夜も更けて、そろそろ深夜の1時くらいになるだろうか。
この時間になってようやく、村人全員の治療を終わらせることが出来た。
「アイナ様、お疲れ様でした」
最後の村人を送り出すと、ルークが労いの言葉を掛けてくれる。
「うん、ルークも色々とありがとね。お疲れさまぁー」
ふぅ……と一息ついていると、ランドンさんが部屋に入ってきた。
「アイナ様、これで全員を診て頂きました。
今回のこと、本当にありがとうございます。村を代表して御礼を申し上げます」
「ランドンさんもお疲れ様でした。
まだ大変なことが続くと思いますが、頑張っていきましょう」
「お気遣いありがとうございます。
……あの、少しばかりお時間を頂いてもよろしいでしょうか」
恐れ多いように、こちらの機嫌を伺ってくるランドンさん。
私はそんなに偉くないし、もっと気軽に話してくれて良いですよ。
「はい、何でも言ってください」
「実は、明日からのことを相談させて頂きたく……」
話を聞いてみれば、結局は私たちがいつまでガルーナ村にいられるか……ということだった。
先を急ぐ旅でもないから、しばらくは滞在しても問題ないんだけど――
……あ、そうだ。
ジョージ君が見つけた『何か』っていうのは、気になるから調べておきたいな。
「少なくとも、みなさんが回復するまでは滞在しようと思っています。
それまでは何でも相談してください」
「ありがとうございます、本当に何と申して良いのやら……。
その代わりと言ってはなんですが、滞在中のことは全てお任せください。
当然のことながら、食事や宿はこちらで用意させて頂きます」
わぁ、それは正直ありがたい。
お金もあまり無いし、そこはしっかり甘えさせてもらおうかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日の昼頃、私とルークはジョージ君に会いに行った。
「あ、アイナ様!
このたびはジョージが大変お世話になりまして……!」
「こんにちは。
癒し草を集めているときの怪我ということで、大変申し訳ありません」
恐縮する母親に、こちらも謝罪を行う。
「そんな……。
そもそもアイナ様に救って頂いた命なんです。謝るのはおやめください……」
……何とも言えない間。
そこに、助け船のような形でジョージ君の声が聞こえてきた。
「おねーちゃんだ! こんにちはー!」
お、元気だね。
母親に会釈だけして、ベッドに寝ていたジョージ君の元に進む。
「こんにちはー。
ジョージ君、お身体の具合はどう?」
「うん、もう大丈夫だよ!
おねーちゃんが治してくれたんだよね……本当にありがとう!」
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【状態異常】
衰弱(小)
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話しながら鑑定をすると、昨日よりは良くなっていた。
結構心配だったんだけど、これならもう大丈夫かな。
「それは良かった!
……ところでジョージ君、怪我をしたときのことって覚えてる?
怖かったら思い出さないで良いんだけど」
「ううん、大丈夫だよ!
えっと……癒し草を探してたら、何だかイヤな感じがしたの」
「イヤな感じ?」
「うん。なんだかムワァ……って感じの、トゲトゲする感じ」
「うーん……?」
私がいまいち理解できないでいると、後ろにいたルークが小声で囁いてきた。
「感覚的なところで伝えにくいのでしょうが、恐らくは瘴気の類かと思います」
……ふむ、なるほど。
あまり馴染みのない感覚であれば、言葉にするのは難しいよね。
「それでね、気になって近くに行ったら……地面に、綺麗な光るものがあったの」
「……光るもの?」
「うん。すぐにおじちゃんに教えようとしたんだけど――
……あれ? うーん……、そこからもう分からないや。
そのあと気が付いたら、ボクの前におねーちゃんがいたの。痛いの、治してくれたんだよね」
ジョージ君はゆっくりと、こちらに手を伸ばしてくる。
私はその手を取って、優しく握ってあげる。
「うん、ありがとね。
ジョージ君が癒し草を集めてくれたから、他の人も助けることが出来たよ」
そう言うと、ジョージ君は嬉しそうに笑ってくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ジョージが怪我をしたのはこの先です」
村人に案内してもらったのは、村から少し離れた沼地だった。
事前に聞いていた通り、たくさんの草が生えている。
「ここって、大蛇が住んでいるところですか?」
「いえ、それはもっと北の方なんですが……たまに、エサを求めて来ることはありますね」
なるほど。
そんな危険な場所に子供まで行かせてしまったのは――
……とも思ってしまったが、今回ばかりは緊急事態だったから仕方がない。
癒し草が足りなければ、村人を全員を助けられなかったわけだし……。
「さて、この先には何があるんですかね……」
ぱっと見る限りでは、平穏な沼地だ。
薄暗いところなんて無いし、空には能天気に鳥が飛んでいる。
「アイナ様は、これ以上進んではいけません」
足を進めようとすると、ルークが注意を促してきた。
ジョージ君の怪我の理由がまだ分からないから、そう言いたくなるのは当然なんだけど――
……でも、村人に行かせるわけにもいかないよね?
そこまではルークも考えているだろう。
このあと彼が言いそうな選択肢も、早々に潰しておくことにしよう。
「もちろん、ルークが突っ込むっていうのも無しだからね?」
「……はい。
それではどうしましょう」
ルークは次の策を考え始めた。
他人が傷付くのは嫌だから、自分が行くことにする――
……これは美談にも聞こえるけど、周りの人からすれば別に嬉しくはないからね。
「ところでルーク君。
君は、何かを忘れていないかね?」
「え? 何か……? 何でしょう」
私は右手を額に当てて、遠くを眺める仕草をする。
「もしかして、鑑定スキルのことでしょうか。
何がどこにあるのかは分かりませんが……大丈夫ですか?」
「きっと大丈夫! ダメだったらそのときまた考えよう!」
そのやり取りを聞いていた村人が、私たちの後ろで声を上げる。
「そんな遠距離から鑑定が出来るのですか……?
私の知っている鑑定スキルと違う……」
……呆然とする村人。
何と言っても、私の鑑定スキルはレベル99だからね。
「ひとまずお任せください! では、かんてーっ!」
沼地の方を向いて、広大な景色に対して鑑定スキルを使っていく。
『何か』がどんなものかは分からないけど――
……条件を上手く絞っていけば、いずれは分かるはずだ。
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【普通の土】
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【小さな枝】
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【石】
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【パピテ草】
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【汚染された水】
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【癒し草】
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【ネズミの死骸】
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【鉄鉱石】
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【ミミズ】
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【????】
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【虫の抜け殻】
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頭の中を、様々な情報が流れていくが――
……あれ? 今、『????』ってあったぞ?
何だろう? かんてーっ!
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【????】
遠距離のため、詳細不明
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……おや。
危険だからと距離を空けて鑑定したのに、これは予想外の展開だ。
他には特に危険なものは無さそうだし……ここは覚悟を決めて、行ってみることにしようかな。