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#シリアス
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「はは、やっぱおもしろ。そんなに驚く?」
「……っ」
天馬くんは楽しそうに目を細めている。
僕は心臓の暴走を抑えるように、両手で自分の耳を必死に押さえた。
「そ、そんなに…いじめないで……っ」
恥ずかしさが限界を超え、僕は亀のように丸まって俯いた。
すると、隣の気配がぐっと近づいてくる。
天馬くんが少し身を乗り出し、僕のパーソナルスペースを軽々と踏み越えてきた。
「じゃあ、こっち向いて」
「……え」
「顔、見たい」
抗う間もなかった。
長く細い指が、僕の顎をそっと掬い上げる。
拒む力など、今の僕にはこれっぽっちも残っていなかった。
「……っ!?」
強制的に顔を上げさせられる。
視界いっぱいに、天馬くんの顔があった。
瞳の中には、絶え間なく弾ける花火の閃光が宝石のように映り込んでいる。
天馬くんだから、怖いことはされない。
彼は優しいし、僕を傷つけたりはしない。
頭では分かっている。
なのに、彼の瞳の奥に宿る「何か」が、僕の生存本能をざわつかせた。
これから何が起きるのか分からない恐怖と
それ以上の期待が混ざり合って、小動物のように肩が震える。
そんな僕の様子をじっと観察していた天馬くんが、ふっと口角を上げた。
「…なんか水瀬って、襲いたくなる」
「……えっ、え?」
思考が真っ白にショートした。
襲う?何を?どうやって?
過激な言葉の響きに、僕の頭は完全にフリーズしてしまう。
「ふっ、冗談冗談」
「か、からかい過ぎだよ……っ!ひどい……」
涙目になりながら精一杯の抗議を口にすると
天馬くんは少しだけ困ったように眉を下げて、自分の頬をポリポリと掻いた。
「いや、なんていうか……反応が可愛すぎてさ、つい意地悪したくなるっていうか?…いじめたくなるんだよな」
「…えっ、いじ、め……?」
その不穏な単語に、過去の苦い記憶が呼び起こされ、胸の奥がひゅっと冷たくなる。
無意識に顔を強張らせ、身を引こうとした僕を見て
天馬くんは「あ」と弾かれたように目を見開いた。
「いや、違っ、そっちのガチで酷いことする『いじめ』じゃなくて!」
「……」
「その……なんて言うの?構いたくなる方、っていうか…可愛がるのと似たようなニュアンス?」
必死に言葉を選び、弁解してくれる彼の表情は真剣そのものだった。
僕はまだ少し震える声で、確認するように聞き返す。
「……怖くない、やつ……?」
「そうそう。絶対に怖くないやつ」
天馬くんは安心させるように、いつもの快活な笑顔を浮かべた。
「水瀬が、すげー可愛がり甲斐があるってことだから」
「……っ」
可愛がり甲斐。
そんな、宝物のように扱われるような言葉を向けられたのは、人生で初めてだった。
天馬くんはふっと目を細め、慈しむような眼差しで僕を見つめる。
「ていうかさ、水瀬。俺の前だと表情ころころ変わるよな」
「え……」
「最初会ったときは、子犬みたいにずっと怯えてたのにさ」
言われてみれば、そうだ。
以前の僕なら、こんな至近距離で誰かと接することなんて不可能だった。
けれど、天馬くんといると、心が騒がしくなる一方で、どこか深い場所が温かくなっていく。
「…だ、だって、天馬くんといるときは……」
「ん?」
「楽しくて、安心する…から、笑えてる気が、する」
消え入りそうな声で告げると、天馬くんは一瞬驚いたように目を見開き
それから今日一番の優しい顔で笑った。
「……そりゃどーも」
天馬くんの手が、今度は顎ではなく、僕の頭を優しく撫でた。
大きな手のひらの重みが心地よくて、僕は思わず目を閉じる。
夜空にはまだ、色とりどりの火花が咲き乱れている。
けれど今の僕にとっては、この狭いシートの上で
彼から与えられる熱の方が、どんな花火よりも眩しくて、大切に思えた。