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「こんにちは、圭太くん。久しぶりですね。私は都内で産婦人科を専門にやっている堀越レディースクリニックの医院長をしています、堀越沙織です。それにしても、お会いしないうちに立派になられて」
「はぁ――」
彼女は俺と会ったことがあるような言い方をしていたが、俺の記憶の中に彼女は存在しなかった。
「憶えてないわよね? 初めて会ったのは私が大学生の時だったんだから」
「あのぉ、母さんとは?」
「明石先生は私の命の恩人なの。私が大学生の時に、父を法定で救ってもらったの」
「そうだったんですか」
堀越先生は、母さんを見て頬を赤らめながらそう言った。母さんを見るその眼差しは、憧れとも尊敬とも見て取れた。
「この話はそれぐらいにして、本題に入らせてもらってもいいかしら?」
「すっ、すいません。余計なことを――」
「こちらが先日話しておいた、五十嵐マナさん」
「あなたが五十嵐さん――初めまして、あとのことは私に任せて下さいね」
「はぁ?」
堀越先生はマナに握手を求めていたが、マナはその手を握ろうとはしなかった。
「どうかしたの?」
そんなマナの態度を見て、堀越先生は心配そうに顔をき込んでいた。
「すっ、すいません。マナは人見知りで、すごく恥ずかしがり屋なんです」
おろす気などないマナのフォローをするので精いっぱいだった。
「そうなの。私も高校生の頃まで人見知りだったから気持ちはわかるわ。でも、何も心配することなんてないから安心して」
「――――」
マナは何も話す気などないような態度を終始とっていた。
「今後の予定ですけど、2日後に病院に来て下さい」
「わっ、わかりました」
マナが余計なことを言う前に、慌てて返事をした。
「それと、時間ですけど病院が閉まってからの方がいいと思うんです。出来るだけ人は避けることにしましょう」
「勝手にはなっ――」
「お気遣いありがとうございます」
マナの言葉を遮ると、無理矢理頭を下げさせた。
「圭太はマナさんを連れて、先に車に乗ってて」
母さんにそう言われたので、マナの手を引っ張って店の外に出た。そして車に乗り込むと、マナは黙って俺の顔を睨みつけていた。
「前にも言ったけど、私はおろす気なんて100%ないから!」
マナは声を荒らげて俺に言ってきた。
「マナの気持ちは痛いほどわかるよ。でも、今は無理なんだよ。マナの両親が認めてくれるはずないし、もしこのことを知られたら学校だって辞めさせられる」
「私、学校なんて辞めてやるつもりだもん!」
「辞めてどうする気だよ?」
「家を出るよ。あんな両親の元で暮らすなんて、もうウンザリなの!」
マナの表情から、覚悟を決めた本気の思いが伝わってきた。