テラーノベル
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研究者として、コウと接していたユキナリ。あまりにも人間らしいその姿に良心が痛みながらも、研究者としての職務を行っていた。
ある日いつものように収容室に入ると、コウはじっとユキナリの目を見つめてゆっくりと瞬きをした。
ユキナリはどうしたのだろう思いながらも、目を合わせて微笑むと、コウはその日から恋人のようにぴったりとくっついてくるようになり、以前よりもエネルギー量が高く抽出できるようになった。
そして、ある日の晩、ユキナリは押し倒されて深く口づけをされて、そのままコウに食べられてしまいそうになった次の日に、前日より格段にエネルギーを抽出できたことを知る。
それをユキナリは、『性的興奮によって、より多くのエネルギーが放出できるようになる』という仮説を思いつき、それを確かめるために実験を行うことになって…。
ユキナリ
とある実験施設の研究者。特殊な実験動物であるコウの担当をしている。無人研究所に単身赴任させられた不憫。
コウに名前をつけ、情を持ってはいけないと理解していながらも、非情になりきれずにいた。
コウ
被験体名 ko-u-0201。
とある実験施設に幼生の頃に保護(捕獲)され、観察下に置かれている実験動物。人間の少年と変わらない姿をしているが、二本の白い尾が生えていて、ふわふわと宙に浮く。
言葉は話せないようだが理解はできるらしく、意思疎通は可能。しかし、ユキナリ以外と話す気はない。
うどんと猫に強く興味を持っている。
特殊なエネルギーを抽出できる。
トモヤ
被験体名 tomo-ya-0200
人間のふりをしていた人狼系実験動物。ユキナリとは友達だった。
二十年もの間人間のふりをしてきたので、人間に関する言語及び知識はそれなりにある。
捕獲された先でユキナリと思わぬ再会を果たし、諦めていた感情を持て余していて…?
実験を継続していくうちに、命と貞操の危機を感じ、このままだと不純異類交流をしてしまうと真剣に悩み始めた頃、ユキナリは息抜きで作った発明が世に認知され、少しずつ研究成果が認められるようになった。
エネルギーの開発や、研究成果によって人手が増え、施設も大きくなり、管理人としての忙しさ故にコウの元に行かなくなったユキナリ。
それがどんな結果を招くか知らずに…。
とうとう悲劇の日が訪れることになる。
***
時が、来た。
***
施設がパニックを起こした。たった一体の実験動物による脱走によって、同時に引き起こされたトラブルは数知れず。発狂による同士討ちになり、施設に搭載された機械は正常に動かず、そして逃れられない死の檻となっていった。
管理人室にいた、否、閉じ込められていたユキナリは監視カメラの映像により、他の研究者たちが次々と死亡していく様を青ざめた表情で震えながら見た。
動くものはもはやカメラには映っていない。…脱走した元凶を除いては。
それは、真っ直ぐユキナリのいる管理人室に向かっている。ふわりと浮遊し、白い二つの尾を揺らめかせながら。
「っ…!」
ユキナリは考える。現状の打開策を。
もしもの時のための武器は持っている。人間では勝てない実験動物相手でも、電撃ダメージを与えられる拳銃だ。しかし、これでコウを対処できるとは思えない。確実に致命傷を与える必要がある。
「そうか、感電…!」
火災を起こして、スプリンクラーを作動させて、電撃を放つ。それならば全身に電撃が行き渡り、致命傷を与えることができるはすだ。
彼がシステムにバグを与えたのは、シェルターなどの移動経路であり、防災に関するシステムには改竄の痕跡はなかった。
ありったけの燃えるものを集めて、火を放つ。黒い煙をなるべく吸わないように、身を屈めて、銃を携えたユキナリはそれを待つ。
自分で撒いた種は、自分で摘む。
そう、決意して。
***
…———————結果。
管理人室に入ってきたコウは一瞬だけ炎に動揺し、スプリンクラーの水を浴びた。その隙を狙い、ユキナリは引き金を引いた。
そして、大きなダメージを与えることに成功したものの、致命傷には至らなかった。
しかし、彼に関する情報を持つのはユキナリだけである以上、ここで死ぬわけにはいかない。協力を仰ぐ以外に方法は無い。
怯むコウの横を駆け抜けて、ユキナリは走りながら考える。
ならば、緊急脱出経路を使用するしかない。施設のシステムとは、別に作られたところであるため、逃げに徹すれば手負いの実験動物相手でも脱出は可能だとユキナリは計算した。
翡翠の瞳がギラリと光る。
憤怒と、執着と、とびきりの愛情を込めて。
***
避難経路は潰された。ちょうどユキナリの目の前で、ぐしゃりと潰れた希望に、ユキナリは膝から崩れ落ちた。
そのユキナリの元に歩み寄るのは、他の実験動物や研究者たちの返り血を浴びたコウ。最後に見た時よりも、格段に成長していた。
「鬼ごっこは、終わりか?」
冴えた瞳と血に染まった鋭利な爪を光らせて、座り込んでいるユキナリに問うが、逃げる素振りを見せたので、ブンと肥大化した爪を振り下ろした。…わざと当たらないようにずらして。
「まあ、俺も飽きたところだ。良かったじゃないか」
口調はあくまでも何でもないように。怯えるユキナリを傷つけてしまわないように抱き抱え、コウは自分の部屋に戻る。
扉はハッキングによって開けたので、この部屋だけは傷はそんなに…否、ユキナリが来なくなってから暴れたことが何度かあるので、傷はそれなりにあるが。
明るくて白かった部屋は、薄暗く黒くなっていた。まるで、ユキナリが来なくなった後のコウの心を表しているようだった。
寝床にユキナリをなるべく優しく置くと、ユキナリは逃げるように奥へと後退りした。…コウは内心手間が省けたと嗤ったが。
「お前のせいで俺は散々な目にあった」
ある日突然、見知らぬ連中が収容室に入ってきて、指示を聞かなければ暴力を振るわれ、薬を打たれ、…他にも思い出すだけで吐き気がするようなことをされた。
「俺は、お前とずっと二人でいられたらそれで良かったのに」
先に裏切ったのはお前だ、とコウは言う。
そんな仕打ちにも耐えられたのは、ユキナリがまた来てくれると思っていたからだ。あの日、目を合わせて微笑んだユキナリは番なのだから、と。
…そんなことはなかったわけだが。
「あいつと遊ぶのは楽しかったか?」
自分が痛みに耐えている中、ユキナリは別の奴から求愛されていた。それを自分と同じように受け取る様を、待ちきれなくてユキナリを探して脱走した時に、目撃したのだ。
…コウは、肥大化した爪を元の大きさに戻す。
愛しい番を愛でるために。
巣の奥で、震えるユキナリを押さえ付け、マウントを取った。
「いっ…いやっ…やだ、やだよ…!」
首を振り、もがきながら涙を流すユキナリにコウは静かな声で、告げる。
「俺はずっと、待っていたんだ」
お前が嫌だと言うから、心の準備ができるまで待っていた。
「邪魔な奴らはもういない。これ以上、待つつもりもない。…大丈夫だ。お前が浮気したことも、殺そうとしてきたことも、逃げようとしたことも」
びり、びりとユキナリの服が鋭利な爪で引き裂かれ、薄い腹が顔を覗かせた。
「お前が孕めば許してやる」
コウはユキナリの胎内を見据えてそう言った。
コウ
被験体名 ko-u-0201。
施設に保護された実験動物。人間のような姿をしているが、それは擬態によるもの。本来は、白い化け猫の姿をしている。
爪の大きさは変化でき、夜目も効き、身体能力はピカイチ。
言葉を話せないフリをしていただけで本当は理解できている。機械知識が豊富。
目を合わせて、瞬きするのは『大好き』というサインである。
・実験内容 0
明日から実験を開始することになっちゃった…。
彼が俺を…その、いろんな意味で襲ってきた次の日に、抽出されたエネルギーが倍の量蓄積されていたのを見て、一つの推測が浮かんだ。
彼は興奮することによって、抽出されるエネルギーが増えるんじゃないかって…たぶん、えっちな意味で。
対象が何で俺なのか分かんないけど…いや、分かんないからこそ、この実験をしなくちゃいけなくて…。
ここ俺しかいないから、如何わしいこと全部俺が彼にしなきゃいけないってことだから…。
うう、罪悪感とストレスでお腹がキリキリする…。
・実験内容 1
今日は身体検査を行った。
身長とか体重とか、調べた後に催眠ガスで眠らせて、…生殖器の有無とその情報を調べました…。
彼はその…幼い少年の姿をしてるから、やってる俺が悪いことしてるみたいで…申し訳なくなっちゃって…。
えっと、身長も体重も小学生低学年と同じくらい。二本の白い尾には、ツヤツヤの毛が生えていて、本人にとってもチャームポイント…らしい。言葉が通じないからなあ。何言ってるかはまだ分からなかった。
服のように見えるのは毛。ぱっと見、白くて長いコートと黒いズボンを履いてるように見えるけど、全部毛だった。ふわふわしてた。触り心地は抜群!
目はミントブルーで、暗いところで光る。睡眠時間は少ない方。夜行性なのかも。あ、あと髪の毛で分かりづらかったけど黒い猫の耳があった! あっちの双葉は寝癖らしい。や、ややこしい…!
それから鋭い歯と爪がなかなか殺傷能力を持っていて、彼も歴とした実験動物なんだなあって思った。
…えっと、その、生殖器、なんだけど…なんかトゲが生えてました。年相応?の大きさだったんだけど、そのトゲにびっくりして俺、カルテ落としちゃった…。
・実験内容 2
前回のデータと照らし合わせてみた。
やっぱり彼は化け猫系の実験動物だから、猫が喜ぶことは彼も喜ぶのかな?
そう思って、ごろごろ喉を鳴らして甘えてくる彼の…尻尾の付け根をトントンしてみたら、彼の全身がぴくぴくってして、もっとって言うように俺にさらに引っ付いて来た…。
目がとろん…ってして、俺の…胸の辺りを揉んできた。何故か。彼が満足するまで、好きなようにさせて、研究室に戻ってから調べたけど…あれはたぶん子猫がよくやるやつだってことが分かった。母猫のお乳の出を良くする…って、…え、待って。俺、お母さんだと思われてるの!?
・実験内容 3
た、大変だった…!
前回みたいに好きなようにさせてたら、あの鋭利な爪でシャツを引きちぎられた…! それで、俺の胸を吸ってきて…俺はお母さんじゃないから、そこからご飯は出てこないよ!!
…それで、引き剥がそうとしたら、割と本気で噛まれたから、また彼が満足するまでされるがままでいた…。赤ちゃんに授乳する世のお母さんたちってすごいんだなあ。
…この仕事に就いてから、実家に帰れたことないなあ…ってしんみりしてる場合じゃない! ちゃんと仕事をこなせば有給だってとれるはず!
それにしても左乳首が痛い…右もなんか変だし…まさかコウくん、俺のこと雌猫にしようとしてる?
…そんなわけないか。
・実験内容 4
前回からだいぶ日が経って、彼は中学生くらいの大きさになった。発育の良さに、ちょっと驚いたけど…なんか力では勝てなくなりそうだな。遠隔実験の準備もしておかないと…。
今回の実験は…自慰を教えること。本部が言うには、自家発電ができるに越したことはないらしい。…俺もその方がありがたいけど、それを教えるのも俺だから、どちらにせよ対面方式なんだよなあ。
抵抗されることを予測して、痺れ薬を打った後、台の上に拘束して…なんか乱暴してるみたいで嫌だなあって思いながら、彼のそれに触れた。
最初はびっくりした顔して、なんか叫んでたけど、次第にリラックスしていったみたいで、出した後はとろんとしてた。
それで…痺れ薬の効果が続いているうちに拘束を外して、その処理の仕方をレクチャーしたんだけど、効果が切れた瞬間、俺を引っ掴んで…所謂兜合わせみたいなことをされた。
言っておくけど、俺、本当に教えてないよ!? どこから学んだの!?
…き、気持ち良かったけどさ! それとこれとは話が別でしょ!?
・実験内容 5
もうコウくんというよりはコウさんって呼んだ方が良いかもしれない…。
たぶん高校生くらいの大きさなんだろうけど、俺の身長余裕で越したし、なんか体格もがっしりしてる…同じ男としてなんか悔しい…。
収容室に入るたびにくっつかれて、実験が行えないから、遠隔実験を行うことにした。
『催淫ガスの散布』。あの部屋に、それを行うことを命じられた。
ガスに使われる催淫剤は極力薄めたものだけど…効果は、それでも大きかった。
発情した彼は苦しみ出して、その場に残しておいた俺の白衣を抱きしめて、懸命に耐えていた。
その様子に居たたまれなくて、俺はすぐにガスを除去して、収容室に入って解毒剤を打とうとしてしまった。
俺は、彼にすぐさま、寝床に押し付けられて、それで…
…とにかく全身が痛い。怠い。眠い。
身体中に噛み跡と引っ掻き傷があって、下半身が馬鹿になっていてもおかしくない。
皮肉にも、この実験でのエネルギーの抽出量が今までの中で最大だった。
***
以下略
***
・実験内容 N+1
息抜きで作った発明が世の中の需要に引っかかったらしい。
その功績からか、何人かの研究員と、新しい実験動物が来ることになって、この施設が大きくなることになった。
努力が報われたって事でいいのかな?
でも正直、ほっとしてる。
新しい人が来たなら、俺が…彼と行為をする必要はないってことだし。
…怖いんだ。だんだん、自分が自分じゃなくなるような感覚を、あの日、彼に抱かれた時から覚えてるんだ。行為をするたびに、塗り替えられていくような…。
とにかく! 俺は明日から研究者から施設の管理人に出世することになったわけだから、そんな難しく考えなくてもいいんだ。
ここ数年間、俺は他の人と喋ったことなかったからうまくコミュニケーションが取れるかが心配。
だってここ、人里離れた森の中だし…買い物も本部から送られてくるし、研究と実験の繰り返しだったんだよなあ。
…そう考えると、ここに人が増えるなんて、あの頃は思えなかったな。
よし、また明日から頑張ろうっと!
・被験体 tomo-ya-0200についての報告書
人狼系実験動物、tomo-ya0200は研究者として収容室に入った管理人を襲い、性的接触を行った。前段階の実験での催淫剤が抜け切れてなかった模様。
異常事態に気がついた職員が非常ボタンを押し、管理人を救出。tomo-ya0200は麻酔を撃ち、無力化した。
管理人は、激しい性行為を行われたらしく胎内に精液が溢れ返るほど注がれ、無数の噛み跡が身体中に刻み込まれていた。特に頸の噛み跡が中でも目立つ。
数日間は医務室での療養の後、通常業務に戻ることが可能。
その間、システムの欠陥がいくつか見られるため、技術班は修復作業を行い、今回の不手際を起こした研究班は反省文を書くこと。
加えて、暴走状態にあるko-u-0201への警戒及び対処を險ア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺?ィア縺輔↑縺
嗚呼、どうしてこんなことになってしまったんだっけ。
「あ”あッ…!」
濁点混じりの嬌声が暗闇から響く。
一定の温度が保たれた暗い収容室の中。涎を垂らした狼に貪られる人間がいる。
本来この二人は友人関係だった。しかし、長い間隠していたが、とうとう人狼であることが周囲にバレて、その結果実験動物として収容室に閉じ込められることになったトモヤと、新しく来た実験動物が旧友だと知らなかった研究者のユキナリは対等な関係ではない。目に見えない大きな差が存在している。
実験動物は人間ではない。だからこそ、倫理の外れた実験や研究を行う対象となる。それが研究者たちの共通の思考である。
ただユキナリにはどうしてもそう考えられなかったのである。完全に怪物の姿に変貌してしまったものはともかく、人間に限りなく近い存在を、そのように扱えなかった。…扱いたくなかったのである。
ユキナリがトモヤが実験動物だと知った時、驚いて困惑して、葛藤した。彼に行われてきた実験は、普通の人間ならば死んでもおかしくないほどの苦痛を伴うものだった。…ユキナリがいくらここの管理人とはいえ、できることは限られる。周囲の目というものは、あまりにも厄介極まりない。
結局ユキナリがトモヤにできたことは、積極的な手当てと、コミュニケーションだった。昔のように友達として、会話していくうちに彼が実験動物であることなんて忘れてしまいそうになっていた。
だから、今日もユキナリは、彼の元に来ていたのである。…来てしまったのである。
…間が悪かった。そうとしか、言いようがない。
トモヤは、実験で使用された催淫剤が抜け切れてなかった。理性を殺し、本能を優先させるそれは、幼い頃から渇望してきた人間が目の前に現れたことによって、トモヤの衝動に火をつけたのである。
そこから先は、まるで獲物を喰らい尽くすように。
驚愕に見開かれたレモングリーンに映った自分は、化け物にしか見えなかった。
***
「っう、あっ、……っあああっ!!!」
如何わしい水音ともはや嗚咽混じりの喘ぎが聞こえる。
ユキナリは身体中噛み跡だらけで、ほぼ満身創痍である。
もう逃げられないユキナリの腰をトモヤはしっかりと掴んでいる。未だに催淫剤が抜けず、夢見心地のトモヤは目の前の存在が現実のものとも理解できずに、涎を垂らしながら奥へ奥へと腰を動かし続けている。
「はっ…はっ…好き、大好きっ! ユキナリくん、ユキナリくん!」
…息を荒げ、黒い尾をぶんぶんと振りながら。
唾液とユキナリのものが潤滑剤代わりにされ、性器と大差なくなった秘部がユキナリの意に反して、トモヤの雄を求めてきゅうきゅうと蠢く。
「あかちゃん、ほしい。ユキナリくんの…」
自分のものがユキナリの中に全て入りきらないのが気に食わないのか。そう言いながら、トモヤはユキナリの奥に入ろうとぐりぐりと押し込んでくる。その奥は、子宮などではなく結腸である。
「い、いやだっ…トモヤくっ…やめてぇ……っ、おねがいっ…ひぃっ!?」
時すでに、遅し。
勢いよく、押し込まれてこじ開けられた。
「か…はっ…!」
浅く呼吸するユキナリをトモヤはうっとりとした表情で見下ろす。ようやく、全部繋がれたのだと歓喜した。
「かわいい、かわいい。たくさん、産んでね」
僕らの子供を。
トモヤは譫言を本気で告げて、ユキナリの頸を思い切り噛んで、ラストスパートに入る。快感を得て、確実に目の前にいる相手を孕ませるために。
「やだ、やだ、いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ユキナリの絶叫と絶頂と共に、ごぽごぽと体内に放出された熱は、栓をされたせいで外へ出ることはなかった。…まあ、中にいたところで何も宿らないのだが。
「……あ、れ、ユキナリ、くん…? えっ…何、これ…どうして、僕…」
やっと催淫剤の効果が切れたのか、トモヤが正気に戻った。目の前の惨状に顔が青ざめる。
そして、二重構造の扉が開いて、向けられた銃口から銃声と共に飛び出してきたのは麻酔弾だった。
薄れゆく意識の中で、ぐったりとしたユキナリが白衣の人々に何処かへと連れて行かれた。
***
目を覚まして、正気に戻ったトモヤは死にたくなっていた。唯一の友達になんてことを。許されるはずもない。まるで獣のように。
「…最低だ…」
自分が実験動物であることを心底呪った日は今日ほど無いだろう。もう会いに来てくれないかもしれない。
「死ななきゃ…」
そう、決意した。トモヤにとって、ユキナリできるせめてもの償いであると考えたのだ。…妙に、身体がふらつくのは麻酔がまだ抜けていないからだろうか。
実験動物は死ににくい。それでも不可能ではない。自分で自分を殺すことくらい造作もないのだ。
「本当に、ごめんね。ユキナリくん…」
泣きながら鋭利な爪を、自分に向けた時、
…緊急事態を告げるけたたましいサイレンの音が鳴り響いた、
「な、何———————」
その直後。
トモヤを背後から巨大な爪が貫いた。
鮮血が飛び散り、立っていられなくなり、倒れたトモヤを見下ろす影が一つ。
見下すようなミントブルーの瞳を光らせた化け猫がいた。
昔の夢をたまに見る。
ユキナリ以外の人間、つまりは研究者を知らなかった頃。この白い部屋で二人きりで、過ごせていた頃。
親に捨てられていたところをいきなり何者かに攫われて、知らない場所に閉じ込められた時は、怖くて仕方なかった。
そんな時に現れたのは、ユキナリだった。警戒していた自分に、優しく微笑んで、頭を撫でてくれた。
帰る場所はどの道無いのなら、彼のそばを居場所にしようとコウが思ったのはこの時だった。
***
緊張した面持ちで、ユキナリの目をじっと見つめてくるコウに、不思議そうにユキナリは首を傾げた。
「コウくん? どうしたの?」
今日のご飯はうどんじゃないことがそんなに不満なのだろうか。それにしてはどうにも緊張を帯びた不安そうな顔をしている。
目線を合わせると、コウはゆっくりと瞬きをした。ユキナリも目を瞬かせる。すると、ミントブルーの瞳がきらきらと輝き、花が咲くかのようにぱあっと笑った。
「――――! ―――!」
なんかすごく喜んでいる。何がそんなに嬉しいのかユキナリにはよく分からないが、何だか微笑ましい気持ちになったので、頭を撫でた。
「やっぱり、今日はうどん作ろっか!」
ユキナリはデレデレである。否、デレッデレである。もはや猫好きが子猫に向ける表情をしている。…片や研究者であり、片や実験動物だが。
一緒に、というよりはコウがメインに作っているが、コウはいつも以上に上機嫌だった。
…ごろごろと喉を鳴らして、うどんを食べ終わったユキナリにぴったりとくっついた。ユキナリの腕に尾を絡ませて。
***
…そんな、幸せな日々が壊れたのは、突如二人の世界に入ってきたユキナリ以外の白衣の人間たちが現れた時だった。彼らにコウは思い返すのも嫌になる程、吐き気のするようなことをされてきた。…気が遠くなるほど。
そんなことよりも、ユキナリが来なくなったことの方が重大だ。探しに行こうとして、足を止めた。
視線の先にある自分の両手は、歪で、巨大で、生き物を殺すことに特化した凶器のような、鉤爪だった。ずっと目を逸らしていた疑問が、浮かぶ。
俺の手は、こんな形をしていたっけ。
さあっと血の気が引いて、咄嗟に周囲を見る。白かったはずの壁にこびり付いた血痕。至る所にある暴れてつけた爪痕。引きちぎって、破壊した手枷。…そして出ようとして、二重構造の扉に鏡のように映った自分を見て、ゾッとした。
「―――、———?」
怪物だ。人間に近しかったはずの姿は、人の形を保てていない。黒く染まった全身、白い二本の尾がぶわりと膨らみ、暗闇の中で不自然なほど光る見開かれた瞳孔には驚愕が映る。…それらを見て、コウは漠然と思った。
ユキナリが見たら、どう思う?
コウは扉から逃げるように後退り、壁にぶつかってずるずると座り込んで、俯いた。…そして、一頻り声も出さずに泣いた。
この日、コウは脱走を中止した。
やるべきことができたのだ。まずは、怪物染みた力のコントロールだ。弱々しい番を傷つけては元も子もない。
次に人間に擬態する方法。施設のハッキング方法、人間の言葉を話す方法。それらを学び、習得して…ユキナリとの間に巣食う邪魔者を全て排除しようと考えたのである。
全ては、愛する番の元に向かうためだった。
***
研究者たちに悟られることなく、機械のセキュリティを誤魔化して、コウはその日脱走した。とはいえ、最終確認のためのものである。
人間への擬態は完璧になった。白衣などを真似れば騙せる彼らに内心嘲笑ったが、バレたら全て水の泡である。警戒は最後まで怠らない。
人の言葉を学習して、会話も可能になった。やればできるものである。そして、同時に機械系統のハッキングもできるようになった。
凶器的な爪も出し入れができるようになった。…少々鋭い爪が生えてはいるものの、限りなく人の手に近いものになったのを確認して、安堵した。これならば、自分が気をつければユキナリを傷つけずに済むと。
少しずつ、計画の決行は目前となった。
***
ユキナリのにおいがしたから、そこに向かった。ただそれだけだった。何だか、胸騒ぎがしたから、においを辿って…辿った先で。
「…ッ!?」
そして、後悔した。
そこで、ユキナリは。愛する番は。
人狼とまぐわっていた。
人狼の収容室は、完全防音かつ実験内容が見られるようにガラス張りになっていた。
コウは数分間だけ、ショックで動けなかった。棒立ちになって、強化ガラス越しにその交尾に見入ってしまった。コウが凝視しているのに気づかずに、それを続けている。
…はっとして、コウは壁につけられた非常ボタンを押し、ユキナリが医務室に運ばれるのを見届けてから、収容室に戻った。そこまでは良かったのだが、衝撃と驚愕で思考の隅に追いやっていた憎悪と嫉妬が湧き出てきた。
じゃき、と爪が生えて、苛立ちのまま、壁に爪痕が増える。ザシュッ、ザシュッと壁が抉れていく。まるで、傷つけられたコウの心を表しているようで余計に怒りが湧く。
「…殺してやる…!」
殺してやる。殺してやる。殺してやる。
ぶつぶつと、呪詛のような殺意が爪から放たれる。
自分が耐えていた間、ユキナリが人狼の元に向かっていた。その人狼は、自分よりもユキナリにとって大切な存在だったのだと。それを、知ってしまって、もはや抑えが効かない状態になっていた。
全身が沸騰するかのように熱い。いつの間にか煩わしいサイレンの音が聞こえ、研究者たちがドタバタとこちらに来た。
彼らの手に持たれているのは実験動物に特に効果がある麻酔銃。しかし、その目には怯えが映る。それでは当たるものも当たらないだろう。
その様子に、冷笑を浮かべて、爪を光らせたコウは銃撃を避けた。そして、舞うように白衣を赤く染め、錆び付いた臭いを蔓延させた。
人間如きが、怪物に敵うと思わないことだと。
***
暗い部屋。壁に爪痕があり、ほのかに錆び付いた臭いがするその場所で、化け猫に貪られる人間がいる。
「やめ……っ、あがっ…うぐっ」
ユキナリの体内を、のしかかるコウのトゲの生えたもので蹂躙され、痛みを伴うがユキナリの意思に反してそこは悦びを感じながらきゅうきゅうと蠢いて、締めつける。
「嫌がるのは口だけか。そうやって、あの人狼にも媚びたのか」
責めるような口調のコウに怯えながら、うつ伏せのままのユキナリは逃れることができずに泣く。…肝心のコウは征服欲と独占欲、そして支配欲が満たされているが。
「(やっとユキナリと繋がれた)」
そして、感動もしている。
そもそも化け猫の性器についているトゲは、傷がつく程ではないがそこそこ鋭く、小さな返しがついている。そしてそれらは膣肉に突き刺さり、ピストンによって抉り、その衝撃で排卵を誘発させるためにある。
「ひぐっ、いたっ、いたい…うみたくないっ…!」
産みたくない、とユキナリが言うたびに眉間にシワを寄せて、コウはガツガツと腰を動かして、ユキナリを内部の痛みによって黙らせる。
「もう、ださないで…っ…いきたくない…いきたくないよぉ…!」
拒むユキナリの言葉を無視して、煮えたぎるような欲を放出する。溢れ返るほど注いだのだから、もう十分だろうと思わないでもないが、どうにもあの人狼との交尾を見てしまったからか、不安感が拭えず、また腰を振る。
…ちなみにコウは、ユキナリが排卵できるようにと、ユキナリをかつての自分のように施術台の上に拘束し、薬品を投与してきている。ユキナリはその薬品のことを理解していないので、それを理解するのは子を孕んだ時である。
「孕むまで、やめないからな」
そうでもしないと、負の感情のまま、ユキナリを食い殺してしまいそうだから。
これはユキナリのためでもあるのだと、コウは絶望しながら喘ぐユキナリに囁いた。
まだ、終わりは見えない。
***
長い長い行為の後。
ユキナリの腹部にぽこぽこと、『何か』ができた。研究者故にそれが何なのか理解し、青ざめた表情で震えるユキナリの腹を撫でながら、コウは心の底から嬉しそうに囁いた。
「あぁ、そろそろか」
身重となった身体は思うように動かない。けれど、首を振ってユキナリは拒む。
「や、やだ…産みたくない…産みたくないぃ…!」
泣きながらそう言うユキナリに、コウは慈悲深く微笑み、
「お前に拒否権は無い」
無情にもそう言い放った。そして、コウは先ほどの笑みを消し去って、爪を即座に表した。
恐ろしさと身重のせいで動けないユキナリに、伸ばされた手はギロチンのように見えた。
***
ユキナリは実験動物のようにベルトで拘束されている中、コウに秘部の中に指を突っ込まれる。性感を煽るような、掻き回すような動きに無意識に腰が動く。
「ふっ…うぁ…!」
「…はあ…やりにくいだろ。あとでいくらでも構ってやるから」
今は我慢しろ。
そう言いながらもにやりとしているコウは秘部を広げ、ユキナリの腹部を慎重に押した。何かが体内から出ていくような排出感に襲われる。
「あ、あぁ、いや、っあ! …な、何か、出てる…!」
ぺしゃ、と何かが出た。
「…ほら、卵。お前はちゃんと孕めたんだ」
コウが嬉しそうにタオルに包んで、困惑と混乱によってパニックを起こしているユキナリに微笑んだ。
卵。
白と赤と青が混ざった透明感のあるそれ。コウに注ぎ込まれたユキナリから産まれたそれ。
「…あ、ああ、あああああああああああああああー!!!」
それを見て、ユキナリは発狂して、一頻り絶叫した。コウは静かにその様子を眺めている。しばらくして、ユキナリが静かになったので、拘束を外して抱き上げる。
…ビリビリに服を引き裂かれ、ほぼ産まれたままの姿のユキナリを、容易に持ち運び、新しい収容室に入れた。昔、一緒に過ごしたようなあの部屋の再現である。
いつまでもあの荒れた部屋では、良くないだろうというコウなりの配慮だった。コウはユキナリに毛布をかけて、収容室から出た。
しっかりと抱きかかえている卵は孵化装置に入れるとして、ここが機能していると見せかけるために、偽装工作をしなくてはならないとコウは思考した。
愛しい番を守るためならば何でもできる。子供が孵ったら、会わせてあげよう。長い間一緒にいられなかった分、たくさんたくさん愛し続けよう。そう思うコウの白い二本の尾が、幸せそうに揺れていた。
…鮮血に染まった廊下を歩きながら。
終わり
『能力はあるのに、精神的に研究者に向いてない』。
そう言われて、ユキナリが飛ばされたのは、森の奥深くにある無人の小さな研究所。
そこで、ユキナリは本部から送られてきている…曰くユキナリでも対応できるとされる、ある実験動物の担当を任されることになった。良く言えば単身赴任。…悪く言えば、厄介者払いである。
「…ここがそうなんだよね。…はあ」
寂れた無人研究所を見上げ、ユキナリはため息をついた。
新たな居場所であり、実験動物の観察、分析、実験を行う職場であり、衣食住が揃った自宅となる。…所々不安な要素はあるものの、いきなりクビだと言われ路頭に迷わずに済んだことに、まず安堵した。
実験動物がどんなに恐ろしいものか、厄介なものなのかは、まだ薄らとしか知らないが、ユキナリはやるしか無いのである。
意を決して、収容室の扉を開けた。
***
白い部屋の中で、怯えるようにミントブルーの瞳を潤ませて、部屋の隅でひざを抱えている少年と目があった。
「あっ…」
驚いた。ユキナリが今まで見てきた実験動物は人ならざる姿をした怪物だった。だから、こんなにも人間に近しい姿をした実験動物が存在していたとは知らなかった。
「(お前でもできるってこういう意味だったんだ…)」
確かに子供相手にユキナリは怯えたりはしない。でも、非人道的に接することはもっとできなかった。
目の前で、怯えるように自分を見上げる少年が、危険性を孕んだ怪物であることを知らないフリをして、
「はじめまして、俺はユキナリ」
ユキナリは精一杯微笑んで、自己紹介をした。
「これから、よろしくね」
それが、研究者であるユキナリと、実験動物であるコウの、運命の出会いだった。
『それ』が後に、どんな悲劇と惨劇を巻き起こすか知らずに、ユキナリは『それ』の頭を優しく撫でた。
***
時が経ち、最初の頃は警戒していた実験動物…コウは、今では子供のようにユキナリに甘えている。
「―――!」
コウは笑顔でユキナリに何か言ってるが、ユキナリには全く分からないので、微笑みながらうんうん頷いて、頭を撫でている。嬉しそうにごろごろと喉を鳴らしているコウに微笑ましさを感じながら、ユキナリはこの先何を研究すべきかを考えていた。
ユキナリはコウの担当の研究者だ。それはつまり、彼に対して何かしらの実験を行い、本部に成果を示す必要があるのである。
研究テーマをユキナリが考え、実験を実行し、分析してデータ化したものを本部に見せる。やることは分かっているが、研究テーマが何も思いつかない。
「(酷いこと、したくないなあ…)」
血を抜くやら、バラバラにするやら、他の実験動物と組み合わせるやら…そんな、グロテスクな実験の助手をやっていた時は何度もユキナリは宇宙を感じていた。…コウにはそんなことはしたくない。
本当に、何をすれば良いのやら。
そういえば、初めて会った時に使用した翻訳機はポンコツ過ぎて役に立たなかった。だから、今では分からないなりにもコウとコミュニケーションを積極的に行なっているが…まずは翻訳機のリメイクに移った方が良いかもしれない、とユキナリが考えていると。
ザリッ!
「うわあ!?」
頬を舐められた。トゲのある舌は地味に痛い。ばっとコウの方を見ると拗ねたのか、不機嫌そうに二本の白い尾を揺らしている。
「―――、———————!」
何を言ってるのか分からないが、これだけは分かる。
「お、怒ってる…?」
耳がピコンと立った。…正解のようだ。
おそらくユキナリがいつものくせで考え事をしているうちに撫でる手が止まり、何をしようが反応しないものだから、自分のことを無視してきたと思ったのかもしれない。
「ご、ごめんね。ぼーっとしちゃって…」
ぷいっとユキナリと目を合わせようとしない。
どうしたものか、と考えていると、ふと身に付けていた時計が、研究室に戻らなくてはならいと示してきたことに気づく。
「あー、もうこんな時間か…本当にごめんね、コウくん。俺、仕事に戻らなきゃいけないから…」
最後にもう一度謝ってから、立ち上がって、収容室から出ようとするユキナリは白衣を掴まれた。
「―――…? …———、———?」
行かないで、というような泣きそうな目で、コウは見上げてきている。黒い耳と白い尾がしゅんと下がっている。
そんなコウを見て、ユキナリは安心させるように微笑んで、
「大丈夫だよ。夜には戻って来るから」
目線を合わせてそう言い、コウの強く握りしめている手から白衣を離させた。
二重構造の扉から、人の気配が消えた。
残されたコウは俯く。ユキナリが収容室から出て行ったのが分かると、寝床に戻った。そして横になると、強く目を閉じる。
「――――…」
目が覚めたら、ユキナリがそばにいることを祈りながら。
…時が経ち、穏やかな昼下がり。
植物だらけの廃れた研究所に二人は暮らしている。他に研究者はおらず、実験動物もいない。静かな場所。ここには二人しかいない。沈丁花のかおりを運ぶそよ風に心地良さを感じながら、二人はのんびりしていた。
「コウさん」
「どうした?」
二本の尾が『絶対に離さない』というように、腕に巻きついていることに苦笑いしながら、ユキナリがコウの名前を呼んだ。
普通実験動物は収容室の外には出られない。でもここにはユキナリしかおらず、ユキナリはコウのことを実験動物と思っていないため、自由にさせていた。…むしろ研究を手伝ってもらってさえいる。
「何だか、嬉しそうだから」
「…そう見えるか?」
首を傾げるコウにユキナリはくすくすと笑う。
「コウさん意外と分かりやすいから」
「…」
拗ねたのかぐりぐりとユキナリに擦り付いてきた。
「ふふ、くすぐったいですよ」
ぽふぽふと、頭を撫でると猫の耳がぴこぴこと嬉しそうに動き、ごろごろと喉が鳴る。小さい頃とそういうところが変わらないなあ、と思いながらユキナリは微笑んだ。
ぽかぽかの陽だまりが、二人を包んでいた。
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