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#ファンタジー
静まりかえった皇帝の寝室で、押し殺した私の呼吸音がやけに響く。
今宵は初夜だ。
私――、シャレット聖王国第二王女フェリシテは、金色の目を不安げに瞬かせ、所在ない手で銀髪を弄る。
身に纏っているのは白いレースのネグリジェで、私はこれから夫となる方――エーヴェルヴァイン帝国の皇帝、アルフォンス様と初夜を迎えようとしている。
私がここまで緊張しているのには、いくつかの理由がある。
第一に、アルフォンス様は私の想い人だ。
幼い頃から彼だけを想ってきたので、この状況は本望と言える。
けれど私は本来なら、ここにいてはならない存在だった。
――というのも、私は双子の姉の代わりに皇帝陛下のところへ嫁いだのだから……。
双子の姉のレティ――レティシアは、正真正銘の聖女だ。
一卵性双生児なだけあり、容姿は私とうり二つで、銀髪に金色の目をしている。
けれどそっくりな外見をしていても、レティには私にない気品が備わっている。
常に人々の前で聖女として振る舞い、みんなに求められる存在なだけあり、彼女の立ち居振る舞いは堂々としている。
聖王であるジョルジュお父様に、聖王妃のアンナお母様、十八歳の弟シャルルも、みんな聖なる力の加護があり、人々に祝福を与え、病気や怪我を癒す力を持っている。
なのに私だけは聖なる加護がなく、周囲からは〝ハズレ姫〟と呼ばれていた。
そんな私は姉と容姿がそっくりな事を利用して、聖女レティシアとしてエーヴェルヴァイン帝国に嫁いでしまった。
いくらシャレット聖王国が周辺国から特別な扱いを受けているとはいえ、これが知れ渡ったらどんな沙汰がくだされるか……。
(下手したら死刑……!? ……いやああああ!)
私は真っ青になり両手で頭を抱える。
――と、続き部屋に控えている伝言侍従の声がした。
「アルフォンス陛下がおいでです」
いらっしゃった!
私は目をまん丸に見開き、荒くなった呼吸を必死に整えようと努力する。
やがて寝室に、今日もご尊顔麗しいアルフォンス様が現れた。
カーテンが閉められていない室内には月光が差し込み、それを浴びたプラチナブロンドに色素の薄いブルーアイを持つアルフォンス様は、トラウザーズに上半身裸、その上にガウンを羽織った姿で私を見る。
(……どうしよう……)
ソファに座った私は、両手で胸元の布地を掴む。
激しく胸が高鳴り、赤面すべきなのか真っ青になるべきなのかすら分からない。
「君は……」
歩み寄った彼が頬に手を伸ばし、緊張した私はギュッと目を閉じた――。
**
私はフェリシテ・ロラ・カリエール・シャレット。十九歳。
アクトゥル大陸では聖なる光を司る神ミカティアを信仰していて、シャレット聖王国は最も古い時代に神から直接力を与えられた国として、周辺国から一目置かれている。
聖職者は生まれ持っての素質と修行によって聖なる力を扱い、魔を退けたり祝福したり、治癒を行う事ができる。
その中でもシャレット王国の王族は、聖なる力において他の者から群を抜く能力を有し、国を丸ごと聖なる障壁で包んだり、国外にある神殿や祠で祈りを捧げる事により、長期間魔物の侵入を防ぐ力を持っていた。
姉のレティは稀代の聖女と呼ばれ、ここ数百年にない逸材だ。
また、聖王、聖王妃、未来の聖王となる王太子も類い希な力に恵まれ、今の王家は奇跡の一家だと言われている。
そんな中、どういう訳か私だけは聖なる力に恵まれず生まれてしまった。
この世界には聖なる力がある他、火、水、風、地、闇の属性やその派生の力を行使できる人々がいて、みんな何かしらの能力を持っていた。
魔物がいる以上ダンジョンもあり、冒険者もいる。
王国には騎士団があり、その中でも聖騎士は花形の存在だし、戦いにおいて殺傷能力の高い火の能力を持つ者は大きな役目を担う事が多い。
四大属性の他にも雷や闇、重力などもあり、花を咲かせる魔術を持つ人は舞台役者として能力を生かし、スターとなっている。
みんな「あの人の能力はいいな」と言いながらも、日々自分の役目を果たして生きている。
そんな中、私が有する能力は感覚魔法だ。
こう言ってすぐにピンとくる人はほぼいない。
分かりやすく言えば、目に見えない手で周囲にある物を触れる力だ。
はっきり言って、なんの役にも立たない。
だから、私は陰で〝ハズレ姫〟と呼ばれていた。