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「なあ、貝塚。これはどういうことなんだ?」
海斗の目の前には一年の担任ではなく、拓斗の、三年の担任がいた。
「僕は知りません」
「ついに弟までも兄にそそのかされてしまったのか。先生は残念だよ」
「だから僕じゃないです」
あくまで冷静に受け答えをしている海斗だが、この担任がそう簡単に解放してくれるはずがない。
「カバンの中に大量の怪文書が入っていたじゃないか」
「兄の時のように、誰かが僕を嵌めたんです」
「こんな時でも兄を庇うなんて、健気な弟だ。さすが兄弟、同じような言い訳をしやがる」
「先生、口が悪いですよ」
カバンに怪文書が入っていたこと以外、何の証拠もない。しかし、逆にこの証拠があるせいで疑いが晴らせない。
「兄弟揃って生意気な奴らだ。先生が言ってるんだから、さっさと認めないか」
「そういう主観的な考えはどうかと思いますよ。僕はやっていない、それだけです」
「はあ、お前の担任もそう言っていたな。委員長である貝塚海斗がこんなことをするはずがない、と」
嵌めた生徒は誰なのか、もう分かっていることなのに、言っても多分この教師は信じないだろう。
「僕のことも、兄のように処分を下すおつもりですか?」
「そういう冷静で余裕なところが気に食わないんだよ。子供は子供らしく、大人の言うことを聞いていればいいんだ」
「僕の担任が良いとは言わないと思いますよ。あの人は僕の味方なので」
「本当に委員長というのは厄介だな。変なところで信頼を勝ち取って、面倒くさいたらありゃしない」
密室に二人、向かい合わせtに座り始めて既に一時間。攻防戦はまだまだ終わらない。
「僕はやるべきことをやっているだけです。あなたのように勝手にいちゃもんつけるような教師を、僕は許さないですよ」
「お前が許さなくとも、先生はどうってことない。学校は先生が正義だ、生徒にとやかく言われる筋合いはないね」
「先生は分かってないですね。僕の親戚がどれだけの力を持っているのか、どうして兄の謹慎期間が短くなって、反省文までもなしになったのか。よく考えたほうがいいですよ」
その時、外からドアを勢いよく叩く音が聞こえた。
「貝塚、そこにいるのか。先生、何の用でうちの生徒を呼び出しているんですか」
「入ってもらって大丈夫ですよね?」
拓斗の担任は悔しそうな顔をしている。
「もう嗅ぎつけたのか。入ってもらうも何も、話はこれで終わりだ。職員会議にかけさせてもらうから、覚悟しておけよ」
ドアを開けた先には、海斗の担任が立っていた。
「先生、これはどういうことですか」
「別に何もない。ただ話をしていただけだ。続きは職員会議で説明しようじゃないか」
拓斗の担任は職員室に戻っていった。
「貝塚、大丈夫か?」
「大丈夫です。それより、どうしてここが分かったんですか?」
「職員室の先生たちが噂しているのを耳にしてね、それで探していたというわけだよ」
とりあえずの危機は回避した。海斗は職員会議で決定が下されるまでの短い間で、生徒会書記の女子生徒に話をつけに行くことにした。
放課後、海斗は生徒会室前にいた。
「あら、あの時の。今回は何の用かしら」
「生徒会長、書記の方に話があるのですが」
「申し訳ないけれど、あの子は今日、学校を休んでいるわ」
「そうですか、ではまた……」
「待ちなさい」
海斗は理由を聞かず、その場を立ち去ろうとしたが、生徒会長は海斗を引き留めた。
「何でしょうか」
「私の後輩が、あなたたち兄弟に迷惑をかけているみたいね」
「やはり気づいていたんですね」
「今回の怪文書事件、秘密にしておいてくれないかしら」
生徒会長が何を考えていて、どこまで知っているのかわからない。海斗は生徒会長が動き出さない理由を知りたかった。
「真実を知っているはずなのに、どうして協力してくれないんですか」
「あなたのお兄さん、貝塚拓斗と私は今ゲームの最中なの。それが終われば、必ず全て終わらせると誓うわ」
「でも、兄はそれどころではなくなっているんです。僕も同じように」
「あなたたちなら、疑いを晴らすことが出来るはずよ。私はどうしても、あの子を放ってはおけないみたいだから」
海斗は生徒会長と書記の関係が普通ではないことを確信した。ただそれは、恋愛関係などの浅はかなものではないとも思っていた。
「兄は、あなたのことを大事に思っていますよ。あなたと交流していく中で、楽しみが一つ増えたように生き生きとしているのを、僕はもう一度見たいだけです」
「弟くんはよく見ているのね。私も同じように思っているわよ。でもどうか、あの子のことは貝塚拓斗に秘密にしてほしいのよ」
「もう、生徒会書記が『模倣犯』だということは伝わっています。これ以上のことは、何も伝えていません」
「あなたは頭がいいのね」
「これは兄自身が気づくべきだと思うので」
「協力者があなたで良かった。後は私に任せなさい。本当にありがとう」
生徒会長は生徒会室に、海斗は拓斗に説明するために家に帰っていった。
俺が家でのんびりしていると、海斗が学校から帰ってきた。
「兄さん、ただいま」
「おう、遅かったじゃん」
「残念なお知らせがあるよ。僕じゃどうしようもできなかったんだ」
「どういうことだよ」
海斗が失敗したのか? あれから近況報告を受けていなかったが、それは上手くいってるからだと思っていた。
「僕も怪文書事件の犯人として疑われているんだ。これ以上は動けないよ」
「そんな、どうして言ってくれなかったんだ」
「兄さんに心配をかけたくなくて、出来るだけどうにかしようとしたんだけど……」
「あのクソパワハラ教師か。あいつ、弟にまで手を出しやがって」
「先生に疑われたらどうしようもなくなっちゃって、ごめんね」
海斗まで、俺みたいに辛い思いをさせてしまっている。発端は俺が一人でどうにかできなかったからだ。謝るのは、俺のほうなのに。
「お前のせいじゃない。悪いのは全て犯人なんだ。お前、クラスでいじめられてないか?」
「うん、それは大丈夫だよ。僕にも友人がいるから」
「そうか、何かされたら俺にすぐ言えよ。今度こそ俺がどうにかしてやる」
義理でも大切な弟だ。俺は兄だから、弟を助ける立場にならなくては。
「兄さん、あんまり気負いしないほうがいいよ。僕は大丈夫だから、自分のことだけ心配して」
「本当にできた弟だよ、お前は。お前のことも含めて、友人に報告しておくよ」
「あの人は頼りになるからね。きっと兄さんの力になってくれるよ」
「ああ、そろそろ役に立ってもらわなきゃ困るさ」
友人は友人で、もう事を把握しているような気がする。期待し過ぎだろうか。
「僕は、兄さんの役に立てたかな」
「もちろんさ。ありがとう」
俺の携帯電話が突然鳴り出した。
「やあ、拓斗。報告がある」
「いきなりどうした。今、海斗と話をしていたところなんだが」
「そうそう、海斗のことだよ」
「お前まさか……」
「海斗には何の処分も下らないから安心してくれ。それだけだ」
やっぱり思った通りだ。さすがに先回りすぎて怖い。
「はあ、お前には頭が上がらないよ。海斗に伝えればいいんだな?」
「その通り。では、僕は用事があるから切るよ」
一分もない会話で、俺の弟が救われたことを理解した。
「海斗、お前には何の処分もないそうだ」
「あの人からだね。行動が早くて尊敬しちゃうよ」
「安心して明日から委員長として頑張ってくれ。お前ならばかみたいな疑いをすぐ晴らせるだろ」
「兄さん……」
「もう調査はしなくていい、俺が、どうにかするよ」
そうは言ったものの、本当は、これ以上どうすればいいのか分からなかった。