コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「あ、なんか近いな。」
第9話:『ただ、そばにおってほしいだけやのに。』
部屋の時計が、静かに秒を刻んでる。
外はすっかり暗くなって、窓の外には街灯の光。
俺はベッドの上で、スマホを見つめてた。
画面には「樹」の名前。
でも、メッセージの欄は空っぽ。
何度も文字を打っては消して、
ただため息をつくばかり。
「なんでやろな……」
小さく呟いた声が、部屋に溶けていく。
(俺、あいつが離れていくの、
なんでこんなに嫌なんやろ。)
樹の笑顔を思い出すたび、胸の奥が痛くなる。
一緒に帰った坂道、くだらん話で笑い転げた教室、いつも隣にいた”当たり前”が、今は遠い。
「…ただ、一緒におりたいだけやのに。 」
恋とか友情とか、
そんな言葉で括られへん気持ちが胸の中にある。
樹のことを考えへん日はない。
話したいのに、うまく言葉が出てこない。
笑ってほしいのに、距離を感じるたびに苦しくなる。
(俺……どうしたらええんやろ。)
スマホの画面をもう一度見つめる。
メッセージの入力欄に、
震える指で一言だけ打ち込んだ。
「なぁ、今何してんの? 」
送信ボタンに指を置いたまま、しばらく止まる。
送ったら、またすれ違う気がして、怖くて。
けど、何も言わんかったら、
このまま遠くなってまう気がして。
俺は、そっと目を閉じた。
(ただ、そばにおってほしいだけやのに。)
その願いは、声にならんまま、夜の中に溶けていった。