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キャスリンはソーマに付き添われ自室に戻っていく。その時ソーマから話しかけられた。
「若奥様、カイラン様とお話し合いをすることはできませんでしょうか?カイラン様はまだ若い、若奥様への言葉をきっと後悔します。今は夢を見ていると思うのです」
ソーマはカイランを赤子の頃から知っているのだから並々ならぬ感情を持っているのだろうことはわかっている。この優しそうな執事の言うことを聞いてカイランと話し合い説得し子を生す。それは私も考えた、でもカイランがリリアン様へ操を捧げる強い想いと同じくらい私はカイランを拒否している。政略結婚なのだから愛人などいても当たり前の世界だ。だが、婚約期間からリリアン様に懸想したことを私に悟らせてしまう愚を犯したカイラン。もう少し隠せていたら、初夜であんなことを言わなければまだ私もカイランに寄り添えたのに。キャスリンの空色の瞳に涙の膜がはる。それに気付いたソーマはもう無理なのだなと悟った。
「申し訳ございません。余計なことを申しました。今の言葉は忘れてください」
ソーマはキャスリンに言い、今後のハンクとの計画は極少数の信頼できる者にしか話さないよう言い含める。
「わかっています。私のほうはジュノだけに話します。後は閣下の指示に従うわ」
キャスリンとてこの計画がまともだとは思っていない、ならば真実を知る者は少ない方が良い。自室に戻ると不安そうなジュノが待っていた。扉を閉めると直ぐ様ジュノに抱きつく。久しぶりの抱擁にたじろぐジュノだがしっかりキャスリンを受け止めその背を撫でる。
「閣下が…承諾してくれたわ」
抱き締めているジュノの体が強ばったがキャスリンの背中を撫で続けてくれる。優しい匂いに安堵し体を離してジュノと向き合う。
「閣下には怒られると思ったの。夫婦の問題ですもの。でも私の言葉をちゃんと聞いてくれたわ。あんなに怖い顔してるのに意外と優しい人なのかも知れないわね」
ふふ、と笑う私を見つめてジュノが頷く。安心したら涙がほろりと落ちた。これからが大変なのだ。ジュノに協力してもらい信頼できる医師を探さないとならない。それに社交にも出なければ、新婚夫婦としてはじめての社交を。
「夜会用のドレスを頼まないと…新婚だものカイランと合わせた方がいいのかしら、合わせないと変に勘ぐる人も出てくるかもしれないわね」
面倒だけれどカイランと話さないと。あの初夜からカイランとは会話らしい会話をしていない、二人きりにもなっていないのだ。婚約時代よりひどい関係になってしまった。案外向こうは今の状況を望んでいたのかもしれない。
「夜会用の衣装を決めたいとトニーに伝えてくれる?」
トニーはカイランに一番近いところにいる人物だ。今の二人の関係を知っているはず、トニーはカイランになんて言っているのだろう。常識人らしい執事兼従者。ならば諌めたであろうが聞き入れられなかったのか、まさか応援している…ゾルダークの人間ならそれはないかしら。
ジュノがトニーに伝言を伝えに行く。私はソファに座りハンクのことを思い出していた。私は立ったまま話をしていたから私の方が目線を下げたのに座っていたハンクはそれでも大きいと感じた。存在感なのか体の厚みなのか自分が小さくなったようだ。カイランよりも背が高い。貴族院の中心人物なのだから剣を嗜んだりはしてないはずなのに痩せてない。父とは違う。夕食の時今までとかわらない態度をとらなくては、カイランに気付かれたらこの計画はどうなるかわからない。そんなことを考えているとジュノがトニーを連れて戻ってきた。私はトニーに向かいのソファに座るように促すがトニーは立ったままでよいと言う。なのでそのまま今度の夜会用のドレスを揃いで準備したいこと、カイランの意向も知りたいと伝えるとトニーからは私の好きなようにとカイランからの伝言を口にした。彼も夜会のことは頭にあったようだ、それを聞いて安心した。ならば揃いの衣装にしようと話すとトニーが申し訳なさそうな目で私を見ていることに気づいた。彼は私を哀れんでいる。きっとカイランを諌めたのだろう、けれど徒労に終わったということだ。そうよね、普通もう結婚した女性を想い続けるなんて世迷言を実現しようなど頭がおかしいとしか…思わないわよね。
衣装の色や形は任せてもらうから採寸だけはよろしくとトニーに頼んだ。これを機に数着作ることも伝える。トニーは深く頭を下げ退室していった。
「ねぇジュノ、最初の夜会はどちらだったかしら?」
ジュノが抽斗から招待状を数枚取り出し確認する。
「ハインス公爵家です」
この国には三つの公爵家がある。ゾルダーク、ハインス、マルタン。ハインスは現王の妃、ジュリアン・シャルマイノスの生家にあたる。
王妃の生家で新婚のゾルダーク小公爵が初参加するのだから気合いが入るもの。やはり、互いの色の衣装にすることに決めた。私の瞳とカイランの瞳、空色と黒を使ってお金をかけて、けれどもシンプルな揃いの衣装にしようとジュノと話し合った。カイランは好きにしていいと言ったのだから好きにしようと色々な装飾品も購入することにした。