テラーノベル
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地下道の非常口をこじ開けると、そこは古びた雑居ビルの地下駐車場だった。
カビ臭い空気から一転して、排気ガスと湿ったコンクリートの匂いが鼻を突く。
暗視ゴーグル越しに見える世界は、不気味なほど静まり返っていた。
「……ここなら、やつらの包囲網に穴が開いているはずだ」
志摩が銃を構えたまま、慎重にスロープを上がっていく。
俺も奪った拳銃を腰に差し、ドスの柄を握りしめた。
肩の傷は熱を帯び、脈打つたびに意識が飛びそうになるが、まだ止まるわけにはいかねえ。
出口のシャッターがわずかに開いている。
その隙間から外の様子を伺った。
雨は本降りになっていた。
深夜のオフィス街。
人影はないが、数ブロック先ではパトカーの赤色灯がせわしなく回っている。
「和貴、スマホを貸せ。…いや、持っていなかったな。俺のを使う」
志摩が端末を操作し、ある番号に発信した。
「……俺だ。久保田を回収したか?…なに? 逃げられただと!?」
志摩の声が怒りに震える。
倉庫に置き去りにした久保田。
発信機を飲ませていたはずのあの弁護士が、何者かによって連れ去られたという。
「誰だ?また掃除屋か」
「いや、部下の報告じゃ、もっと組織的な連中だ。警察でも極道でもない……おそらく、中臣代議士直属の『実力行使部隊』だ」
久保田は、生ける証拠そのものだ。
あいつが中臣の手に渡れば、証拠隠滅どころか
俺たちが手に入れたメモリーカードの中身すら「偽造」として処理される恐れがある。
「親父も、中臣も……自分たちの尻尾を切りに来てやがる」
俺は雨に濡れるアスファルトを睨みつけた。
その時
駐車場の入り口に、一台の黒い高級セダンが静かに停まった。
降りてきたのは、傘も差さずに立ち尽くす、一人の男。
「……黒嵜の兄貴。やっぱりここでしたか」
松田だった。
だが、今の松田に、あの路地裏で見せた迷いはない。
その瞳には、絶望と引き換えに手に入れたような、凍りついた決意が宿っていた。
「松田……。お前、一人で来たのか」
「親父さんに言われました。…和貴兄貴を殺した奴が、次の若頭だって。俺、あんな汚い地下道で野垂れ死ぬのは嫌なんです」
松田が懐から銃を抜く。その隣の車窓が開き、複数の銃口が俺たちをロックした。
「……志摩、隠れろ!」
激しい銃撃音が、オフィス街の静寂を粉々に砕く。
かつての家族が、俺の命を「出世の階段」に変えようとしている。
俺は笑った。
血の味のする唾を吐き捨て、雨の中へ飛び出した。
「いいぜ、松田……。お前の『成り上がり』を見せてみろよ」
俺の行く先には、もう敵か、骸しか残っていないのだと悟った。
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