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七、竜の名
少し興奮気味のミィアの話を、ドラゴンは時折頷きながら聞いてくれた。
《転生してまだ、数日とはな。ふむ……闇魔法は使えるか》
「属性は取ってるけどぉ、スキルはまだ覚えれてないの」
ミィアはこれ系の話になると、目の色が変わる。
指輪をこすって手帳を出し、スキルのページを開いてドラゴンに見せた。
「これ~。スキルはいっぱい貰ったけど、発現方法が分からないのけっこう多くてぇ」
《これはまた……属性もスキルも、随分と貰ったものだな。最高神殿は機嫌でも良かったのか?》
ドラゴンは首を傾げた。
普通は、ひとつふたつをこれ見よがしに授けて、それで終わりのはずだと言って。
《魔法ではなくて、全てスキル扱いか。魔力切れの無いチートの中のチートを、こんなに……一体何者だ、お前達は》
「よくわかんない」
リィナは話についていけないので、隣でミィアを眺めていた。
ドラゴンが敵でなくて良かったなとか、ゲーム系の話が出来る相手で良かったなとか、そんな事を思いながら、そしてホッとしていた。
《とにかく、闇魔法はある意味、その言葉通りだ。闇鍋というやつだ》
「闇鍋って、ごちゃまぜガチャみたいな?」
《ガチャとは何だ。まぁ、言っている物事の、本質は伝わっているらしいが》
そして続けた。
闇属性の魔法やスキルは、例えばアイテム収納であったり、念動であったり、脈絡も法則も無茶苦茶なものという意味で『闇』であると教えてくれた。
つまり、暗闇を操るだとか、そういう魔法ではないと。
それをとなりで聞いているリィナは、「ぶっ壊れじゃん」とつっこんだ。
「あ~。リィナもゲーム用語知ってるじゃ~ん」
「いや、知らんがな」
《ハッハッハ。よく分からんが、面白い言葉を使う。だが確かにその通りだ。概念がぶっ壊れている》
「でもぉ、それじゃ、ミィアもアイテムボックス的なの、使えるのかなぁ」
《きっかけはイメージだ。それをこの世界が認めるかどうか、法則もよく分からんがな。恐らくは使えるだろう》
「じゃあ~、鞄とか買わなくて、よかったぁ?」
「いや、この数時間だけでも必要だったでしょうが」
「あ、そっかぁ」
ドラゴンを恐れていた二人はもう居ない。
完全に、普通の友達のようにしている。
「ところでぇ、ドラゴンさんは、お名前とかあるの~?」
《ああ……もう忘れてしまったな》
「え~? けっこうお年寄りさんなのぉ?」
《ハハハハハ! そうだな。もう百年はこの姿だ》
「おじいさんだぁ」
「ヤバ……。ミィア、口を謹んで?」
《構わんさ。違いない》
ドラゴンはいつの間にか、その長い首を下げて目線を合わせるようにしてくれていた。
それでも二人は見上げる程なのだが、真上を見上げるよりははるかに楽になった事だろう。
「でも~。何かじゃあ、お名前つけたげる~」
「え、勝手にそういうのやめなさ――」
「ブラン! なんか頭に浮かんだから、ブランがいい!」
「え、それって……」
《……白か? どういう意味だ?》
「しろぉ? どゆこと? 思い付いただけだよぉ?」
真っ黒な竜に、白という意味の言葉。
だがミィアは偶然か、その音の響きだけを贈ったようだった。
《フッ。いいだろう。ブランか。覚えておこう》
「覚えててねぇ? ブランは、ブランの名前なんだからぁ」
「ミィアさんの強心臓やばすぎ……」
《さて、今日はそろそろ休むといい。眠る場所を作ってやろう。ついでに、闇スキルを見ておくといい》
そう言うと、ドラゴンは中空を指先――その鋭い爪の先でなぞると、空間が割れて小屋が現れた。
それは小洒落た外観の、白くて煙突のある小屋だった。
ゆっくりと、岩肌の地面に着地すると、扉が開く。
中は光る石で照らされていて明るい。
《泊まっていくといい。中のものは好きに使え》
「なにこれぇ~!」
「闇過ぎ……どういう理屈なのよ」
《そういうのは、考えるだけ無駄というものだ。そして、ミィアも使えるようになるだろう》
「使えるようになりた~い! そしたら、毎日ここで眠れるし~!」
「うわぁ……。テーブルもソファも、おっきなベッドもある……」
《二人分くらいの小屋だ。遠い昔、俺が作った。食材も腐らんから重宝した》
「した……って、もう使ってないの? ドラゴンさん」
リィナが質問している間にはもう、ミィアは中に入ってはしゃいでいる。
《ああ、もう使っていない。だからミィアがこの時空魔法を覚えられたら、譲ってやろう》
「えーミィアがんばれ……。てか、ドラゴンさんは、なんでここでじっとしてるの?」
《龍脈は分かるか? 久しぶりに見つけた穴場でな。気の流れがとてもいい。これが俺の食事みたいなものだ》
「じゃ、お食事中だったんだ?」
《そういう事になるか》
「……あの。優しくしてくれて、ありがとうございます」
《フ。気にするな。お前も中に入って休むといい》
促されてリィナも入ると、ミィアはベッドにダイブしただろうそのまま、スヤスヤと眠っていた。
「眠いって言ってたもんねぇ」
大きなベッドは、斜めに飛び込んだミィアの横にまだ眠れるくらいで、リィナも隣に並んで目を閉じる。
明け方に近い時間まで起きていたせいで、その瞬間に意識は途絶えた。
閉め忘れていた扉を、真っ黒な竜が優しく閉じる。
《ブランか……面白い名をつけるものだ》
おそらくは人であった彼は、新しい名を気に入ったらしい。