「…どなたでしょうか?間違い電話だと思います…」
そう言って電話を切ろうとする。
「…あれ?なんで…?」
だが、何度切ろうとしても通話が切れることはなかった。
『おいおい、もう忘れたのかよ…ひどいなぁ、聡くん。』
「…、なんで僕の名前を…」
電話の主は僕がそう言うと、聞き覚えのある笑い声を耳に届かせた。
『キヒッ…』
「…!?さとるくん…?なんで、どうして!
あの時ーー」
『殺したはずだってか?』
言葉を遮られ、思わず口が閉じてしまう。
冷や汗が止まらない。あの時に終わったわけじゃなかったなんて…
『確かにあの時、俺はこの世を本当に去りそうになっていた…
だが死に際に目に入ったお前のその携帯、それが俺の憑代となったおかげで、こうして死に延びて無事、”意識”を取り戻すこともできたってわけさ。』
「…意識を取り戻した?」
そう問うと、さとるくん?は ああ、と言って説明を始める。
『俺は自分が何者だったのか分からない。気づいたら、公衆電話の近くにいて、まどろみの意識の中でお前を襲っていたんだ。
自分が何をしていたのか、何が目的でこんなことになってるのかも何も思い出せない。』
「…じゃあ、あなたはいったい…」
電話主…つまりあの化け物がさとるくんでないなら、一体何者なんだ…?
『分からん…だが、1つ気づいたことがある。
俺は、お前らの体に染みついたその”匂い”にひどく興味が湧いている。』
僕はそれを聞いてくんくんと体の匂いを嗅ぐ。
そんなに臭かったかな…ちゃんとお風呂は入っているんだけど…
『ちげえよ! お前らの体に染みついた、
“怪異”の匂いのことだよ。』
「”怪異”の匂い…?」
『ああ…俺と同じような、そうでないような匂い…そうだな、つまり…
“幽霊の匂い”だ。』
「いやいや、そんなもの……あっ。」
突如、僕の頭の中に存在しないわけがない記憶が溢れ出す。
みこと何度も訪れたことのある心霊スポットの数々…廃トンネルや、呪いの館…
「……気のせいだろ。」
『今、絶対思い出したよな!?おい、携帯を閉じようとするんじゃねえ!!』
謎の力で閉じる力を抑えられる。
何とかこの会話を終わらそうと、さとるくんと奮闘していると、後ろで扉を開く音が聞こえた。
「聡ー、遅いわよ…って…」
「…あ。」 『…あ。』
「えー、何それ何それ!じゃあさとるくんがこの中にいるってこと!?」
『正解、嬢ちゃんも久しぶり。』
く…みこに見つかる前に解決しておきたかったけど…仕方ない。
「みこ、今日一緒にお祓い行こう。」
『うおい!俺を成仏させる気か!?』
携帯が突如暴れ出したため、僕は何とか小さい体で押さえ込む。
「当たり前だろ、僕らはお前に殺されかけたんだぞ!
何が理由でお前を置いておくんだよ!」
携帯がぴょんぴょんと地面を跳ねて僕の手から離れていく。
諦めて成仏されろよ!!
「…元々は私たちが呼んだのに、それでお祓いってしたら、確かに理不尽だよね…。」
「…みこ?」
「もし聡がさとるくんを置くのが嫌なら、私が携帯預かるよ。
さとるくんが可哀想ってのもあるけど…それ以上に聡が嫌がるならもう、無理させたくない。」
みこは平気そうに笑ってそう言うが、手を見ると少しだけ震えていた。
怖いと正直に言えばいいものの…
『お、嬢ちゃんわかってんじゃねえか!
さっさと離しやがれ、聡!』
「……いや、みこに預けるくらいなら僕が預かる。」
そう言って僕は携帯をポケットにしまった。
『あ、おいーーー
ツーツー
よし、やっと切れた!
「聡…ほんとにいいの?」
「うん、大丈夫。確かにみこの言うことも分かるしね…」
僕はふぅと安堵の息をついて、椅子に座る。
まさかこんなことになるとは、思いもしなかったな…
…………………
「じゃ、じゃあ気分も変えて、今日はこの都市伝説よ!!」
「お、おー…。」
みこが空気を破るように元気にそう言うと、部室に置いてある都市伝説の本を机の上に広げる。
「学校の怪談で有名なものといえば…
そう、花子さんよね!!」
花子さんーー
色々な説はあるが、有名なものの一つとして
3階のトイレにノックを3回、そして
“花子さん、遊びましょ”と唱えると、
花子さんが出てくるというものだ。
「…だけど、うちの学校でこういう噂ないし…
試すにしても僕、女子トイレ入りたくないよ…。」
「ふっふっふ…安心して、とびきり良い情報を手に入れたから!
その名も…”夜の大鏡”…。
これをやれば、100%、霊に会えるわ!」
これもまた有名なやつで、学校の鏡のどれかの前に、4:44分に立っていると異界に引き込まれるという。
まあ、どっちにしろ僕は女子トイレに入れないし…初めてみこの番になるかな。
そんなことを考えていると、みこが手のストレッチをしながら僕の目を見据える。
「よーし、じゃんけんするわよ。」
「…え?」
結論、負けました。
僕は部活が終わった後、自分の家に戻ってきていた。
そして、今は目の前にあるみこの”制服”を
鏡で見ている。
「くっ…まさか女装という手段があったなんて…完全に見落としていた…」
『お前ら、本当に仲良いな。』
「うわぁ!?」
びっくりして思わず情けない声を出してしまった。
ポケットからガラケーを取り出して開くと、
画面からはさとるくんの声が聞こえる。
『普通、女は男に自分の服を貸したりしないぜ。そいつが”好きな男”でない限りな…』
「…まさか、みこが僕のこと好きなわけないだろ。幼馴染だから、ある程度信頼されてるだけだよ…」
『ある程度…ねぇ。』
なんだこいつ…
あの化け物が、こんな知性のあるような喋り方をしていると、少し違和感を感じるな…
「…そういえば、さとるくんは俺の携帯を憑代にしてるって言ってたけど…離れる気は無いの?」
僕からすれば早くさとるくんとは縁を切りたいため、そう提案をしてみたのだが…
『無いな、というより”できない”と言った方が正しいか。』
…?
『俺はあの日、電車に轢かれて体が真っ二つになった。そのせいか、憑代なしにとどまることができなくなっちまってな…。
…まあ、他の怪異に接触すれば力を徐々に取り戻せると思うが…。』
「…じゃあ、今日はお前はここに置いていくか…。」
そう言うと、携帯が僕の顔に思い切りダイブしてぶつかってきた。
「いたい!?」
『ちゃんと連れていけよ、じゃないと……
だめだ…眠い……』
「はい…?」
『少し…………寝る………。』
ツーツー
こいつめちゃくちゃ自由だな…
そんなことを思いながら僕は深いため息をつく。
時計を見ると、時刻は18:30分。
早起きして深夜の3:00には みこと校門前に集合するから…少し仮眠するか…。
僕は部屋の電気を消して、目を瞑る。
意識はしばらくして夢の中に落ちていった。
「………うーん、今何時……2:30!?
やばい、急がないと!」
体を起こして急いで学校の制服に着替える。
みこから貸してもらった女装用の制服を持って僕は、お母さんにばれないよう静かに家を出た。
「あ、来たわね。」
「ご、ごめん…はぁはぁ…」
走って校門前に着くと、既にみこが待っていた。
予備を持っていたのか、同じく制服を着ている。
…やっぱり今日そのまま学校残ることになるよな…。
「じゃ、行こっか!」
そして僕らは昼間とは違う、夜に囲まれた
不気味な校舎に入っていった。
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