合宿出発の朝。校門前に停まった大型バスの周りは、大きな荷物を抱えた部員たちの熱気で溢れていた。
「いい? 紗南ちゃん、作戦開始よ」
成瀬先輩が私の肩をがっしりと掴み、並々ならぬ気迫で耳打ちしてくる。先輩の視線の先には、運転手さんと打ち合わせをしている小谷先生の姿があった。
「先生は一番前の席に座るはず。私はそのすぐ後ろを死守するわ。……で、あんたなんだけど」
「は、はい」
「……地獄の三つ巴、始まってるわよ」
先輩が指差した先。バスの乗車口のすぐ脇で、遥が腕を組んで仁王立ちしていた。そのすぐ数歩後ろでは、凌先輩が爽やかな笑顔で後輩女子たちの荷物運びを手伝っているけれど、その視線はチラチラと遥の方へ向けられている。
「……おはよう、紗南」
私が近づくと、遥がいち早く気づいて一歩踏み出した。
「バス、一番後ろの席取っといたから。あそこなら寝顔見られねーし、静かだろ」
「ちょっと待ってよ。紗南ちゃんは車酔いしやすいんだから、一番後ろは揺れてきついでしょ」
いつの間にか荷物を預け終えた凌先輩が、自然な動作で割り込んできた。
「真ん中あたりの席、僕の隣を空けてあるよ。あそこが一番揺れないし、酔い止めの薬も持ってるから」
遥の「独占欲」と、凌先輩の「正論を武器にした包囲網」。
バスの入り口で立ち往生する私に、周りの部員たちの「何事?」という視線が刺さる。
「……あの、私、座席は……」
助けを求めて成瀬先輩を見ると、先輩はすでに小谷先生の真後ろの席を確保し、窓から「健闘を祈る」とばかりに親指を立てていた。……先輩、裏切りが早すぎます。






