『…………どうしてこうなったんだ。』
結局あの後怒ったイザナさんに無理やり脱がされ、不貞腐れた私はブクブクと肩まで浸かっていたお湯に顔をうずめる。
隣ではポタポタと水が床を叩きつける音をたてながらシャワーに打たれるイザナさん。
『…しにたい』
「ンでだよ」
初対面の人に裸見られたからだよ。思わず叫び出しそうになった自分の口を急いで塞ぐ。
危ない、あともう少しでまたイザナさんの地雷(だと思う)を踏み込んでしまうところだった。
『……何でここまでするんですか』
「ここまでって?」
私の問いかけにシャワーの音の間からイザナさんの聞こえにくい声が問い返してくる。
『ご飯作ってくれたり、お風呂入れてくれたり…』
“好き”、なんて言ったり。
ただの女子高生の私に、それも今日初めて会った私に、ここまで尽くすなんて。いやまぁ別に尽くしてなんて頼んでないけど。
考えれば考えるほど不思議な人だ。イザナさんは。
「好きだから」
ギュッとシャワーを止める音が耳に届き、代わりにそれまで聞こえてきた水の音が消える。
「好きだから尽くしてェの」
『…すき』
譫言のように同じ言葉を繰り返す。あぁまた出た、イザナさんの“好き”攻撃。
『……私達、どこかで会ったことありましたっけ?』
ずっと思っていた疑問を口に出す。
初対面の女を誘拐したり抱き締めたり好きなんて言ったり、一緒に風呂に入ったり。全てが当たり前かの様な素振りに違和感を抱く。
それだけじゃない。
『……なんか、懐かしい。』
さっきからずっと胸に住み着く見覚えのないこの懐かしさ。やっぱり気のせいじゃない。
『あなたは私の何なんですか』
噛み付くように質問する。答えが返ってくる見込みのない質問、それでも聞いておきたかった。
「…さぁ、それを思い出すのが今の○○の課題ってことにしとくか。」
『え?』
予想以上に曖昧な回答につい間抜けな声が出てしまう。
『やっぱり………』
やっぱり初めましてじゃないの、その問いが喉に詰まる。
イザナさんの表情が寂しそうに歪み話しにくそうでそれ以上は聞かないでおく。
「好きだよ、○○」
『…どうも。』
好き、なんて本当に。
本当に不思議だ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!