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「……ガ、アァァ……!!」
父・誠の形をした巨大なシステムが、苦悶の叫びを上げる。
ドーム全体に鳴り響く私の心臓の音——
ドクン、ドクンという生身の脈動が
計算し尽くされた無機質なエデンの秩序を、内側から確実に破壊していた。
激昂した父が放った、光ファイバーの槍。
死を覚悟し、目を閉じた私の前に、影が割り込んだ。
「……九条、さん…?」
九条さんは意識を取り戻したわけではない。
その瞳は未だ閉じられたままだ。しかし、彼の右目——
かつてパンドラの隠しフォルダが置かれていた場所から、眩いほどの青い閃光が溢れ出していた。
九条さんの体内に残ったシステムの残滓が、私の鼓動に共鳴し、無意識の防衛本能として彼を動かしていたのだ。
「……バカな……!脳を初期化したはずだ!なぜ、その体がまだ動く!?」
『——パパ。パパが教えてくれたんでしょ? 「愛」も「憎しみ」も、ただの電気信号だって』
蓮が血の滲む指でタブレットの最終実行キーを叩いた。
私の鼓動、九条さんの残存システム、そしてミチルが遺した管理権限。
その三つが一つに重なり
ドーム中央のサーバータワーに向かって、目に見えない巨大な「静寂の衝撃波」が放たれた。
「……ぐ、あああああ!! 止めろ止めろぉ!! 私の、私の完璧な世界が……!」
父の意識が投影されていたモニター群が次々と粉砕され、ドームを支えていた構造材が、悲鳴を上げて崩落し始める。
私はスマホを胸に当てたまま、九条さんの背中に縋りついた。
温かい。
システム化し、永遠の若さを手に入れた父の体よりも
傷だらけで熱を出している九条さんの体の方が、ずっと「生」の重みに満ちていた。
その時、サーバータワーの根元から、一人の「人間」の姿をしたものが吐き出された。
それは、データとしての肥大化に耐えきれず、システムから切り離された、父・誠のオリジナルの肉体だった。
10年前と変わらない姿だったはずのその肉体は、接続を絶たれた瞬間に、見る間に老い、朽ち果てていく。
「……し、栞……。助けてくれ…私は、……お前たちの、……父親だぞ……」
醜く老いた父が、地面を這いながら私に手を伸ばす。
その手には、かつて私を抱き上げた優しさも、母を愛した情熱も、何一つ残っていなかった。
私は、もはや声の出ない喉を震わせ、唇の動きだけで彼に告げた。
(——さよなら、……パパ)
ドームの崩壊が臨界点に達し、頭上の海が、重圧に耐えかねてコンクリートの亀裂から溢れ出してきた。
深冬芽以