〈ストーリー〉
「ちょっとこっち向いて!」
先を行く彼女に声を掛けると、長い髪を揺らして振り返る。その爽快で明るい笑顔を、持っていたカメラに収める。カシャッと良い音がした。
「もう、何撮ってるの」
とむくれながらも、
「どんな感じ?」
カメラをのぞきこんでくる。
「かわいいよ、ほら」
その言葉に照れたようだ。「だから何言ってるのってば」
その表情もまた、愛くるしい。
いつもデートのお供に連れていく愛用の一眼レフカメラには、たくさん彼女の写真がある。
たまにはツーショットもいいかな、とレンズを向けて、肩を抱き寄せた。
「一緒に撮ろ。はい、チーズ」
またカシャッとシャッターが切られる。
見せてというので、画面を彼女に向ける。写真の中の君と僕を見て、満足げにうなずいた。
「ねえ、次はどこ行く?」
「好きなとこでいいよ。俺は付いてくから」
「いつもそれじゃん。たまにはリクエストして」
じゃあ…としばらく考えたあと口を開く。「カフェ行こう」
珍しいね、と彼女は笑った。「あんまグルメのイメージない」
「一軒だけ、気に入ってるところがあるんだ。家の近くだけど」
じゃあそこ行こ、と歩き出す。
「そのカフェって何があるの?」
「えー、ふつうにコーヒーとかケーキとか。今の季節だとイチゴもあるかな」
イチゴ、というワードに反応して振り向いた。「食べたい!」
ふふ、と抑えきれなかった笑みをこぼしながら手を取った。
「どれにしよう……」
ちょうどそのカフェでは期間限定のストロベリーフェアを開催していた。
赤い果物で埋め尽くされたメニューを前に、迷う彼女。
僕はいつものコーヒーだ。
やがてそれぞれが注文したものが運ばれてくる。彼女は、迷った末にイチゴのパフェにした。
「美味しそう」
パフェの頂上で輝くルビーみたいな宝石に負けないくらいの笑顔。
それもまた、自分のカメラで撮った。思わずこっちまでニコリとなる。
その笑顔が、ずっと見られると思っていた。
大好きな彼女の写真を、これからも残していけるはずだったのに。
続く