テラーノベル
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「リョーカ!!」
モトキの声が響く。
だが、
リョーカの意識は朦朧としていた。
黒い侵食が、
血管みたいに全身へ広がっていく。
指先から
首筋、
頬にまで
まるで身体そのものが、
ヴェルトラウムへ溶け直していくみたいだった。
「っ、なんで……」
ヒロトが顔を歪める。
「門番止めただけだろ!?」
リョーカは弱々しく笑う。
「……たぶん、中に残ってた“みんな”が」
「みんな?」
「ボクを外に出すために……無理したんだと思う」
呼吸が浅い。
苦しそうなのに、
それでもリョーカは誰かを庇うみたいに話す。
モトキが歯を食いしばる。
「治す方法は」
「……分かんない」
「探す」
即答
「絶対探すから、だから――」
「モトキくん」
リョーカが、
そっとモトキの服を掴む。
震える手。
「お願い、聞いて」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないよぉ」
「嫌な予感しかしねぇんだよ」
涙混じりの声だった。
モトキは、
もう限界だった。
何回失えばいい。
何回、
この手から零れればいい。
その時
研究施設の奥から、
小さな声が響いた。
『……RX-00』
全員が振り向く。
暗闇
その中から、
銀髪の少女が現れる。
ヴェルトラウム端末。
以前、
白い空間でモトキと会話した存在だった。
ヒロトが即座に構える。
「敵か?」
『戦闘意思なし』
両手をひらひらと上に挙げながら、
少女は静かに歩いてくる。
リョーカを見る目だけが、
どこか悲しそうだった。
『侵食率87%』
モトキの心臓が止まりそうになる。
高すぎる。
『通常なら既に自我崩壊済み』
「じゃあ助からねぇってのかよ!!」
ヒロトが怒鳴る。
少女は首を振った。
『方法は一つ』
『RX-00を完全に人間化する』
空気が止まる。
モトキが目を見開く。
「……人間化?」
『ヴェルトラウム因子を切り離し、個体を独立存在として固定する』
ヒロトが顔をしかめる。
「そんなことできんのか」
『理論上は可能』
「理論上ってお前……」
少女は続ける。
『ただし、成功率は極めて低い』
『失敗した場合』
そこで一度、
言葉が止まる。
『RX-00は完全消滅する』
静寂
研究施設が軋む音だけが響いていた。
モトキは俯く。
拳を握る。
リョーカを見る。
苦しそうに呼吸している。
でも
まだ笑おうとしていた。
「……ボクさ」
リョーカが小さく呟く。
「ほんとは、ちょっと怖かったんだ」
モトキが顔を上げる。
「もし外に戻れたとしても」
「ボク、人間じゃないし」
「またみんなから怖がられるかなって」
その声は、
震えていた。
初めてだった。
リョーカが、
こんな弱音を見せたのは。
「でも」
ゆっくり
モトキを見る。
ヒロトを見る。
「二人が、“仲間だ”って言ってくれたから」
涙が零れる。
「だから、ちょっと生きてみたい」
その瞬間
モトキは迷いを捨てた。
「やるぞ」
ヒロトが顔を上げる。
モトキは真っ直ぐ少女を見る。
「その方法、全部話せ」
少女は数秒沈黙したあと、
静かに頷いた。
『……了解』
そして
研究施設最深部。
封印されていた最後の区画への扉が、
ゆっくり開き始めた。
中から溢れる、
青白い光。
少女が呟く。
『人間再構築炉』
『ヴェルトラウムが、“完全な生命”を作るために造った最終施設』
ヒロトが乾いた笑いを漏らす。
「名前からして絶対ヤバい」
「でも行くしかない」
モトキがリョーカを抱き上げる。
軽かった。
あまりにも。
リョーカが薄く笑う。
「……お姫様抱っこだ」
「うるさい」
「えへへ……」
弱々しい笑い。
消えそうな声。
でも
ちゃんと生きている。
モトキは強く抱き締める。
「絶対、死なせない」
その言葉に。
リョーカは、
少しだけ泣きそうな顔で笑った。
コメント
1件
ああ、この第31話、すごく重くて、でも確かに希望の光が見えた回でしたね……。リョーカがあんなふうに「怖かった」と弱音を吐くの、初めてですよね。ずっと誰かを庇って笑ってきた彼女が、初めて自分を助けてほしいと言えたのが、胸に刺さりました。モトキの「絶対、死なせない」は短い言葉なのに、全部の覚悟が詰まっていて——もう、本当に泣きそうになりました。人間再構築炉、どんな結末を連れてくるんだろう……ドキドキしながら次を待ちます。