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よくわからない時は、必殺”自分に置き換えて考える……”だ。
こんなことも経験がなさすぎてパッと自分で判断できないのが、痛いところで。
(えーっと、この場合、俺に内緒で八木さんと二人で会われるわけだろ? そんで知らないところで連絡取り合ってたり……立花に)
頭の中に状況を思い描いただけで。
(……死ぬ、確実にダメージ喰らって死ねる)
結構早いこと、答えに辿り着けた。
「それ、二人で会うとか、連絡取り合うとか。嫌がる奴いるんじゃない?」
坪井は真衣香のことを思い浮かべながら、優里の口から言わせようと敢えて問いかける。
優里は再び当たり前だというように、大きくうなずいた。
「ああ、真衣香はそりゃ嫌でしょ。だから黙っといて」
「いやいや待ってよ、そっちのが後々まずいでしょ」
「何が? 坪井くんがうまくやれば芹那と会うのは一回きりじゃない。真衣香には知られることないまま終わらせられるでしょ? 違う?」
どことなく嬉しそうに言う優里をじっと見つめる。
真意こそ不明だが、優里は自分と真衣香を”別れさせたいのだろう”と、それだけは、やはりわかる。
そして、どこからその自信がくるのかはわからないけれど”一回で終わるわけがない”と思っての発言でもある。
(あんまり考えたくないけど……マジで青木がまだ俺に気があるとか、それか二人して嵌めようとしてるか)
後者はさすがにないだろう……と、坪井は早々に自分の問いかけに自らで答えを出した。
芹那の気持ちに関しては正直予想もできないが、目の前の優里が、芹那のために一方的に真衣香を傷つけたいのだとも思えない。
(俺に向けてる怒りが演技じゃないならね)
いまいち真衣香以外の女はどこからどこまでが本心で本心でないのか。掴めないし、知りたいとも思わないから。
こんな時には困ってしまうものだと学んだ。
(いや、落ち着け、困ってる場合じゃないから)
坪井は前髪を掻き上げながら天を仰いだ。
優里の言葉に反応を返し過ぎだ。
坪井は上を見たまま軽く息を吸い込んで、静かに吐く。
頭に酸素を入れ、自分のペースを取り戻したかった為だ。
青木芹那の名前が出てからの自分は、やはり焦っていた。
(……とりあえず、この女が言ってること結構無茶苦茶だろ。何素直に話聞いてんだってバカか)
空になったコーヒーカップを二つトレーに乗せて持ち上げ「出ようか」と短く言い、歩き出す。
後ろをついてきている優里へ、返却口にトレーを置きながら話しかけた。
「なあ、優里ちゃん知ってる?」
カツカツとヒールの音を響かせながら優里が気怠そうに答える。
「何が?」
「間違える人間って大体自分の中での優先順位、定められてない奴なんだよ」
互いに前を向いて、目を合わせずに進む会話。
自動ドアが開いて、数歩違いで店の外に出た。
「今話してて、青木と立花。優里ちゃんがどっち向いてんのかわからないんだよね」
「な、何それ、どーゆうこと?」
気怠そうな声から一転。優里の強張った声は、それを認めているのと同じだ。
「優里ちゃんの中でも多分、わかってないよね? じゃあ結果として立花が傷つく可能性もあるわけだ。結果読めてない奴が他人を動かそうなんて、やめた方がいいよ。それ絶対後悔するから」
振り返らずに長々と喋り続けたが、表情を見ずとも優里の機嫌が急降下していったことには、十分気がついた。
長ったらしく、そしてわざとらしくため息をついた後小さな声で「めんどくさ」と呟いたから。
その後負けじと優里は声を張り上げた。
「なんの話かよくわかんないけど、坪井くんはとりあえず立場的にもうちょっとさ」
「立場も何も、開き直って言わせてもらうけど!」
坪井は優里の声に被せるように声を荒げる。
優里の上からな物言いに、いい加減うんざりとしてきたからだ。
「俺別に青木芹那に対して犯罪犯したわけじゃないの、わかる?」
怒気を大いに含んだ声のまま振り向いて、きつく睨みつけた。
それを見て、ようやく優里は黙る。
「そりゃ、もちろん俺に落ち度があったし、優里ちゃんの身内を傷つけた。それは認める」
ジリジリと距離を詰めたなら、その分優里は後ずさる。
「でも、俺からすれば、だから何? って逆に言いたくなるけど。それ立花がいないとこでこそこそ動き回る理由になる?」