私は簡単に着替えを済ませ、化粧を整え直して家を出た。昔はよく飲みに行っていた三宮のバーに行くことにした。
頭に来て家を飛び出すなんて……。若気の至りならともかく、いい歳の女性がすることじゃないなと思ったけれど、冷静に光貴と話をする自信がなくて逃げ出した。
悩んだけれど、さっちゃんを誘って三宮に飲み行ってくる、今日はさっちゃん家に泊まらせてもらう、と光貴にメッセージを送っておいた。
放置したらきっと光貴は心配するだろう。こんな時でも、彼に心配をかけたくないと思うのはどうしてだろう。
光貴は大切な存在なのに、傷つけることしかできないのが辛い。
とりあえずさっちゃんに連絡を取って三宮へ呼び出した。彼女はクローバーから自宅へ帰る途中だったけれど、私の様子がおかしかったことに気が付いたようで、すぐ行くから待っていて、と言ってくれた。
三宮の繁華街の東門には、飲み屋が立ち並ぶビルが数多く点在している。その中に入っているショットバーが馴染みの店のひとつで、ここへ彼女を呼び出した。
先に到着したので、マスターにカクテルを作ってもらった。久々に飲むお酒は美味しくて、ついピッチが速くなった。相変わらずマスターの作ってくれるお酒は美味しいから余計に。
さっちゃんが到着するまでに、私は強いカクテルを四杯も飲み切っていた。
気が付くとさっちゃんが隣に座っていた。あれ。いつの間に?
「りっちゃん、元気やった? ちょっと痩せたよね?」
「そお? えへへー」
「あ。りっちゃん、もう酔っぱらってるやん。飲みすぎたらあかんよ」
「は――いぃ」
「コラ、酔っ払い。心配したんやで。ちょっとは元気になった?」
「ううんー、死にそぉー」
「りっちゃん……」
私が頼んでいた五杯目のカクテル、ギムレットをさっちゃんに取り上げられ、代わりにオレンジジュースが割り当てられた。
「飲むのーぉ。お酒ちょーだぃ?」
「まずはこんなところで酔っ払っている理由を聞かせてもらう。とりあえずジュースにしとこう」
「おねがぁい」さっちゃんに腕を絡めて、うんと甘えた。「ちょっとだけにするから」
「だめなものはだめ」
「けちー!!」
さっちゃんが困った顔を見せたところで私のスマートフォンが鳴りだした。結構大音量で鳴っているが、酔っ払いの私は『謎の電話には出れませーん』と呟いて着信を無視した。
「ちょっと、りっちゃん。電話やで」
「いーの。どうせ光貴やもーん。今日はゆるさなーぃ!」
「なにがあったん? ケンカでもした?」
「へへっ、まあねー」
私はさっちゃんの隙を見て頼んでおいた、オレンジジュースに似せたカクテルを煽った。喉に焼けつくようなヒリヒリ感が訪れて胃が猛烈に熱くなり、余計にへべれけ感が増した。
更に気が大きくなったため、さっちゃんに一部始終を語った。光貴に憤慨し、一緒に怒ってくれるさっちゃんは私の味方だ。
ふふっ。このこと光貴に言ってやろう。やっぱり光貴が悪いんだぞ~って!
再度着信があったので、「光貴、今日は謝ってもだめ! 帰らないからぁーっ」と、応答した。
『律さん……私は新藤です。光貴さんではありません。それより今日は、酔っていらっしゃるようですが、光貴さんと喧嘩でもされましたか?』
ん!?
なんか、声が違う。
光貴じゃない!!
私は慌ててディスプレイを見た。着信はなんと…――新藤さんだ!!
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