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ウさぎ
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彼女は名誉や地位に興味がないのだろうか…?それならばどうして…っと志向が再び闇に呑まれそうになった時、うつむいていた僕の視界に誰かの脚が入り込んできた。誰だとしてもまた心無い言葉を言われるのだろうと、身構えた僕の耳に聞こえてきたのは聞きなれた村人の声ではなく、先ほど初めて聞いたまるで鈴の音のようなかわいらしい声だった。「ねぇ。セリオ」そう呼ばれて、無視をする訳にも行かずおずおずと顔を上げれば思ったより近くにいた彼女の幻想的な琥珀色の瞳と目が合った。その瞬間言いようのない既視感と、周りの一切の音が聞こえない感覚に囚われた。村人たちは何かを言ってるようだが、僕からはまるで金魚が口をパクパクしているようにしか見えないのだ。それに混乱している僕のことを知ってか知らずか、彼女はさらに一歩こちらに近づき口を開いた。
「一緒にこの村から出よう。ずっと君を……」そのあとに続く言葉は、誰かが教会の壺を割った音にかき消され聞こえなかったが、なぜか彼女が僕を知っていて旅に連れて行こうとしていることだけは理解できた。おそらく、壺を割り何かを叫んでいるラッセルはそれが気に入らなかったのだろう。その証拠に、ナイフを持ちこちらに突っ込んできているのだから。しかし、どうするべきかと考えようとしたときには、ラッセルの姿は目の前になかった。アサシンのスキルか?そう考え周りを見渡して気づいた、スキルなんかじゃない。僕のすぐ横にいたサリスという少女が、ラッセルの手をつかみ壁にめり込ませている。「もしもう一度セリオに何かしようとしたら、そのときは……迷わず殺す。分かったら二度と近づくな。」そのかわいらしい容姿からは想像できないような地を這うような声で、静かに彼女は告げた。
それに気おされたように、ラッセルは目を見開いたのち逃げるように後ずさりをし逃げて行った。それを見ながらなぜ彼女が自分のためにそこまでしてくれるのか、何故自分を知っているのかいろいろな思考が頭の中を巡っていた。それすら見透かしたように、こちらに手を差し出してまるで僕が拒絶しないことを分かってるように彼女はこう言った。「行こう。世界を救うには、君が必要だ。私のことはあとできっと思い出すだろう、今は考えなくていい。君が今すべきことは外の世界に行くことだ、ここにいることじゃない。」おそらく時間にすると一秒もたたないだろうが、少しの間彼女を見つめた僕はその手に自分の手を重ねた。彼女と一緒なら大丈夫、不思議とそう思えたのは彼女の言う思い出すことと何か関係あるのだろうか?
そう考えていると、重ねた手を強く挽かれいつの間にか教会の外へと誘われていた。どんな表情をしているのかと見てみれば、まるで花が咲いたような笑顔をしていて、こういう表情もするのかと驚きと心の奥で言いようのない感情が沸き上がり、それに首をかしげながらもそのまま手を引かれ続け気づいたら村の門の前まで来ていた。一度だけ振り返ってみると、村の人たちが忌々しいものを見る目でこちらを見ているのが見え落胆すると同時にここに居場所はないと理解し未練はなくなった。そのままセリアとともに目の前の森の中に入った僕は、憎悪野まなざしに紛れるように薄く笑っていた人物に気づくことはなかった。