‘リョウ’
「…気持ちわる……っ…」
‘部屋電気ついてるか?’
「…つけた……」
‘暖房は?’
「………つけた」
‘ぅーーっん’
ここで颯ちゃんが大きく伸びをしたのがわかり、私もふーっと自然に息を吐く。
‘温かいものでも飲む?俺もキッチンに下りるわ。リョウ、何飲む?’
「…紅茶……ミルクティー」
‘頑張って準備しろ。一緒に飲むだろ?’
「…うん」
モコモコの靴下を履き、マグカップ1杯分のお湯を沸かすとティーバッグで紅茶を入れる。
「颯ちゃん、みんな起きない?大丈夫?」
‘大丈夫だ…それよりこの紅茶しかないのか?これイマイチなんだよな……’
パタンと何かを閉める音やピッ……という電子音が聞こえてくる。
「私、もう出来たよ」
‘早くないか?’
「ワンルームの特権?」
‘ワンルームなのか?’
「1DK。快適だよ」
‘憧れのマンション生活’
「そうなの?」
‘ずっと家だから一度マンションもいいかとは思うな…よし、こんなもんか……ベッドに戻るわ’
私もベッドに戻り、通話はスピーカーにすると脚を布団に入れて、座って両手でマグカップを持つ。
「颯ちゃん」
‘うん?’
「吐かなかった」
‘もう?大丈夫か?’
「うん、ムカムカ気持ち悪いのが治まった。大丈夫」
‘頑張ったじゃねぇか。乾杯’
「ふふっ…乾杯……ありがとう、颯ちゃん」
‘あっちっ…気をつけて飲めよ’
「出た」
‘何が?’
「過保護な間宮兄弟」
‘ひとまとめにすんなよ’
「えーっ、鍵チェックとか二人一緒だよ」
ズーッと、きっとわざと音をたてて紅茶を飲んだ颯ちゃんは
‘何の夢みた?’
とても静かに聞いてきた。
「颯ちゃんが出てきたよ」
‘やるじゃねぇか、リョウ’
「…恵麻ちゃんも……」
‘クソな’
「へっ…?くそ……?」
‘完全に縁を切って他人以上に他人。それ以下。クソで十分’
静かなトーンのまま話す颯ちゃんは、今どんな表情をしているのだろう。
「……ふふふっ…あっ…カップが揺れる…ふふっ……」
‘どうした?’
「颯ちゃん、ありがとう」
‘何もしてないがな’
「今、こんな時間に話してくれてる」
‘お安いご用だ’
「…もう……どうでもいいや…他人以上に他人の人の気持ちなんて到底理解できないもの……もういいよね」
‘リョウが考えたければトコトン付き合うぞ。ああでもないこうでもないとしか…正解は出せないだろうが、無理に気持ちを封印することはない。クソのことで俺が吐くかもしれないが、リョウの思いは聞く、受け止める…そして抱きしめてやる’
耳に当てていないスマホから聞こえる声が部屋全体を温かく包み込む。
私は空になったカップをアラーム時計の横に置く。
本当はすぐに洗いたいけど、急に眠くなってきた。
布団の中でごそごそとモコモコ靴下を脱いでいると
‘何してる?’
「寝る準備…眠い」
‘吐き出さずに眠れるのか?’
「…颯ちゃんがどーでもいいって……」
‘全くそうは言ってねぇが…お前もう頭が寝てんじゃね?’
「3時半だもん」
‘何時起き?’
「…7時かな……」
‘かなって、7時に電話してやるから布団に入れ’
「……いちいち言わないでよ…」
‘電気’
「…消しましたぁ……」
‘膨れんなよ、リョウ。おやすみ’
「おやすみ…」
‘電話…嬉しかった’
「…ん……」
‘もう少し話しててやる’
「…ぅ……」
‘リョウの自転車、今な、サドル一番高くて違うものに見えるぞ’
「…ふ…ふっ……」
‘会いたい’
コメント
1件
颯ちゃん…もぅ、また泣けちゃう。 その行動全く思いつかなかった。離れていても同じことをする。颯ちゃんの優しさとリョウへの想いが痛いほど伝わってくるよ。良子ちゃんの想いも。 会わせてあげたい2人を…でも良子ちゃんはなんて…?