テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
柘榴とAI

441
#没入感フィクション
柘榴とAI

391
柘榴とAI

298
「おぉ……なんか、大きい教会だ……」
イベント中、急に兄から連絡が入ったかと思えば。
なんでもoctopus8の担当さんからメールがあったとの事で。
両者共イベント参加中なので、お時間が合いましたら~程度ではあったのだが。
丁度同行していた9Kに相談してみた結果、この場所までバイクで送って貰った。
という事で、これまた一人になった私は……指定された場所で建物を見上げながらポカンとしてしまったという。
こう……まさに本場! って感じの、映画とかでしか見た事の無い様な、でっかい教会。
普段からoctopus8は、シスターさんの格好をしているって話だし。
もしかして、そういう設定を拘っているとか……それとも、本当にそういうお仕事をしている人だったりするのだろうか?
とにもかくにも、いつまでも玄関前でボケッとしている訳にもいかず。
両開きのドアを開いて中に入ってみれば……凄く、静かな場所だった。
「……お、お邪魔します」
聖堂? で良いのかな? お祈りとか捧げそうな、広い所。
長い椅子には結構な人数の方々が座っており、皆黙ったまま祈りを……捧げている訳では無く、手に持っているのはスマホ。
え、何コレ。最近は教会の中でもスマホ弄って時間潰しても良いんだろうか?
などと、変な所で疑問を抱いてしまったけども。
一人だけ椅子から立ち上がって、此方に向かって歩いて来た人を見て。
どうしてこの状況になっているかを理解した。
「え、えぇと……octopus8、さん。この度は、お声掛け頂きまして……」
私の目の前まで歩いて来たのは、いつか見た銀髪のシスター。
優しそうに微笑むその顔は、46leatherで見た時と何も変わらない。
つまりこの人がここに滞在しているから、周りの人たちはどうにか彼女のオフショットを収めようと集まって居る訳か。
そう考えると、無駄に緊張してしまいそうになるが。
「…………」
相手は無言のまま、スッと別の場所へと掌を向ける。
その先にあるのは……なんか、小さい部屋というか。
あぁ、もしかして“懺悔室”というヤツだろうか?
でもあそこに入っちゃったら、他のプレイヤーからは見えなくなっちゃいそうだけど……良いのかな?
私としてはありがたいけど、イベントとしてはどうなのだろう? なんて、思わず考えてしまったが。
彼女は何も言わぬまま、此方を先導するかの様にそちらへ入って行ってしまった。
そして私の方も、周囲の視線に内心ビクビクしながらも反対側から小部屋へとお邪魔してみると。
「こ、ここなら……ゲーム的なアシストが働いて、その……絶対に声が漏れません、ので」
相手の顔は見えないけど、カーテンに遮られた向こう側に居るらしいoctopus8の声が聞えて来た。
おぉ、こういう所だけはゲームっぽい。
普通だったら、相当な防音部屋じゃないと声の一つくらい漏れてしまいそうなのに。
「そう、なんですね……えと、初めまして。6key、です。あ、でも……サブキャラでは、一度会ってます。以前頂いたブーツ、ありがとうございました。その時の小さいのと、同一人物って言うか……えぇと」
「い、いえ……お、お役に立てた様なら、良かった……です。あの後、担当さんから凄く怒られて……セブンにもそうなのですけど、貴女にも、他の皆様にも多大なご迷惑を掛けてしまったって……本当にすみません。正直、生きた心地がしませんでした……絶対クビになるって、ここ最近ずっとビクビクしてて、その……」
「い、いえ! そんな事、私は全然っ! むしろアレのお陰で、サブキャラが最近楽しくて仕方ないというか……ほ、本当にありがとうございました! あ、あの! コレ、お礼と言うか……御挨拶の茶菓子程度な物なんですけど。作って来たので、良かったら……」
「わ、わ! 凄い、ありがとうございます! と、とても嬉しいです! ウ、ウヘヘ……」
先程キッチンで作って来たクッキーを、カーテンの下からスススッと差し出してみると。
向こうからは、凄く嬉しそうな声が聞えて来た。
クラフト機能で、オーブンの時間が物凄く短縮されていたのは助かった。
こうしてお土産も渡す事が出来たし。
というのと、何と言うか……こう、ちょっと相手のイメージが違ったというか。
凄く冷静な雰囲気があったり、4cardの話では全然喋らないって聞いていたのに。
今の所、そんな様子は皆無。
現状顔が見えていないから、余計にそう感じるだけなのかもしれないけど。
むしろ……私と、ちょっと近い感じがするのは気のせいだろうか?
喋る事に慣れていないというか、自分に自信がないタイプというか。
多分私もガンサバで皆と仲良くなっていなかったら、今でもずっと黙っていたかもしれないし。
などと思いつつ、お相手がポリポリとご試食なされている音を聞いていると。
「お、美味しい……です。グスッ、本当に、ありがとう……ございます。私、誰かから個人的にお土産貰ったのとか……初めてで……」
「え、え、え?」
勘違いじゃ無ければ、泣いてる?
声色からして、多分間違いじゃないよね?
相手の姿が見えないので、余計に慌ててしまったのだが。
「きゅ、急に呼び出しちゃって……ごめんなさい。わ、私……全然友達とか居なくて、リアルではダメダメで……けど、この前のイベントで。シックスの戦い方というか、雰囲気が、私と“同じ”なんじゃないかって。だから、もしかしたら……仲良くなれるかもって、思って……すみません、迷惑でしたよね……」
続く言葉に、ある種確信めいたモノを掴んだ気がする。
本人も言っている通り、この人……間違いなく私と“同じ”タイプだ。
こう言っては申し訳ないけど、ぼっち仲間だ!?
「あ、あのっ! 私で良ければ、全然! というか、此方も仲良くして頂ければ……その、嬉しいです! 今はこんな見た目ですけど、中身は同性ですので……その、ホント、私で良ければ」
「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます……とてもとても、嬉しいです」
物凄く意外だったけど。
賞金首の中に、私以外にも自信がないタイプの人を見つけてしまった。
皆なにかしらの“プロ”だし、凄い人ばかりだし。
こういう人達は、周りに対しても堂々と接する事が出来る人達ばかりだと思っていたのだが。
今の今まで物凄く緊張していたのが嘘みたいに、とても親近感が湧くお相手を見つけてしまった気がする。
◆
「す、凄いです! エイトはリアルでも物作りが得意なんですね!?」
「元々小物作りとか、そういうのが好きでして……その内電子部品とかも手を出し始めて、お仕事にも生かそうって思って、色々。建築系の資格とかも、取ったんですけど……なかなか、人付き合いが上手くいかなくて……ア、アハハ。情けない限りなんですけど」
「そんな事ないですよ! 私なんて、特技らしい特技もありませんし……それに人付き合いは此方も全然なので、気持ちは凄く分かるというか。けど仕事に生かそうって考えて、資格を取るのとか、行動力が凄いと思います! 尊敬です!」
「あ、ありがとう……ございます。シックスだって、どんどん上手くなっているのが分かるし、凄い吸収力だなっていつも思ってます。羨ましいです……それに、作ってくれたお菓子もこんなに美味しいし。女子力高いって言うか、私もこういうの出来たらなぁって」
「わ、私なんて全然ですけど……けど最近は、ちょっとだけ自信付きそうな出来事もいくつかあってですね。そういうのも含めて、ガンサバでもちょっとずつ自信を持つようになって来たと言いますか! あ、でも……シックスを“演じてる”時だけなんですけどね。ア、アハハ」
「それすっごく分かります! 私も賞金首としてロールプレイングしてる時だけは、担当さんからも怖いって言われるくらい自信持てると言いますか! ありますよね、“私達みたいな存在”だと!」
なんて、二人して盛り上がってしまった。
両者共自分には自信が無いのは相変らずで、お互いの事になると褒め殺しスタイルだけど。
それでもなんだか楽しくなってしまい、完全にトークに夢中。
よく考えたら、イベントとしたらコレはどうなんだ?
周りからすると、姿の見えない場所に入って、しかも声も聞えない状況となると。
流石に怒られるかも? などと思い立ち、会話の途中でチラッと端末を確認してみた結果。
「ブッ! や、やばいです!」
「どう、しました? シックス」
完全にやらかした。
端末には、兄からのメールや着信が多数。
今回は直接、というか強制的な通話を繋がないってルールがあったみたいだから、連絡を取るならコレしかなかったというのに。
お喋りに夢中になり過ぎて、まったく確認していなかった。
その結果、届いているメールには。
『夢月! 時間時間! そろそろ移動しないとヤバイぞ!』
という内容が、いっぱい。
そして現在の時刻を確認してみると……本日のイベント終了まで、残り数分という所まで迫って来ているではないか。
「エイト! この近くにログアウト出来るスポットは!?」
「え、え? あぁっ!? すみませんすみません! 完全に時間の事を忘れていました!」
どうやら向こうも同じ状況だったらしく、互いに慌ててバタバタし始めてしまった。
とりあえず懺悔室から飛び出し、教会内を確認してみると。
「っ!?」
「ま、不味いですね……ログアウト出来る場所、ちょっと遠いです」
聖堂に居た皆様が、待っていましたとばかりにギラギラした瞳を此方に向けて来る。
その手には、今スマホは握られていない。
代わりに皆……隠してある武器のグリップに握っている御様子。
コレ、イベント時間が少しでも過ぎた瞬間に二人共狩られるヤツだ。
それだけは、不味い。
「シックス! こっちです!」
目の前の人達を無視したまま、octopus8は私の手を引き。
急いで教会の外へと飛び出したのだが……そこには、更に多くのプレイヤー達が集まって居る。
不味い不味い不味い。
掲示板とかで情報交換は出来る環境だったみたいだし、私達のログアウトが遅れそうというのは知れ渡っているらしい。
しかしこの状況でも彼女は走り続け、教会の裏手まで向かってみると。
そこには、一台の大型バイクが。
更には……サイドカー? と言うのだったか。
隣に人を乗せられるヤツが付いている、非常にレトロなデザインのバイク。
そんな物に跨ったかと思えば、彼女はレバーの様な物を蹴りつけてブロンッ! と重たい音のするエンジンを掛けた。
「乗って下さい! 急いで街中に向かいます!」
「りょ、了解!」
そう言われて、こっちもこっちでサイドカーに飛び乗った瞬間。
バイクは前輪を振り上げながら急発進し始めた。
うわぁぁぁ! 二輪に乗った? のは初めてだけど、車より怖い!
というかサイドカーだと、視点が低すぎて余計に怖い!
「すみませんすみません! 私が呼び出したばっかりに!」
「い、いえ! 今回は私も話に夢中になっていたので、お互い様というか!」
どうにか叫びながら会話してみるが、その間もグングンと加速していく。
風圧が、凄い。
顔面が風で、あばばばってなる。
「どうにかシックスだけでも間に合わせる様に頑張ります、けど……ごめんなさい。戦闘準備、しておいて下さい……」
「で、ですよね……分かりました。とにかく、二人でちゃんとログアウト出来る様に頑張りましょう」
今回は、忙しくないイベントだった筈なのに。
私達の凡ミスで、結局いつも通りの感じになる予感がするのであった。
もぉぉぉ! 馬鹿ぁぁぁ!
こんな事なら、イベント前にちゃんと顔合わせしておけば良かったぁぁぁ!
コメント
1件
わあ、第72話読み終えました!もう、シックスとオクトパス8の懺悔室でのやり取りが可愛すぎてにやにやが止まらなかったです…!お互い「私達みたいな存在だ!」って盛り上がる感じ、すごく共感できました。自信がないタイプ同士だからこそ通じ合える空気感が丁寧に描かれていて、読んでいて温かい気持ちになりました。でも最後のバイクで逃走する展開、一気に緊張感が走って面白かったです!時間忘れてお喋りしちゃうのも、二人の距離が縮まった証拠ですよね。次が気になります!