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LAST

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「俺はさ、適齢期で結婚したいわけでもないですし、今してもいいって思ってる。本当に思ってるよ。今は金銭的なこと春美さんを頼らないといけないけど、貯金も少しはある。将来的には若い分長く働けるから後でお得になりますよ」
「お得……って。あははは。その“将来的に”の部分が一番問題なんじゃないかな、私たちは」
広睦くんはパチッと瞬きをした。
「将来的? 何が問題? ちゃんと働きますけど」
「今はいいのよ、今は。あなたも今は目の前の私が32歳で、あなたは年上の女性に憧れる時期なのか、年上の女性が好きなのか。私もあなたは若くて容姿も優れていて、押しが強くて悪い気はしない。でも考えてみて。結婚となるとずーっと一緒にいるわけでしょ。10年後、私は42歳になって、でもあなたはまだ31歳。周りには独身の人たちがたくさんもいて、あなたは男盛り。若い女の子たちが中堅になったあなたを放っておかないでしょうね。さらに10年後私は52歳であなたは41歳……」
身振り手振りで説明していると遮られてしまった。
「あー、なるほど。若い女に目移りしてオバサンは後々捨てられるって言いたいんですか」
「まぁ、簡単に言っちゃえば。そう、あなたの気持ちが維持しないと思うのよ。浮気も辛いけど、本命つくって捨てられるのきついと思うし。今の一瞬のために惨めな思いはしたくないかな。そこからも生きていかなきゃならないしね」
「男が年下の場合の年の差恋愛の結末の一般的予測」
「そう。でもやっぱりそう思っちゃうし、周りもそう思ってる。一過性の感情で、熱が冷めたらそんなもんだよ。あるあるだね」
年の差でよくある結末の前例を彼も知らないわけじゃないだろうし、そう思うけど、広睦くんは私を睨みつけた。
「不安を解消するために誰かといたくて、それが俺だったら余計に不安になる。若さってそんなに羨ましいですか。マイナス要素になりますか」
「……私……」
「春美さんは、俺と結婚するのは10年後、20年後自分が辛い思いをするかもしれないから不安で嫌だってハナシね」
「……俺とって言うか、年の差があるのはってこと。広睦くんが浮気性だとかそういうことを言ってるんじゃないよ、けど……」
「おーけー、おーけー。春美さんさ、まだ起こってもない未来の自分の気持ちは考えて心配できるのに、今の俺の気持ちはガン無視なわけ? 辛い思いさせるのは平気なわけ? すごいじゃん。オトナって身勝手なんだね。俺を好きじゃないならともかく、好きなのに年齢で振るの。そっちの感情は“かもしれない”こっちの感情は“確実に辛い”どういうこと、これ」
腕組みして私を睨みつける広睦くんの視線を受け、何も言えなくなってしまった。
「でも……」
「仮想的な状況で無理って言われてもね」
「も、もちろんわかってるよ。浮気をしない人だっているし、単に危機管理能力が働いただけで……」
「わかってない」
「えっと」
「俺が、今どんな思いするか、わかってない」
顔を近づけて凄まれると、ひゅっと息を止める。
「ごめんなさい。でも、あなたはまだ若いんだしこれからいくらだって恋が出来るでしょう。大学生は大学生と……」
ものすごく嫌そうな顔をされ、私はそれ以上言わずにぐっと押し黙った。
代わりに広睦くんがはーっと盛大なため息を吐いた。広睦くんの今の気持ちを軽視してるつもりはないんだけど、どうしても21歳の『結婚』という言葉は軽く響いてしまう。
「ことあるごとに、年下年下。若い若いって。その俺の努力じゃどうにもならないことを言って黙らそうとするのやめてもらっていいですか。受け入れたらどうです、年の差」
広睦くんに罪はない。わかってる。言い返す言葉も見つからない。
「責めてるつもりはないんだけど。こればっかりは仕方がないよ」
「だいたいさ、春美さん。今までの彼氏、10年20年付き合ったことあります? 」
「え、無い。無いよそりゃ。大体の人無いんじゃない? 」
「うん。俺もない。中学から付き合ってるとか、結婚してる人くらい? 春美さん、一番続いた彼氏って何年付き合った? 」
何年、言われた通り思い出してみる。
「3年、くらいじゃないかな」
「そっか。じゃあさ、一人の男と10年一緒にいるのって春美さんにとっても10年先は未知の世界ってことですよね。一緒じゃん、俺と。なんで21歳は挑戦すらできないわけ」
「そうだけどさ、もう。口達者なんだから。適齢期ってものがあるでしょう」
「人それぞれね。若い時のが恋愛がすべてじゃん。42歳の春美さんはもう俺に興味ないかもしれないし、春美さんは俺の事を虫より嫌いになってるかもしれないじゃないですか。何で想像上の未来はいつも俺が振る側なんですか。今は俺が振られる側で、この10年で何が逆転すんのさ。それさ、春美さんが、女の価値は若さだって思ってるってことだ。俺じゃなくて春美さんの価値観がそうなんですよ」
「そりゃあ、今はともかく、男の人は若くて綺麗な女の人の方がいいにきまってるでしょう」
「で、春美さんはさ、今あなたが思う30歳になれてんの? 」
「そんな、完璧じゃないと、思う」
「じゃあ、いいじゃないの、未熟な俺が相手でも」
「中身は確かにそうだけど、実年齢の話で……」
23歳の私が思っていたより30歳の私は未熟ではあるし、まだまだなって思う。でも、そうじゃなくて……。
コメント
1件
うわ、この話すごく熱かったですね……。広睦くんの「今の俺の気持ちはガン無視?」って台詞、めちゃくちゃ刺さりました。春美さんの「将来不安」もすごく分かるけど、逆に「まだ起きてない未来より、今の相手の気持ちを軽く見てない?」って指摘は確かにその通りで、どっちの立場も分かるからこそ胸が痛い。年の差婚のリアルな葛藤、西原さんの描き方が本当に巧いなあ。続きが気になります。