シンヤ達はグラシアの街の冒険者ギルドに戻ってきた。
「よう、ユイ。依頼達成の報告に来たぞ」
「シンヤさん! おかえりなさい! 皆さんもお疲れ様です! ……あれっ!?」
「どうした?」
「ええっと……。レオナードさんとそんなに仲が良かったでしたっけ……?」
受付嬢であるユイは、シンヤの腕に手を回しているレオナードを見て首を傾げた。
その様子は、まるで仲睦まじい恋人同士のようだった。
「まあ、いろいろあってな。それより、依頼達成の手続きを頼む。これがレッドボアの魔石だ」
「はい、確かに。それでは、処理を進めますね」
魔物の魔石は、それ自体が討伐の証明になる。
冒険者同士で魔石を融通し合うことや、市場に流れている魔石を購入して討伐したと主張することは禁止されている。
もちろんこっそりやっている者はいるが、数は多くない。
バレた罰則が重いのもあるし、そもそもうまくやったところで見返りが少ないのだ。
自分の実力以上の功績を積み重ねたところで、いつかはバレる。
それよりも、地道にコツコツと実績を積んでいく方が結果的に儲かるというものだ。
「はい、これで完了ですね。こちらが報酬となります」
「ありがとう」
「いえいえ。それにしても、レッドボアを倒したというのに皆さん余裕そうですね……。さすがはシンヤさんです」
レッドボアは中級の魔物だ。
高ランクの冒険者ならまだしも、Cランクぐらいの冒険者ならそれほどの余裕はないはずだった。
「ん? いや、そのレッドボアを倒したのはレオナードだぞ」
「えぇっ! そうなんですか!? てっきりシンヤさん達が倒したのかと思いましたよ……」
「まあ、俺達でも倒せるけどな」
シンヤがこともなげにそう言う。
「それなのに、なぜレオナードさんが?」
「ユイも知っているだろう? 数日前に、俺はレオナードに稽古を付けてやったんだよ」
「はあ。それは把握していますが……」
正確に言えば、シンヤとレオナードの戦いは決闘だった。
だが、シンヤからすれば若く未熟なレオナードの相手をしてあげただけだと思っている。
「その後も、俺はレオナードに引き続き稽古をしてやったんだ。今回の依頼を一緒に引き受けたのは、そもそも彼女の成長を確認するためだったのさ」
「なるほど……。それで、レオナードさんの調子はいかがですか?」
「かなり強くなったと思うぞ。なあ? レオナード」
「おう! シンヤ兄貴のおかげで、いろいろとコツを掴めた! オレはこれからもどんどん強くなっていくぜ!!」
レオナードが元気よく答えた。
それは、ギルド中にいる冒険者達にも聞こえていた。
「おい……聞こえたか?」
「ああ。他国から流れて来たっていうあのレオナードとかいう奴……。決闘でシンヤに軽くあしらわれたところまでは見ていたが……」
「あの後、鍛えられたのか……」
「レッドボアを倒しただと? 本当なのか?」
「シンヤが手柄を譲っているんじゃないのか?」
そんな声が聞こえてくる。
「レオナードさんの成長は、当ギルドとしても喜ばしいことです。しかし、それならシンヤさんは今回付いていっただけと?」
「ん? いや、それは違うぜ。その後、想定外の出来事があってな……」
「想定外、ですか?」
「ああ。言葉で説明するより、実物を見せた方が早いか」
シンヤはそう言って、カバンからクリムゾンボアの魔石を取り出した。
「これは……!?」
「クリムゾンボアの魔石だ」
「こ、こんな大物を一体どこで……」
「ああ。レッドボアを倒した後に、偶然遭遇してな。結構危なかったぜ」
「結構危なかったって……。そんなに適当な……。いえ、以前にもクリムゾンボアを倒されているシンヤさんなら、ありえる話なんでしょうね」
ユイは納得したようにうなずいた。
「ちなみに、これを倒したのはミレアだからな」
「ええっ!? そうなんですか!?」
「一応はそうダ。まあ、シンヤからの援護もあったし、最後の自爆を防げたのもシンヤのおかげダ。あたし一人の力じゃないヨ」
ミレアがそう補足する。
「は、はぁ……。しかし、レッドボアだけじゃなくてクリムゾンボアまで……。シンヤさん達は本当に凄いですね」
「まあな。それで、その魔石の買い取りも頼むぜ」
「はい、かしこまりました!」
受付嬢ユイにより、魔石の買い取り処理が進められていく。
「では、こちらをどうぞ!」
そして、ユイは金貨の入った袋を差し出した。
「ありがとう。それじゃあ、俺達はこれで」
「ちょっとお待ちください! まだ話は終わってません!!」
ユイが帰ろうとするシンヤ達を引き留める。
「まだ何かあるのか?」
シンヤは首を傾げ、そう尋ねたのだった。
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