テラーノベル
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「……何してんだよ、二人で」
低い声が部室に響き、空気が一瞬で凍り付く。
入り口に立つ遥の視線は、私の手元にある凌先輩からのプレゼントに真っ直ぐ注がれていた。
「別に。合宿の差し入れを渡してただけだよ」
凌先輩がさらりと受け流すが、遥の表情はちっとも緩まない。
「差し入れなんて、俺だって用意してんだけど。……ほら」
遥は私の隣までずかずかと歩いてくると、ポケットから乱暴に何かを突き出した。
それは、コンビニの袋に入った大量のレモン味のタブレットと、なぜか「強力」と書かれた虫除けスプレーだった。
「山なんだろ、合宿所。……お前、すぐ蚊に刺されて騒ぐからな」
「……あ、ありがとう。よく覚えてたね」
凌先輩の「癒やしグッズ」とは対照的な、あまりに実用的すぎる遥のプレゼント。でも、私の体質を分かってくれているのが遥らしくて、少しだけ緊張が解けた。
「ふん。……それと、バス。明日の座席、俺の隣空けとけよ」
「えっ、座席は女子同士で固まるんじゃ……」
「小谷先生が『座席は自由だ』って言ってた。……遅れるなよ」
言いたいことだけ言うと、遥は凌先輩を一度も振り返ることなく部室を出ていった。嵐が去ったあとのような静寂の中で、凌先輩が小さくため息をつく。
「……あいつ、本当に余裕がないな。……でも、僕も負けてられないね」
そう言って微笑む先輩の瞳も、全然笑っていない。
明日からの合宿、本当に大丈夫かな……。私は二つのプレゼントを抱えて、これからの三日間に言いようのない不安を感じていた。
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