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ひとまず学校へ行って出席。単位が必要な授業に顔を出し、お昼を迎えた。
左薬指を見ると、お揃いで買った指輪が目に入る。ああ、これだけで佑里香先生と繋がっているのだと思える。だめだ、顔がにやけちゃう。
幸せをかみしめていると、スマートフォンが鳴った。昨日登録したばかりのフジノ商事の細波さんだ。
「はい、天川です」
『社長、昨日はありがとうございました。M&Aの件、もう少し具体的な話を聞きたいので、午後からお時間をいただけませんか?』
「いいですよ。では、16時半ころなら行けますので、そちらに伺います」
『ありがとうございます。お待ちしております』
仕事早いな、細波さん。うん、いいね。
できればマルヨーを選んでほしいところではあるけれど、どうだろう…。
もしマルヨーを選んだら、たぶん株価は上がるだろうな。そうなったら株価は元に戻る以上に利益が出るだろうし、先生との契約関係も終わる。それは嫌だ…。
でも、そんな私情でマルヨーのM&Aを邪魔する権利は僕にない。
マルヨーになったら僕が詰むし、マルヨー以外が選ばれたら彼らの事業が詰む。
関係ないところでやってほしかった。頭の痛い話になりそうだ。
潤に迎えに来てもらってフジノへ向かった。フジノは折り紙から割と近いところにある。徒歩15分といったところか。車で2~3分で行ける。このままフジノの商談が終わったら、先生の所に帰ろう。今日もおいしいごはん、作ってもらっちゃおうかな~。
あ、待て。手を煩わせてはいないか?
僕のそばにただ居てくれるだけで幸せなのに、僕が食べたいからといって仕事で疲れている先生に料理をさせるのは…どうなんだろう。これは、モラハラ扱いにはならないだろうか?
例えば昨日を簡略化脚本形式にすると……
睦月『ごはんよろしく』
風呂に入る睦月。手伝いはしなくていいからと佑里香に言われる。
その間にてきぱきと料理を作る佑里香。
佑里香『できました』
睦月『おいしいよありがとう』
食事を楽しむ。
睦月『ごちそうさま』
食器を下げようとすると、私の仕事ですから、と言って佑里香に注意を受ける。食器も下げずにソファーでくつろぐ睦月。時々佑里香を盗み見る。
(やばい。これ、完全にモラハラだ!)
世間一般だと、疲れて帰ってきている妻に『お疲れ様』も言わず、まだ食事の用意ができていないのか、グズめ、みたいに罵ったりするのだろうが、言わないだけで僕もやっていることは、なにもせずにただ妻(せんせい)にやらせているのだから同じような感じになってない!?
考えすぎかな。大丈夫だよね……。
「さっきからなにをひとりで百面相してるんだ?」
「いや別に」
今想像していたことを潤に相談したらまたバカにされる。やめておこう。
「どうせまたおかしなこと考えているんだろ。つまんねえこと考えるのはやめろ」
見透かされているようだ。とにかくつまらないとぶった切られたので、これ以上考えることはやめにしよう。
潤が用意してくれたスーツに着替え、ネクタイを締めた。びしっと気持ちが切り替わってキリっと背筋が伸びる。
「じゃ、行ってくるよ」
「ああ、ガンバレ」
さあ、やろう。事業を成功させるために。
フジノの受付で細波さんにアポがあることを伝え、受付で手続きをした。セキュリティーもしっかりしている会社だと改めて思った。
昨日と同じ部屋に通された。細波さんが出迎えてくれて、さらにもうひとり紹介された。見知ったこの男は――……
「食品事業推奨部の水島敬です。どうぞ、宜しくお願い致します」
水島(呼び捨て)だ。
なんで彼が?
「ああ、天川さん、昨日は佑里香さんには大変世話になりました」
ゆ……佑里香さんだあ~?
誰に許可取って僕の先生の名前呼びしてんだよコラ!!!!!(怒)
「……昨日はどうも(口角ひきつり)」
名刺を交換しながらバチバチと視線を交わした。
「天川社長、うちの水島をご存じで?」話が早いと思ったのか、細波さんは嬉しそうだ。
「はい、昨日お会いしました。【妻】の店で」
妻というところはしっかりアピール!
しかし水島は含み笑いを崩さない。
「細波部長、実は僕と社長の奥様が同級生で、偶然昨日再会したんですよ。僕は奥様の佑里香さんにフジノの社員だって伝えたんですが、社長、佑里香さんからはなにも聞いていないみたいですね」
なんかいちいちカンに触る言い方するなあ。
また先生の名前を許可なく呼んだりして!.
でも…先生、どうして僕に水島のこと教えてくれなかったんだろう。
やっぱり好きだから…?(かなり不安)
「妻に仕事の話は野暮だからしないようにしているだけです。プライベートでは仲良しですよ。昨日も一緒に眠りましたから」
単なる添い寝だけどね!!
しかしその牽制が効いたのか、ヤツはおとなしくなった。
まあ、僕も大人げなかったと思う。会社でする話ではない。
まだまだ青いな。だからいつも潤に注意されるんだ。大人になれるように頑張ろう。
「実はですね天川社長、M&Aの話を弊社では本格的に進めたいと考えております。しかし、実際に巡ったスーパーはどこもよかった。甲乙つけがたい。そこで、オリジナルの商品などを使って、コンペや投票形式で買収するスーパーを決めたいという結論に至りました。今後は私はもちろんのこと、水島ともタッグを組んでよりよい継承ができるようにお力添えをいただけると幸いです。ちょうど海外で日本食品事業を拡大していこうと考えておりますので」
はああ!?
こいつ(と書いて水島と読む)と組むの!?