第2章〜貴方のを見届けるまで〜
朝の7時。
あともうちょっと遅く起きてたら遅刻しそうになっていた時間に陸斗は起きていた。
「ふぁ…眠…」
眠たい眼を擦りながら洗面台へ行き、いつも通りに冷水を顔に付ける。
一瞬で眠気が覚めるのが分かる。
陸斗は傍にあったタオルを取り、顔を拭き、歯を磨いてからリビングへと向かった。
机の上には既に調理済みの魚と汁物に白飯が置かれてあった。
「早く食べちゃって、私今日は用事があるからもうすぐ出なきゃなのよ」
陸斗の母がそういいながら先に食べたのであろう食器を洗っていた。
「はいはい。どうせまたママ友でしょ」
陸斗は半笑いで席に着き、「いただきます」そう言って食事を始めた。
テレビを付け流しにしながら陸斗が黙々と朝ご飯を食べていた時だった。
『ピローン』
『ここで速報が入りました』
テレビからのたまにしか聞こえない音が流れた。
緊急速報。
陸斗はふいにその音につられて顔をテレビの方向に向けた。
テレビに大きく書かれていた題名は
『連続心臓抜き出し殺人事件犯人、出没か』
だった。
「グロいことするやつも居たもんだなぁ…」
ここのところ毎日ニュースで流れている話だ。
連続心臓抜き出し殺人事件。
被害者の心臓を抜き出している殺人魔の所業だ。
無差別に人を殺しているようだが何で心臓を抜き出すのかは分からない。
そんなことを呑気に時間も見ずに考えていると
「こら!陸斗!あんた何呑気にしてんのよ!遅刻しちゃうよ!?」
そう母に怒鳴られた。
時計を見ると現在時刻7:44
8時までに登校しないといけないので結構マズイ
陸斗は残っていた汁とご飯を一気に口の中にかきこみ、「いってきまーす!」そう言い残し、自転車に飛び乗り全力で学校へと向かった。
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「おはよー」
現在時刻は7:58
何とか遅刻ギリギリで学校に着いた陸斗は幼稚園時代からの幼馴染、五十嵐 美羽にそう声を掛けた。
「あんたねぇ、また今日も時間ギリギリに起きたんでしょ!」
「御明答♡」
美羽に図星を突かれながらも陸斗は笑いながら受け流した。
「そんなばっかじゃ将来後悔するよ?!」
美羽は昔からとても繊細で、よく陸斗の事を気にかけていた。
近頃は陸斗の将来についても考えてくれているらしかった。
「分かってるしな〜」
陸斗はそんな美羽を少しだけお節介だと思いながらもいつも通りの会話を始めた。
教室も一通りに人が集まったらしく、段々わいわいとした雰囲気になってきた。
陸斗が登校してから数十分後。
担任が何やら慌てて教室に入ってきた。
「皆、今日はもう家に帰っていい、緊急で先生達が会議に行かないといけなくなった。理由はわかると思うが噂のあれだ。気をつけて帰れよ。深入りはしないように!」
そう言うだけ言って担任は職員室に踵を返して去っていった。
一瞬だけクラスの中にシンとした空気が流れた。
だが次の瞬間には教室中はワッと騒ぎ始めた。
何しろこんな時間から、しかも平日に休校になったので、カラオケに行こう、やら、ゲームしよう、やらで話し合いが始まったのだ。
(俺はもうこのまま直帰で良いかなぁ…)
そんなことを陸斗が考えていると美羽が話しかけて来た。
「ねぇ、陸斗」
「一緒にカラオケ行こうよ。私ん家今帰っても誰も居ないから暇なんだ」
陸斗は少しめんどくさかった。
(めんどいけど俺も家帰っても誰もいないしな)
そういうことで陸斗は美羽の提案により、カラオケに行くことになり、2人で下校した。
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学校近くのカラオケに行き、2人で一通り歌い終わった後、陸斗と美羽は自転車を引きながらのんびりと歩いていた。
「陸斗はほんと高音でないよねー笑」
「出なさすぎて逆に笑えてくる笑」
「うるせー、しょうがねぇだろ男の子だからな」
そんな会話を2人で笑いながらしていた時だった。
ガシャンッ
少し遠くで何か物が落ちるような音が鳴り響いた。
陸斗と美羽の周りには誰も居なく、それに加えて何か落ちている様子もなかった。
「何の音だ?」
陸斗がそう言った。
「あ。あそこからじゃない?」
美羽がそう言いながら指を指したのは30m程離れた路地裏だった。
確かにここからじゃ死角になる路地裏で鳴ったとなると辻褄が合う。
「ねぇ、行ってみよっか」
不意に美羽がそんな事を言いだした。
幼い頃からの美羽の悪い癖だ。
好奇心旺盛で、何をするにもいつも美羽が「行ってみよう」そう言って始まるのだ。
怖いもの知らずと言えば怖いもの知らずなのだが、好奇心旺盛で何にでも突っかかる癖に必ず俺を巻き込むのでそこだけは1人では行けないんだろうなといつも思う。
「ほら早く」
美羽は俺の袖を掴み無理やり路地裏へと向かいだした。
「やめとこうぜ、事件とかだったらどうすんだよ」
「大丈夫だよ、叫び声とか聞こえなかったし」
お前、少しは危機感もてよ。そう言いたかったのを我慢して、陸斗は大人しく美羽について行くことにした。
美羽と陸斗は路地裏を覗き込むようにして見ていた。
陸斗は少し不信感を抱きながらも美羽と共に覗き見た。
するとそこには衝撃なものがあった。
「ひっ…」
美羽が小声で息を飲んだ。
それもそのはず。
そこには横たわった死体と謎の女性が立っていたからだ。
「何…あれ、死体…、?」
美羽が怯えながら陸斗の方を見た。
陸斗も困惑の色に顔を包まれていた。
「それしかねぇだろ…」
幸いにも謎の女性は2人には気付いて居なかった。
「ど、どうする…警察呼ぶ…?」
美羽が半泣きになりながら訴える。
「待て」
陸斗はそれを止めた。
なぜだかは分からないが止めなければいけない。そう陸斗は確信していた。
数分立ってようやく謎の女性が動き出した。
謎の女性は髪の毛を毟り始めた。
いや、ウィッグを取り始めた。
そこに居たのは顔の整った美青年だった。
陸斗はその顔に見覚えがあった。
「早野駿…」
「え、何、知り合い、?」
陸斗は自然とその名を口にしていた。
知り合いではないが知っている。
陸斗と美羽の学校の生徒だ。
年齢は2人と同年代。
最近転校してきた小田谷日菜と付き合っているのではないかと言われている人物だ。
しかし陸斗はそれだけの関係ではなかった。
「早野駿…アイツは俺の目標の人物だよ…」
そう。
陸斗は前々から駿を目標にしていたのだ。
駿はあまり目立たなかったが、功績としてはとても良いものを出していた。
サッカーチームでの全国出場や読書感想文の市長賞、書き初め展での最優秀賞。他にも色々な賞や実力を持っていた。
それでも皆に注目されなかったのは駿の体質なのだろう。
「アイツ…人殺しも出来んのか…笑」
「陸斗…?」
陸斗はいつの間にか笑っていた。
美羽はそれが少し恐怖でもあった。
「美羽…俺、やっと気付いたよ…」
「俺はアイツを目標としてるんじゃない、そんなやわなものじゃない…」
「俺はアイツを尊敬して、憧れてんだ…」
「な、何言ってんの陸斗…!」
美羽は半泣きでそう言い陸斗を連れ出した。
これは俺があの人に憧れて始まった物語
コメント
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わお、今回もめっちゃ上手いですね、
まってまって、1話から最高すぎん?? これからがめっちゃ楽しみなんだが!!
NEXT→♡500〜1000over 遂に公開しました!第1話どうでしたでしょうか…これから始まる物語、ぜひぜひ皆さん最後までお付き合い頂けると嬉しいです。