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#シリアス
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ふとした拍子に、意識が現実へと引き戻される。
視界を埋め尽くしていた天馬くんの浴衣の質感と
鼻をくすぐる石鹸のような清涼な香りが、一気に僕の心臓を跳ね上がらせた。
「っ、ご、ごめ……っ!」
心臓の鼓動が耳の奥で警鐘を鳴らす。
慌てて彼の胸板から手を離し、逃げるように身を引こうとした、その時だった。
「あ」
短い、天馬くんの掠れた声。
僕の浴衣の裾が、彼の帯の結び目に無慈悲に引っかかった。
バランスを崩した体は、重力に逆らうこともできず、ふたたび彼の方へと吸い寄せられる。
「わ、っ……!?」
抗う術もなく、僕はまたしても天馬くんの胸元へと倒れ込んでしまった。
今度は、さっきよりもずっと深く、密接に。
「……っ」
近い。
あまりにも、近すぎる。
薄暗い中で、天馬くんの喉仏が上下するのが見えた。
顔を上げれば、吐息が触れ合うほどの距離に、彼の双眸がある。
打ち上がる花火の轟音が遠い世界の出来事のように思えるほど僕の胸の音はうるさく、そして激しかった。
「み、水瀬……落ち着けって、はは」
苦笑混じりの声。
けれど、いつもの余裕たっぷりな調子とは違う。
天馬くんの声も、どこか熱を帯びて微かに震えていた。
「ご、ごめんなさ…っ、ひっかかって……」
パニックに陥った頭で、どうにか浴衣を直そうと指先を動かす。
けれど、焦れば焦るほど手元はおぼつかなく、布地を無駄にまさぐるだけになってしまう。
「ちょ、待って。動くと余計絡まるから」
制止する声とともに、天馬くんの手が僕の手首を優しく、けれど逃がさない強さで押さえた。
「……っ」
拘束された感覚に、また体温が跳ね上がる。
「ほら、ここ」
天馬くんがもう片方の手で、帯に複雑に絡みついた裾を丁寧に解いていく。
指先が浴衣越しに僕の太ももや腰に触れるたび、肌に電流が走ったような錯覚に陥った。
彼の手が動くたびに、僕たちの距離は数ミリ単位で縮まっていく。
「…ほら、取れた」
「ぁ……」
ようやく解放された僕は、弾かれたように隣のスペースへと座り直した。
顔が焼けるように熱い。
間違いなく、今の僕は熟れた林檎のように真っ赤だろう。
恥ずかしさに耐えきれず、膝を抱えて視線を逸らす。
すると、すぐ隣からクスクスと
悪戯が成功した子供のような笑い声が聞こえてきた。
「水瀬さ」
「……な、なに」
「最近、ずっとかわいすぎ」
「っ!?」
不意打ちの言葉に、肩が大きく跳ねる。
「お化け屋敷のときもそうだったけどさ。水瀬、反応が全部素直なんだよな」
「か、からかわないでほしい……っ」
「ごめん。でも無理。…面白すぎる」
天馬くんはそう言って、満足げに夜空を見上げた。
その端正な横顔を盗み見ると、火花に照らされた彼の瞳が優しく細められている。
さっきの、胸が押し付けられた時の感触。
絡み合った視線の熱。それが何度もフラッシュバックして、呼吸がうまくできなくなる。
胸が苦しい。締め付けられるみたいだ。
なのに、この場所から逃げ出したいとは思わない。
むしろ、もっと近くに、もっと長く一緒にいたいと願ってしまう自分がいた。
その時
ドォォォォォンッ、と空気を震わせる巨大な一撃が夜空を裂いた。
今夜一番の、大輪の金冠が咲き誇る。
金色の光の雨が降り注ぎ、僕たちの周囲を幻想的に包み込んだ。
「なあ、水瀬」
降り注ぐ光の中で、名前を呼ばれた。
「……え?」
反射的に彼の方を向いた瞬間。
天馬くんの指先が、僕の剥き出しになった耳たぶに、羽が触れるような軽やかさで触れた。
「ひゃ……っ!?」
予想もしない刺激に、全身を未知の戦慄が駆け抜ける。
耳は、自分でも気づかないほど敏感だったらしい。
指先から伝わる彼の体温が、直接脳を痺れさせるような感覚。