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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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せっかく来たのに楽しめないのは勿体無いと思ったから。

みんなと話せるきっかけになればと、そばに座って少し会話をしただけ。


最初はそうの派手な見た目と、鋭く見える三白眼に怯えていた舞衣歌まいかだったけれど、話しているうちに段々馴染んできてくれて。


「重すぎる」と言われて彼氏にフラれたばかりだと眉根を寄せた彼女に、当たり障りのない返事をしたそうだ。

その流れで「山波やまなみくんは彼女はいないの?」と聞かれたから「今はいない」と答えた。


ただそれだけ。


そういう、そうにとっては深い意味なんてなかった言動のあれこれを、好意だと受け取られたのだとしたら申し訳なかったな、と思いはしたけれど。


お兄ちゃん気質で、ついお節介をしてしまうのは悪い癖だと分かっていても、なかなか一朝一夕いっちょういっせきに直るものではない。


学生時代からこの性格のせいで結構女の子に期待させてしまった経験のあるそうだ。


舞衣歌まいかほど酷く思い込むは初めてだったけれど、それでもそう言う経験がなかったわけではなし、もっと気を付けて行動すべきだったと反省したのも事実。



「結局その子がさ、俺の周りにいる女の子を手当たり次第き嗅ぎ回り始めちまって。あのままだとお前にも迷惑がかかりそうだったから……」


どこか申し訳なさそうにそうが苦笑して。


「お前、強く出られると怯んじまうトコあんだろ? 結構な剣幕で迫られたって会社うちの事務の子に聞いてさ。こりゃマズイなって思ったんだ」


そうの口ぶりだと、自分を守るために家を出た、と言っているように聞こえてしまった結葉ゆいはだ。


でも、すぐにまさかね、と頭を振ってその考えを追い払う。


(きっとそうちゃんは妹のせりちゃんを守る感覚で、私のことも気にかけてくれただけ……)


そう思い直して、結葉ゆいははひとまず納得して。


「彼女には実家を出るって話して、ちゃんとアパートここの住所も教えた。そうすりゃあこっちで全部引き受けられるからな。実家の方を彷徨うろつかれる心配も減る」


そうの目論見通り、舞衣歌まいかそうのアパートを頻繁に訪れるようになったらしい。


「時間は掛かったけど、彼女にはちゃんと納得してもらったよ」


正確には、舞衣歌まいかに新たな恋のお相手が出来て、自然に離れていってくれただけなのだが。



そうはどのくらいの期間、付き纏われたかまでは話さなかった。


だけど期間はどうあれ、そうにとって結構な負担だったに違いない、と思った結葉ゆいはだ。


結葉ゆいはが同じ立場だったらきっと一人で抱えるなんて無理だったと思う。



あの頃の結葉ゆいはは、そうに彼女が出来たと思い込んで勝手に意気消沈して。

両親に勧められるまま偉央いおと見合いをしてお付き合いするようになっていた頃だったから、そうがそんな大変なことになっているだなんて思いもしなかった。



「……大変、だったんだね」


自分がそうを忘れるためという名目で始めた、新しい恋愛にうつつを抜かしていた間、そうがそんな目に遭っていたんだと思うと、結葉ゆいははギュッと胸が苦しくなった。


それと同時、もしもその時、今みたいに自分が真実を知っていたならば、未来は変わっていたんじゃないかな?とか有り得ない「たられば」を考えてしまって。


(バカね、結葉ゆいはそうちゃん、好きな人居るって言ったじゃない。――もしそうだとしても私はきっと偉央いおさんと結婚してた)



そう。

そうは付き纏う女性を牽制けんせいするために「好きな子がいる」と、本音でぶつかったと話していたのだ。


彼女がいた事が真実ではなかったにせよ、そこに結葉ゆいはの入る余地なんて元からなかったではないか。




「ま、昔の話だ。今は静かなもんよ。――んなわけで、ここにお前が居ても何も問題ねぇってわけ。だから変に心配すんな? ――分かったな?」


そうは、どうやら結葉ゆいはにそれを伝えたくて、この話をしてくれたらしい。


「ん、分かった。……そうちゃん、有難うね」


言いながら、胸の奥に小さな棘が刺さったままなのを、結葉ゆいはは紅茶をひとくち飲んで喉の奥に流し込んだ。



そうは優しいから。

こんな風に言ってくれてはいるけれど、彼が好きな女の子と結ばれるためには、自分の存在が邪魔でしかないのは明白だ。


そうの中では妹位置なのかもしれないけれど、世間一般に見れば結葉ゆいはそうは赤の他人なのだから。


実妹のせりそうに甘えるのとはわけが違う。



(いつまでもそうちゃんに迷惑を掛けるわけにはいかない)


そう思った結葉ゆいはだ。


そのためには、偉央いおとのことを一日でも早く決着を付けなければ、仕事を探す事ですらままならないと気がついた。


仕事が決まらなければ、生活の基盤が整わないから、ここを出て行くことすら叶わない。


(まずは自分のことと、ちゃんと向き合う勇気を出さなきゃ)


偉央いおとのことに決着をつけると言うことは、そういうことも含んでいる。



結葉ゆいははほうっと吐息を落とすと、居住まいを正してそうをじっと見つめた。


そうがこんな風に違う話をしてワンクッションあけてくれたのは、結葉ゆいはを安心させるためだけじゃないのも、分かっているつもりだ。


きっと、そうは他の話をして時間を稼ぐことで、結葉ゆいはが気持ちに整理をつけて、せめて今日の事だけでもことの次第を話してくれる準備が整うのを待ってくれている。



「あのね、そうちゃん。驚かないで聞いてね――」


結葉ゆいはがそう告げたら、そうがスッと目をすがめて、背筋を伸ばしたのが分かった。

結婚相手を間違えました

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