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ゾムの手は温かい。
でも、それが“優しさ”ではないことを、ショッピは知っていた。
「ゾムさん。……これ以上、馴れ馴れしくされると困ります。」
「なんで? 嫌いなん? 俺のこと。」
一拍の沈黙。
ショッピはそのまま、相手の手を払いもせず、ただ視線だけをそらす。
「……嫌いではありません。ただ、私は……」
「俺が好きや、って言ったらどうすんの?」
低く囁かれた声に、ショッピの指がぴくりと震えた。
けれど、その表情はいつもの無機質な敬語の仮面のまま。
「おやめください。冗談のつもりでしたら、不快です。」
「冗談ちゃうで。」
ぴたり、とゾムの手が強くなる。
繋いだ指に、爪が食い込むほどの力がこもる。
「俺は、誰にもショッピを渡すつもりない。
敬語でも、壁作っても、全部壊してやるから。」
「……お言葉ですが、そういうのは“重たい”と称されます。」
「重たくてええよ。軽い気持ちでお前を好きになるわけない。」
逃げ場なんて、最初からない。
そう思った瞬間、背後のドアが静かに開いた。
「またゾムか。やりすぎはダメだって言ってんのに。」
鬱先生がため息混じりに言った。
その腕には何かの紙袋。中身は、ショッピの好きなあの和菓子だ。
「おい、ショッピ。疲れてない? 甘いもん買ってきた。」
「……ありがとうございます。でも、別に疲れてはおりません。」
「そういうとこが、しんどいんだって。お前、ちょっとくらい頼ってもええんやで?」
「遠慮しておきます。」
にこりと笑って、ショッピは一歩だけ後ずさる。
けれど、その背中はもう壁にぶつかっていた。
どこにも、逃げ場なんてない。
──“溺れる”なら、いっそ早く沈んでしまえばいいのに。
心の奥に浮かんだその言葉を、ショッピは噛み殺した。