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第30話 〚熱の中で、交わる視線〛
運動会の練習が始まった。
校庭には、
笛の音と掛け声が響いている。
大玉転がし。
借り物競争。
リレーの並び確認。
クラス全体が、
少し浮き足立った空気だった。
澪は、
ゼッケンをつけて列に並ぶ。
(運動、苦手だけど……)
合図と同時に、
走り出す。
息が苦しい。
足も重い。
それでも――
止まらなかった。
その姿を、
恒一は遠くから見ていた。
(……澪)
走っているだけなのに。
風に揺れる髪も、
真剣な横顔も。
胸が、
異様に高鳴る。
(可愛い)
(俺の……)
自分でも理由が分からないまま、
視線が外せなくなっていた。
練習が終わり、
澪は膝に手をついて息を整える。
「お疲れ」
声をかけたのは、
海翔だった。
「頑張ってたな。
ちゃんと最後まで走ってたし」
澪は、
少し驚いて顔を上げる。
「……見てたの?」
「そりゃ見るだろ」
海翔は、
いつものように笑う。
「苦手でも逃げないの、
すごいと思う」
「あとさ、
転びそうになっても立て直してたし」
「地味だけど、
ああいうの、俺好き」
言葉が、
次々と重なる。
澪の胸が、
じんわり熱くなる。
「……ありがとう」
その光景を――
恒一は、見ていた。
澪に近づき、
静かに声をかける。
「白雪」
澪が振り向くと、
恒一はいつもより近かった。
「さっき、走ってたな」
「……うん」
「無理、するなよ」
言葉は普通。
でも――
その視線は、
はっきりと海翔を捉えていた。
冷たく、
重たい目。
(……あいつ)
(奪う気か)
澪は、
その違和感に小さく身を引く。
恒一はそれ以上何も言わず、
去っていく。
残されたのは、
嫌な静けさ。
その様子を、
少し離れた場所から見ていた影があった。
えま。
しおり。
みさと。
「……今の、見た?」
えまの声が、低くなる。
「目、やばくなかった?」
みさとが小声で言う。
しおりは、
静かに頷いた。
「……あれ、普通じゃない」
三人の視線が、
自然と澪に向く。
澪はまだ、
その意味に気づいていなかった。
けれど――
確実に。
何かが、
少しずつ危険な形に変わり始めていた。
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