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汚水の中から爆ぜるように飛び出した俺は
一切の躊躇なく一人目の喉元へとドスの刃を突き立てた。
特殊工作員の纏う分厚いタクティカルベストに阻まれることもなく
研ぎ澄まされた鋼は吸い込まれるように皮膚を裂き、気管を深く貫く。
男は悲鳴を上げることすら許されず、喉の奥からゴボリと赤い泡を吐き出し、力なく崩れ落ちた。
「なっ……!どこから――ッ!?」
至近距離にいた二人目が、戦慄に顔を歪めながら慌てて銃口を向ける。
だが、訓練されたその動作も、極限まで研ぎ澄まされた俺の「殺意」よりは一段階遅い。
俺は返り血を全身に浴びたまま、至近距離で男の銃身を掴み、力任せにその射線を逸らした。
直後、地下道の閉鎖空間に一発の銃声が轟き、鼓膜が裂けるような衝撃が脳を揺さぶる。
マズルフラッシュが闇を白く照らし出した刹那
俺は男の懐へ深く潜り込み、あばら骨の隙間を狙ってドスを深々と突き刺した。
「あ、が…あ……」
男の瞳から急速に光が失われ、その手から離れた銃が重い音を立てて泥水の中に沈む。
俺は崩れ落ちる男の体を支えるように抱きしめ、耳元で氷のように冷たい声を囁いた。
「中臣に伝えな。次は、あんたの番だってよ」
絶命した体を水に沈めると、静寂が戻ってきた。
ただ、俺自身の激しい鼓動だけが、地下道の脈動のように響いている。
「黒嵜…お前、本当に、人間か……?」
志摩が懐中電灯を点け、青ざめた顔で俺を見た。
光の中に浮かび上がる俺の姿は
泥と他人の返り血にまみれ、もはや人の世に属する生き物には見えなかっただろう。
「……感心してる暇があるなら動け。こいつらの装備を全部奪うぞ。弾丸も、無線も、暗視ゴーグルも…使えるものはすべてだ」
俺は感情を排し、事務的な手つきで死体から備品を剥ぎ取っていった。
一歩進むごとに、心の中の何かが摩耗し、削り取られていく。
だが、それでいい。
今の俺を動かす燃料は、もはや希望でも正義でもない。
ただ「復讐」という名の、消えることのない呪いだけだ。
死体から奪った無線機から、雑音混じりの焦燥した声が漏れ出す。
『こちらデルタ、ターゲットの生存を確認。地下C区画へ増援を送れ。……繰り返す、黒嵜は危険だ。躊躇せず射殺しろ』
「……包囲網が狭まってる。志摩、ここを抜ける出口の心当たりはあるか」
「この先、古い浄水場に繋がる非常口がある。そこを抜ければ、榊原組のシマから外れた雑居ビル街に出られるはずだ」
俺は奪い取った暗視ゴーグルを装着した。
緑色の電子的な視界の中に、地下道の奥へと続く冷たい無機質な景色が広がる。
「行くぞ。……親父が待ってる場所へ、逆走してやる」
俺たちは再び、地下の迷宮を走り出した。
追い詰められ、怯えているのは俺たちじゃない。
自分たちの犯した凄惨な過去に怯え
闇雲に掃除屋を送り込み続ける、あの高みにふんぞり返った奴らの方だ。