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「あ―……もう、どこから突っ込んでいいのかわからんわ」
話を聞き終えた潤が溜息をついた。「多分、この話聞いたヤツ全員が同じ気持ちになると思う」
「どこをどう突っ込むの? 先生を傷つけないように頑張って堪えたんだよ? 褒められてしかるべきだろ」
「……」
潤は黙ってしまった。僕の純愛が通じたんだな。よかった。
「あのさ、睦月」
「なに」
「俺が教えたこと、なにひとつまともにできてない。どうしてそうなる?」
「ちゃんとやってるし! お風呂も誘って、シタいってことも伝えたよ!」
「やり方が壊滅的に悪すぎる」
「なんでっ」
「じゃあ……チャートで例えてやろう」
潤はスマートフォンを操作し、どこかの株のチャートを出してきた。
「この株、昨日で3日連続S高(ストップだか)をつけて暴騰した。さて今日、この株は上がるか下がるか?」
「さあ。もしかしたらまだ上がるかもしれないけれど、それはわからない。多分下がるね」
「オーケー。で、お前はこの株、買いで勝負する?」
「買わないよそんなの」
「なんで?」
「3日も連騰したんだよ? 機関投資家や個人投資家が群がって、そろそろ天井圏だから、転換期迎えて間違いなく暴落するでしょ。まあ、例外もあるからそういう時はリスク回避しながら勝負するけど」
「正解」
画面を操作し、現在進行形のチャートに切り替えてくれた。読み通り開始直後の5分間は最後の急騰をしたが、そこから一気に利益確定の売りが入り、それが止まらずに下落が始まっていた。大暴落だ。今現在もグングン株価は落ちている。
「じゃ、今日の朝、高値(たかね)でこの株を買った奴、どう思う?」
「センスゼロ。ただのバカ。まだ上がり続けると思う神経がわからない」
「睦月がそうだ。お前は今、こんなところで買いを入れようとしているバカってことだ」
なんですと!?
「意味わかんない。一緒にしないで!」
「恋愛にチャートがあればいいなっていうから手本を出したんだ。わかりやすいだろ? センスゼロのただのバカ君」
「くっ……!」
なんてことだ!
僕がやっていることは、ことごとくミスってるってことか!!
「じゃあ、どうやったら潤みたいにスマートに女性と付き合うことができるの? 僕は自信ないよ。先生に嫌われたら生きていけないもん……」
「だったら勉強しろ。株みたいに。自信ないなら勝負するな」
「なんか昨日と言ってること違うし!」
「それは……ここまで壊滅的にセンスがないって思わなかったからな。初動の判断をミスった俺にも原因あるが、どう考えても睦月が悪い」
「なにそれ! 壊滅的にセンスがないってひどくない?」
僕の反論に潤は真顔で言った。「チャートだったら、いかに自分が恐ろしい暴落を引き起こす前に、買いを入れるような自殺勝負をしているかわかるだろ。恋愛になるとそれがわからないってところが致命的なんだよ」
ぐうの音も出なかった。しゅんとなって唇をかんでうつむいた。
「あー……とりあえずそう落ち込むな。俺の指南はとりあえず実践するのはまだ早いってことに気づいたから、根気よくやってこう」
「それしかないよね」
「手始めに恋愛映画でも見てみたら? 奥さんと一緒に」
「一緒にか……」
「まあでも、俺だったらそんなまどろっこしいことはすっとばして、もっとうまくやるんだけどな」
「じゃあ、潤だったらどうするのか教えてよ!」
「いいぜ。まず――……」
とにかく僕は恋愛のセンスが悪いということに気が付いただけでも一歩前進だと思い、潤の話に耳を傾けた。
※今、この話は僕が潤だったらという前提で進んでいる。脚本形式でわかりやすく潤が指南してくれた。
睦月『先生、もう僕は先生の生徒を卒業したい』
佑里香『どういうこと?』
すかさず佑里香を抱きしめる睦月。
睦月『こういうこと』
キス。
佑里香『うんっ……はあっ……』
嫌がる反応がなければそのまま舌を入れる。
佑里香『むつ……き君っ……ンンっ……あ……』
佑里香が蕩けて唇の端から唾液を漏らすまでキスを続ける。
睦月『佑里香』
佑里香『睦月君……』
睦月『僕を、一人の男として見てほしい。僕は佑里香のことが幼いころから好きだった。これからはずっと君を守りたい。最高のパートナーでありたいから……』
そっと衣類に手をかける。
佑里香『あ……』
睦月『恥ずかしがらないで。かわいいよ』
佑里香俯く。すかさずキス。ちゅ、ちゅ、と音を立てながら。
佑里香『あ……ふあっ……』
睦月『かわいい』
佑里香『恥ずかしい……』
睦月『ぜんぶ見せて。僕だけに』
するりとバスローブの紐を解く。
露になった佑里香の白い胸をもみしだく。
睦月『きれいだ』
佑里香『見ないで、やあんっ……』
睦月『隠さないで。ちゃんとぜんぶ見せて』
胸の突起にかじりつく睦月。
佑里香の体が跳ねる。
唇・胸元に執拗なくらいキスを続ける。
佑里香の音を上げさせる。
佑里香の体がもじもじしてくる。
睦月『僕が欲しくなった?』
佑里香うなずく。
睦月『かわいいね、佑里香。もう僕だけのものだよ――…』
重なる裸体。
睦月は深く自身を突き立て、佑里香をよがらせる。
睦月『佑里香、愛してるよ』
卑猥に啼く佑里香を何度も昇天させてフィニッシュ。
そこから2回戦もアリ。
「どうだ?」
潤がドヤ顔で僕を覗き込んだ。
なんでこの男がやったらこんなにうまくいくんだ…!
絵空事じゃないのか?
ほんとうにこんな通りにコトが進むんだろうね!?
「こんな脚本通りにうまくいくの?」
「ああ。でも、睦月にはまだ早いだろうから、このURLでも開いて我慢してろ。家帰って寝る前にでも見てみ」
「どうせロクでもないサイトだろ。いいよもう」
はあ。チャート見たら株の買い時がわかるように、僕も先生にアタックするポイントを誰かチャートで教えて欲しいよ。
「あ、そういえば」
潤がなにか思い出したように言った。「翠子を事務所のビル前で見かけたぞ」
「えっ……」
どうして湯川翠子(僕の許嫁とか言われている女性)がTENGAの前に?
「お前に会いに来たんだろ」
「もー、ほんとしつこい。なんであきらめてくれないのかな。こっちは好きでもなんでもないのに……」
そう言ってハッとした。僕、もしかして同じことを佑里香先生にやっちゃってる…?
もし先生が、未だにつきまとってくる僕のことを疎ましく思っていたら?
――もー、ほんとしつこい。なんであきらめてくれないのかな。こっちは好きでもなんでもないのに……。
なんて、僕がさっき言ったセリフと同じように先生が考えていたら?
やば…。体が震えてきた。どうしよう。
昨日先生が添い寝してくれた時、思い出話を語ってくれた。僕のことを心配してくれていたし、ずっと案じてくれていたと知って嬉しかった。でも、それって実は迷惑に思っていたのを隠していたり…?
「おーい、睦月」
やばい。距離詰めすぎた?
やらかした?
もしかして既に嫌われてる?
ふたつも指輪贈ったのは迷惑だった?
「おいって」
ぜったいやらかしてるよコレ!
「睦月!」
「あ、え……ああ、なに?」
「ぼんやりしてないでもっとしっかりしろよ。奥さん、なんかチンピラに狙われてるんだろ。ちゃんと守って旦那らしくかっこいいところ見せとけ。いろいろ手配しておいたから」
「わかってる」
そうだ。しっかりしなきゃ。佑里香先生を守れるのは僕だけなんだ。
彼女を傷つけるやつは許さない。
「命に代えても先生は僕が守るよ」
「だーかーら、それ、重いって」
潤に注意されてしまった。命を懸けるのは重いのか。やっぱり恋愛は難しい!