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白い羽根が一枚、二枚と黒く染まっていくたびに、ミンジュの心は、少しずつ沈んでいった。
まるで底のない湖の中、かすかな光を求めて必死に浮かび上がろうとする──
けれどそのたびに、誰かの手が、深く深く、引きずり落としてくる。
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「……やっぱり、白は似合わないね、ミンジュ」
囁くのはテヒョンだった。
かつての優しい声と笑みはそのままに、瞳の奥にある狂気だけが違っていた。
「違う……っ、こんな……私、戻りたくない……!」
ミンジュは震える手で、まだ白く残っている羽根の先をぎゅっと掴んだ。
まるで自分で、自分を守るために──ちぎってしまいたいほどに。
「……やだ……これ以上は……」
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「ねぇ、ミンジュ」
ジミンがベッドに腰掛け、
彼女の細い足首を両手で包んでくる。
「逃げようとした時、泣いてたよね。誰かに助けてって」
「……お願い、あのまま、わたしを見逃して……っ」
「だめだよ」
微笑みながら、彼はミンジュの足にくちづけを落とす。
「僕たちがいないと、ミンジュはもう何もできないんだから」
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部屋の空気が変わったのは、ジンが入ってきた時だった。
静かで優しくて──まるで神父のような穏やかさを纏いながら、
その目は、すでに壊れていた。
「……最後の羽根、まだ白いね」
「触らないで……っ、お願い……!」
「ミンジュが悪い子だったから、儀式をやり直すしかないね」
その“儀式”の意味を、ミンジュはよく知っていた。
あの五年前、翼が黒く染まった夜。
何度も何度も、身体の奥まで彼らに刻まれ、堕天した──あの夜の繰り返し。
「やめてぇっ……やだ……!」
けれど声は届かない。
触れる手はどこまでもやさしくて、でも逃れられないほど強い。
心も体も、再び塗りつぶされていく。
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「壊れてもいいよ、僕たちのものなら」
「ヌナが言葉を忘れても、翼が全部黒くなっても、ずっと一緒だから」
「ミンジュがいないと……生きていけないんだよ」
優しさに包まれながら、
狂気に支配されながら、
ミンジュは静かに泣いていた。
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その夜、最後の白い羽根が、闇の床に落ちた。
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──こうして、彼女は“完全な堕天使”となった。
けれど彼らにとって、それは始まりにすぎない。
愛の名を借りた囚われの牢獄の中、
これから彼女は、永遠に愛され、触れられ、抱かれていく。
誰にも見つけられない場所で──
もう、逃げ道などどこにもないままに。