先輩…」
「だからこそ…」
徐に軍帽を脱ぎ捨てた彼が、包み込むように抱き締める
「俺達の最後の希望として生きてくれ」
静寂な空間に響く破裂音
胸板で覆われた視界の端に見知った人影と黒い流れ星を捉える
その瞬間、彼の腕の力が消えた
崩れ落ちてゆく体が引力に身を任せ自身へ倒れ込む
正確に撃ち込まれた眉間から流れる血が、じんわりと、蝕むように自身の服を染めていった
腕の中で絶える命
そんな状況であるにもかかわらず、不思議と頭は冷静になっている
高潔な彼のことだ、大敗を喫してなお生きるなど出来ないだろうとは思っていた
だから彼は最後に私に全てを託した
そして、私が殺せないことを見越して信頼している部下に撃たせたのだろう
何処までも周到な人だ
そのせいで、自分が死ぬなら貴方に殺されるか一緒に死にたかったという願いを絶たれた上に、『お前は生きろ』と後追いすら許してくれない呪いをかけられてしまった
歪む視界に映る、取り残された一等星
彼はあの場所へ行くことは出来ない
列強の誇りや強さに酔いしれた見栄張りの自分と同盟を組み”仲間”を与えてくれた
自分には無かった”強さ”を教えてくれた
どんな時にでも不器用に励ましてくれる”優しさ”を見せてくれた
私の憧れた”強く大きな彼”はこれからも私の心に存在を刻み生き続けるのだろう
力無く寄りかかる赤い彗星を抱き返す
「貴方は…最後まで意地悪なのですね」
遠くにいた気配はいつの間にか消えている
今はただ、冷えていく体温を奪いながら静かに雨を降らすことしか出来なかった