テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「俺はお前とのこと、一切隠すつもりはないから別に構わんぞ?」
いけしゃあしゃあとそんな返しをされて、瑠璃香は言葉に詰まった。
「い、嫌ですっ! 下手にばれたら私、抹殺されます」
「――?」
決死の覚悟でそう叫んだらきょとんとされてしまう。
(ホント、鈍感で嫌になる!)
鬼課長だなんだのと、課内では有名な晴永だが、他部署の人間からは見た目がいいおかげで密かに追っかけ部隊ができるほど人気がある。
そんなイケメン課長様を独り占めしてしまっただなんて知られたら……恐ろしいことこの上ないではないか。
「課長はもっとご自分の人気を自覚すべきです!」
「晴永……」
なのに結局晴永は、瑠璃香が自分のことを名前で呼んでくれるのを、やたらと期待しているらしい。
瑠璃香ははぁーっと大きなため息を吐くと、「とにかく! プライベートな時以外は〝新沼課長〟で通しますから!」と告げて、くれぐれも自分の呼び方も、公私を分けるように厳命した。
なおも不満そうな晴永へ珈琲を出してから、瑠璃香は隣室――クローゼット前――で小さな吐息を落とした。
***
晴永をソファに座らせた瑠璃香は、必要最低限の荷物だけを急いでまとめる。
下着数枚、仕事用の服、化粧品。
小さなボストンバッグに荷物を詰めた瑠璃香を見て、
「それだけでいいのか……」
晴永が不満そうな顔をする。
土日が過ぎれば、晴永の家ではなく、自室へ帰ってくるつもりなのだから、下着だって本当は一セットでいいくらいだし、もっと言えば日曜の夕方に帰宅すると仮定したら、月曜に着ていく予定の仕事着だって必要ない。
でも、万が一、億が一、晴永にごねられてしまったらと考えると万全の態勢で臨みたいと思ってしまった。
「私の中では……日曜の夕方までには自宅へ戻る予定です! だから……これでも多いくらいです!」
ぐっと目に力を込めて晴永を睨んだら、小さく吐息を落とされた。
瑠璃香はあえてそれには気づかないふりをすると、「あの……」と晴永をじっと見つめる。
「なんだ……」
「もう少しだけ時間をいただけますか? ついでなので着替えてきます」
せっかく我が家にいるのだ。
わざわざ晴永に借りた恥ずかしい格好のまま過ごす必要はない。
瑠璃香の言葉に、晴永がとうとう不満を爆発させたみたいに瑠璃香の手を引いてグイッと自分のそばへ引き寄せた。
「ひゃっ」
期せずして晴永の上へ倒れこむ形になった瑠璃香に、「このままでも構わないだろ? わざわざ洗い物を増やすな?」とか。
スススッと腰から臀部に掛けてのラインを甘やかに撫で下ろされた瑠璃香は、思いっきり手を突っ張って晴永から離れた。
「だ、ダメですっ。このままじゃ、お買い物とか一緒に行けません!」
晴永に触れられてぶわっと熱を持った身体を持て余して思わず口走ったら、なぜか晴永が照れたように視線を逸らす。
(――なに、なに、なんなの……!?)
その豹変ぶりに瑠璃香が戸惑うと同時、「……瑠璃香と一緒に買い物……」とぼそりとつぶやく声が聞こえた。
「よし! 着替えてこい! このまま色々買いに行くぞ!」
何故だか分からないけれど、そういう流れになってしまった。
***
自分が上司だからだろうか。
車でショッピングモールへ移動中にも、瑠璃香は晴永の強引な態度に表立って文句は言ってこなかった。
ただ、思うところはあるんだろう。
どこか落ち着かない様子で助手席に座って、窓外を流れる景色を眺めている。
コメント
1件
着替え、大事(^。^)