テラーノベル
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ミイノ
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このお話は・・・『本編後想定』
⚠本編のネタバレを含む可能性があります。
⚠会話相手として名前のない人物が登場します。
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「───はぁー……にしても今日、マジで疲れたわー。」
講義終わりの午後のこと。
隣を歩く友達は、すこし機嫌の悪そうな顔をして、熱いアスファルトを蹴りながらため息混じりに言う。
「この暑い中、延長だぞ延長。部屋も広くて空調全然効いてねぇし内容もつまんねぇし。最悪だった〜。」
「あぁ。それで今日、待ち合わせにちょっと遅れて来たワケ?」
「そうなんだよ。あーあ、お前も同じ講義取ってれば道連れにできたのになぁ……」
「無茶言うなって。オレは今年から大学入ったの、知ってんだろ?」
「そりゃあそうだけどさ……お前もあの時受かってたのになぁ。なんかあったんだっけ、家の事情?」
「そ。昨年はいろいろ忙しかったの」
そんな会話を交わしながら、近くの駅に足を踏み入れる。
日陰に入って、蝉の声に背を向けた。
「なぁ、ゲーセンって向こうの道じゃね?」
「ココ突っ切った方が早いんだよ。一本道だし、特に障害物もないからな」
「“障害物”て。駅の中で走る気でもあんのかよ」
「いやっ、そうじゃねーって!フツーに“歩きやすい”って意味だっつの。」
「だよなぁ、冗談冗談。にしてもお前、一年見ない間に言葉選びとか結構物々しくなったよな。」
「……さぁ?気のせいだろ───」
───そんなことを言いながら、駅の出口まで差し掛かった時。
ふと、視界の端に鮮やかな色彩がチラついて見えた。
……足が、勝手に止まる。
世界が流れを止める。
一瞬だけ、音が遠のいた気がした。
蝉の声も、足音も、何もかも。
「───…………。」
連想ゲームみたいに、断片が勝手に繋がっていく。
考えたくないのに、勝手に辿り着いてしまう。
「……おーい。千明ー?」
呼ばれていたことに、そこでようやく気づいた。
瞬きした瞬間、世界が一気に戻ってくる。
「どうしたんだよ、急に止まって。」
「あ……悪ぃ、ボーッとしてた。」
先に進んでいた友達が戻ってきて、オレの視線の先を辿るように同じ方向を見る。
「……なんだあれ。歌舞伎……のポスター?お前、歌舞伎なんて興味あったっけ?」
「……いや……。なんか、興味とか……そういうやつじゃなくて……」
言葉が途中で止まる。
うまく言えない。というより、言いたくない。
「……なんでもねーよ!ほら、ココあっちぃし。早く行こうぜ」
「おぉ。まー歌舞伎とか、お前らしくないもんな。どっちかっつーと正反対だろ」
「……そーだよな。オレもそう思うわ。あんな硬っ苦しいの───。」
───できる奴なんて。
そこまで言いかけて、やめた。
「───そういや今日、アレ稼働日じゃなかったか?おまえの好きなやつ」
「あぁ、そうだ!講義延長のせいですっかり忘れてたわ。サンキュー千明!」
「根に持ちすぎだろ!」
笑いながら、また歩き出す。
足は軽いはずなのに、胸のどこかだけが妙に重かった。
よく晴れた、青空の眩しい午後。
何も変わらない、なんてことない、日常だった。