テラーノベル
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外の景色がぱっと明るくなった。それはガス灯の灯りが並ぶ、街並みへと戻って来たからだった。
誰よりも先にそれに反応したのは運転手の方。
「やっと大通りの道に戻って参りました。はぁ、良かった。この道からだとリストランテの前に侵入出来ませんので、この道の角で一度降りて貰います。そのあとはリストランテの駐車場で待機しておりますので、気をつけて行ってらっしゃいませ」
ふうっと早口で告げた運転手の方に、クリス様は「ご苦労様」と軽く手を上げた。
そうして道の角に車が止まり、クリス様が先に降りてから、私の手を優雅に引いて車外へと連れ出した。
蒼波様もクリス様も、実に洗練された動きをされる。高位の軍人の方は品性も問われるんだろう。
このお二人が揃うと、まるで舞台俳優。看板役者だろうなぁと思った。
今からそんな蒼波様とやっとお会い出来る。浮ついた心を冷やかすように、夜風がふわりとドレスを揺らした。
ここまで来たら、先ほどの火事の喧騒はなかった。道ゆく人達は穏やかでソフト帽を被り、杖を持った紳士に、ワンピース姿にショールを揺らす淑女。
石畳の上に静かな帝都の夜が横たわっているようだった。
──火事の現場に一秒でも早く、このような静けさが戻りますようにと祈った。
「さぁ、マナ行くよ。最後の最後で転けるとかはナシだからね」
「はい。パンプスでの歩き方もバッチリです」
そう言うとクリス様が小さく笑った。
クリス様の横に並びながら歩くと、クリス様がこの地域の説明をしてくれた。
ここは色んな高級店が連なる場所らしく、店は閉まっていたがテーラー店、呉服屋などが立ち並ぶ通りだそうだ。
確かに洒落た青銅や木製の看板が幾つも見えた。
ガス灯の他にビルディングの明かりが灯されている場所は、カフェーやビアホール。
なんでも文壇に携わる社交場としても、人気で著名人達も夜な夜な集まるそうだ。
都会とはなんとハイカラなんだろう。
私はずっと本に齧り付いていた。夜は寝るだけの時間。こんな夜の時間が流れているなんて、世界は広いと口を開けたとき。
ガラガラっと夜のしじまを破るような、大きな音が私の開きかけた口を閉じさせた。
「騒がしいな。この音はなんだろう」
ぽつりとクリス様が呟いて、その場に立ち止まった。
私も立ち止まり、音をした方向を探すとなんと、往来ど真ん中をリヤカーを引いて疾走して来る人が居るではないか。
二人の男性が前のハンドルを握り、必死で走ってくる。その荷台には女性が乗っているようで「早く、早く、病院に!」と車輪が回る音よりも悲痛な叫び声をあげていた。
「このような時間に、どうなされたのしょうか」
「さぁ。それにしても病院って、ここに病院はあったけど……」
何か含みを持っているクリス様の声。
そんなことはリヤカーには関係なくて、ガラガラと石畳を破る勢いでリヤカーは私達の斜め向かいにどかっと乱暴に止まった。
#王道
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うめぼっち

742
うめぼっち

847
#溺愛
うめぼっち

966
ガス灯の下、ハンドルを握っていた男性の一人が慌てた様子で止まった前の建物の扉をガンガンと叩き始めた。
「た、助けてくれ! 緊急患者だっ! 火事で子供が火傷をしている」
「お願いしますっ! 子供はまだ小さいんですっ!」
リヤカーの上にいる女性も叫んだ。
その普通ではない光景に私達も夜の道をそぞろ歩く人達はぎょっとして、リヤカーの方へと視線注いでいた。
「クリス様。火事ってやっぱり──」
クリス様の彫刻のように整った横顔を、ソワソワした気持ちで見つめた。
「だろうね。僕達が足止めをくらった火事と同じだろう。被害状況は分からないが、夜間で病院がしまっていたり。混乱していて適切な治療が受けれずに、こちらまで奔走して来た可能性が高いんじゃないかな……でも、あの病院って確か眼科だったんじゃないか?」
「えっ」
クリス様の言葉にはっとして、視線をリヤカーの人達へと向けると中からちょうど、中年女性がオロオロした様子で中から出て来た。
そして「うちは眼科です! 先生はもうご帰宅されております」と慌てる男性にきっぱりと言った。
コメント
1件
ああ、第23話読みました。帝都の夜道の空気感がとても美しく描かれていて、ガス灯や石畳、ハイカラな街並みの情景が目に浮かぶようでしたね。それでいて、火事の余波で必死に病院を探す人々の悲痛さが対比的に映し出されていて、読んでいて胸がぎゅっとなりました。 それと、クリス様が「あの病院って確か眼科だったんじゃないか」とすぐに気づくところ、さりげなく世界の論理(病院の専門分化)を感じさせてくれるのが良いです。こういう「この後どうなるんだろう」と読み手に考えさせる一文、好きですよ。続きが気になりますね。