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「……なんで俺も誘ってくれなかったんすか?」
月曜の朝、俺たちの浴衣姿の写真を見返していたりゅうせいが、今にも泣き出しそうな声で訴えてきた。
「は?! いつきくん、ちゃんとりゅうせいのことも誘ってくれたじゃん」
「ほんとだよ。人混みがダメだって断ったのはりゅうせいの方だからね?」
だいきといっちゃんが呆れたようにツッコミを入れる。リンゴ飴や綿菓子を手に、大人がこれでもかとはしゃいでいる写真を見せつけられれば、そりゃ後悔もするだろう。
「浴衣着るなんて聞いてない!! だったら俺も行きました!!」
「りゅうせいはいつきくんの浴衣姿を、生で見たかっただけだろ?」
いっちゃんの意地悪な指摘に、りゅうせいは顔を真っ赤にして黙り込んだ。
……ふふ、良かった。あいつの「俺のこと好き」は、まだ健在だったんだな。彼女ができた(らしい)と聞いても、まだこうして俺のことで一喜一憂してくれる。それだけで、俺の乾いた心が少しだけ満たされるのを感じていた。
「来年は一緒に行こうな。だいきがりゅうせいの分の浴衣も買ってくれるってさ」
「りゅうせいかぁ……。ちょっと考えとくわ」
「そこ、二つ返事じゃないんすか?!」
不服そうなりゅうせいだけど、俺にはわかる。だいきは一緒に行くのを渋っているわけじゃない。今、頭の中でりゅうせいにどんな色と柄の浴衣が似合うか、猛スピードでシミュレーションしているだけだ。
「……来年は、一緒に行きます。多分、大丈夫だと思うんで」
俺にだけ聞こえるような小さな声で、りゅうせいが返してくれた。
……ああ、やっぱり。俺がいるから、気まずくて断ったんだな。
俺がりゅうせいの「楽しむ場所」を奪ってしまった罪悪感と、まだ好意を向けてもらえる嬉しさ。そして来年には、彼が完全に俺を諦めてしまっているかもしれないという寂しさ。
いろんな感情が混ざり合って、もう、どんな顔をしていいかわからなくなる。
「……よかったら、彼女も一緒に」
「え?」
バカだ、俺。こんな嫉妬まじりの提案をしたって、どうしようもないのに。受け入れなかったのは俺の方で、全部自業自得なのに。
「……そうっすね。そうします」
ニコッと笑ったりゅうせいの瞳の奥が、今はもう読めない。
そうだよな。彼女がいるなら、俺への執着なんてただの未練か、あるいは「エロい浴衣姿が見たかった」程度の冗談なんだろう。
「……もう、なんでもいいよ……」
考えるのを放棄して、俺はデスクに突っ伏した。
恋ってこんなにしんどかったっけ? これがずっと続くのか? 「寄り添っていければいい」なんて、どの口が言ったんだ。本当は、手に入れたくて、独占したくて仕方なくなっているくせに。
「どうしたの?! いつきくん!! 気ぃ失ってるじゃん!」
「救急車、呼んだ方がいいっすか?!」
「大丈夫! 俺、人工呼吸できるから!」
「やだよ! 誰かだいきくんを止めて!!」
俺の頭の上で、騒がしいコントが始まっている。
……ほんと、誰か病院の先生を呼んできてくれ。そして、俺のこの面倒くさい脳みそを、何も感じない機械と入れ替えてくれないかな。
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