テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
母と再婚相手が仲良く話す姿を横目に、〇〇は少し胸が温かくなるのを感じていた。
けれど、その隣に座る亮の存在が、どうしても気になって仕方がない。
同じ家に住む――それはまだ実感がなくて、どこか夢みたいに現実感がなかった。
その夜。
眠れなくて、ふとベランダに出てみた。
夜風が頬をなでて、昼間のざわめきとは違う静けさに心が落ち着いていく。
(…なんか、気持ちいい…)
ふと横を見ると、隣のベランダに人影があった。
驚いて目を凝らすと――そこに立っていたのは、やっぱり亮だった。
「……あ、そっか、ここ繋がってたんだ」
思わず声に出すと、亮はゆっくりこちらを向いて、少し笑った。
「気づいた? さっきから○○が出てくるの、待ってたんだよ」
(ま、待ってた…?)
意味が掴めずに戸惑う〇〇をよそに、亮は手すりに肘をついて月を見上げる。
「昼間は騒がしかったけど…夜はいいね。○○と二人きりになれる」
さらりとそんなことを言う亮に、〇〇の心臓は跳ね上がる。
夜風のせいで頬が熱いのか、それとも彼の言葉のせいなのか――もうわからなかった。
「ねぇ、〇〇」
名前を呼ばれ、思わず振り返る。
月明かりに照らされた亮の横顔は、どこか儚げで、それでいて近づきたくなるような魅力を放っていた。
「……俺、◯◯のこと、もっと知りたい」
静かな夜に、その言葉だけが鮮明に響いた。
〇〇は何も答えられず、ただ胸の鼓動が速くなっていくのを感じるしかなかった――。
転校してきてから数日。
亮は、あっという間にクラスの人気者になっていた。
「亮くん、次の授業一緒に行こ!」
「ねぇ、LINE交換してよ〜!」
休み時間になると女子たちに囲まれ、男子からも一目置かれる存在。
〇〇はその光景を少し離れた席から眺めていた。
(……やっぱり、すごいなぁ)
整った顔立ちと自然な気配りで、誰もが彼に惹きつけられる。
でも、〇〇にとっては家で見せる「ちょっと気さくで普通のお兄ちゃんみたいな姿」のほうが印象に残っていた。
そんなある日。
昼休みに友達と一緒にお弁当を食べていると、背後から声がかかった。
「〇〇」
呼ばれて振り返ると――亮が立っていた。
周りの女子たちが一斉にざわめき、視線が〇〇に集まる。
「えっ…な、なに?」
「昨日の宿題さ、ちょっとわかんなくて。見せてもらっていい?」
――そんなことで?
〇〇は苦笑しながらノートを差し出した。
「ありがと」
亮は自然に隣に腰を下ろし、二人でノートを覗き込む。
(ちょ、ちょっと距離近い……!)
周囲の視線に落ち着かない〇〇とは対照的に、亮は楽しそうに話を振ってくる。
「○○って字きれいだね」「ノートの取り方うまいな」と、さりげなく褒め言葉を並べて。
気づけば友達たちも少し離れて気を利かせてくれていて――
〇〇は胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。
(でも……これはただの“兄妹”だから。特別じゃない)
そう思おうとしても、亮の瞳がやけにまっすぐに映るのを、どうしても無視できなかった。
第2話
〜完〜