テラーノベル
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最終区画へ続く通路は、異様なほど静かだった。
白い。
どこまでも白い壁。
研究施設の他エリアみたいな腐食も、
血みたいな侵食痕もない。
まるでここだけ、
別の世界だった。
モトキはリョーカを抱えたまま歩く。
背中越しに、
リョーカの呼吸が少しずつ弱くなっていくのが分かった。
ヒロトが前方を警戒しながら呟く。
「なぁ端末ちゃん」
『……』
「その“人間化”っての、具体的には何すんだ」
銀髪の少女は歩きながら答える。
『RX-00の内部に存在するヴェルトラウム因子を分離する』
「簡単に言うと?」
『“人ではない部分”を切り捨てる』
空気が重くなる。
モトキの腕の中で、
リョーカの指が微かに震えた。
『ただし』
少女が続ける。
『RX-00はヴェルトラウム因子によって成立している生命』
『分離に耐えられない可能性が高い』
ヒロトが舌打ちする。
「結局運ゲーかよ……」
その時
リョーカが小さく笑った。
「でも、ちょっと面白いね」
「何がだよ」
「ボク、“人間になれるかも”なんでしょ?」
モトキの胸が痛む。
そんな状況なのに。
こいつはまだ笑う。
「……なれる」
モトキが低く言う。
「絶対なれる」
リョーカが目を丸くする。
「断言するんだ」
「あぁ」
「根拠は?」
「お前が生きたいって言ったから」
リョーカが、
静かに目を伏せた。
その耳が少し赤い。
ヒロトがニヤニヤする。
「うわ、今のちょっとカッコつけた?」
「うるさい」
「モトキくん、そういうこと言えるんだぁ」
「黙れ」
久しぶりだった。
こんな空気。
くだらない会話。
少しだけ、
昔に戻れた気がした。
だからこそ
モトキは余計に怖かった。
終わらせたくなかった。
■■■■■■■■■■■■
やがて
巨大な扉の前へ辿り着く。
高さ十メートル以上の 純白の扉。
中央には、
人間の目に似た紋章が刻まれている。
少女が前へ出る。
『最終施設、人間再構築炉』
扉へ手を触れる。
青白い光が漏れ出す。
重い音を立て、
扉が開き始めた。
その先を見た瞬間。
三人は息を呑む。
巨大空間。
天井が見えない。
無数の光の柱。
そして中央。
そこには、
巨大な“樹”があった。
白銀の大樹。
枝の代わりに、
光のコードが広がっている。
脈打っていた。
生き物みたいに。
『生命演算樹』
少女が呟く。
『ヴェルトラウムの中枢補助機構』
ヒロトが引き気味に言う。
「……デカすぎだろ」
リョーカが、
その樹をぼんやり見つめる。
すると
樹が反応した。
ブゥン――
空間に光が走る。
次の瞬間
モトキ達の前に、
無数の映像が現れた。
知らない人々。
笑顔
泣き顔
家族
恋人
孤独
絶望
そして
“ひとつ”になっていく記憶。
ヴェルトラウムの記録
「……これ」
リョーカが苦しそうに頭を押さえる。
「みんなの記憶……」
映像の中で、
誰かが泣いていた。
『独りは嫌だ』
『苦しい』
『誰かと繋がりたい』
無数の声
それが重なって、
ヴェルトラウムになった。
モトキは静かに見つめる。
そして
小さく呟いた。
「……間違ってたけど」
ヒロトも真顔になる。
「寂しかったのは本当だったんだな」
少女が頷く。
『ヴェルトラウムは悪意だけではない』
『救済願望の集合でもあった』
リョーカが、
ゆっくり樹へ近づく。
黒い侵食が、
さらに広がっていた。
時間がない
『RX-00』
少女が告げる。
『再構築を開始しますか』
リョーカは振り返る。
少し怖そうだった。
でも
ちゃんと笑っていた。
「……もし失敗したら」
「失敗しねぇ」
モトキが遮る。
「最後まで聞いてよぉ」
「聞きたくない」
ヒロトが苦笑する。
「お前ほんと不器用だな」
リョーカは少し笑ったあと、
静かに言う。
「もし失敗したらさ」
「二人に会えてよかったって、ちゃんと思いながら消えるよ」
モトキの目が揺れる。
そんなこと言うな。
そう言いたかった。
でも
言葉が出なかった。
その代わり
モトキはリョーカの手を握る。
強く。
離さないように。
「……帰ってこい」
掠れた声。
震える声。
「今度こそ、一緒に帰るぞ」
リョーカの瞳から、
涙が落ちる。
透明な涙。
そして
小さく頷いた。
「うんっ」
コメント
1件
第32話、一気に核心に迫る感じでドキドキしました。白銀の樹とか「人間になる」という選択、それに「失敗したら」と言うリョーカにモトキが被せて遮るところ……もう、心臓がぎゅっとなりました。最後の手を握るシーン、こんなに脆くて強い瞬間、なかなか読めないです🤍 続きが本当に気になります、お疲れさまです!