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ピアーニャがウッドゴーレムを粉砕した後、すっかり落ち着いた雰囲気の一行は、大きく広げた『雲塊』に乗って、山を下っていた。
「なんだかようやく終わった感じがするのよ。変な事が多すぎたのよ」
「まったくだ。やることなすこと、ワケわからんかったぞ」
夜が一部昼になり、悪魔が多数現れ、ミューゼが暴走し、悪魔と話をし、ウッドゴーレムから破壊光線が発射される。
順番に思い出したパフィは、今でも訳が分からないと、乾いた笑いを漏らした。
「……しかし、しかたないとはいえ、はやくこのジョウキョウ、なんとかしたいな」
「狭いから仕方ないのよ」
『雲塊』の上には、ロンデル、パフィ、ミューゼの他に、4人の太った大人たちが乗っている。さすがに場所が足りない為、アリエッタはパフィに抱かれ、ピアーニャはロンデルに抱かれていた。ちなみにミューゼはというと、パフィに寄りかかって気持ち悪そうに休んでいる。
「うぅ~……あだまいだい……だずげでぇ……」
「完全に二日酔いなのよ。こんなところで吐いちゃダメなのよ?」
「せめてソトにむかってはいてくれ……」
ミューゼがこうなるのも無理はなかった。
元々酒は飲んだことが無く、酒気だけで酔ってしまうというのに、池に落ちて直接飲んでしまったのだ。完全にアルコールの過剰摂取である。
ハイテンションで色々とやらかした後は、介抱されないと動くことも出来ないという、迷惑な酔っ払いそのものになっていた。
「うぅ~……ぱふぃ~……」
「やれやれなのよ」
吐き気こそ無いが、気分は最悪なミューゼであった。
「それにしても……」
「……な、なんでしょう」
パフィがロンデルを見つめると、ロンデルは顔を赤くして視線を逸らす。その反応を見て、パフィがニヤニヤする。そしてその背後から、パフィの父であるマルクが複雑な顔で睨みつけていた。
(まさか、やはりもう意中の人を見つけたのか? 早い、早すぎる……俺の娘が……しかしこの男はシーカーの副総長、俺よりずっと頼りになるし金もあるだろう。ぐぬぬぅ……俺はどうしたらっ!?)
声には出さないまでも、内心穏やかではいられない父親。もちろんニヤニヤしているパフィは気づいていない。親の心、子知らずである。というのも……
「副総長~♪ なんだかお似合いなのよ」
「言わないでくださいよ……どうして総長ではなく私に……」
恥ずかしそうにうつむき、ため息とともに肩の方を見た。そこには黒く丸い物が乗っている。
ロンデルに見られたソレは、1つの宝石のような瞳を開き、短い4本の脚で、肩の上で立ち上がった。そしてロンデルに、その小さな体を擦り付けている。
「あははは。めちゃくちゃ懐いてるのよ」
「は、はぁ……」
パフィはただロンデルを揶揄っているだけであった。その様子を見たマルクは、ホッとするも安心しきれないでいる。
(今回は違ったようだが、これだけ仲が良いんだ。油断は出来ん)
もはや、子離れ出来ない父親でしかなかった。
「それにしても、小さいとはいえ悪魔と一緒に行動する事になるなんて、思わなかったのよ」
「まったくだな」
ピアーニャも、抱かれたままロンデルの肩を見上げ、不思議そうにその悪魔を見つめる。見た目は悪魔というよりも、変な物体Xだが。
「異界…他のリージョンに、興味は無いわけではなさそうでしたからね。だからこそ、友好の証を兼ねた監視役のような悪魔を預かる事になったのでしょう。……妙に好かれている気がしますが」
ウッドゴーレムを粉砕した後、ピアーニャとロンデルは『異界の者』代表として、人型の悪魔と話し合った。その時に預かったのがこの小さい悪魔である。
「で、そいつのナマエはどうするつもりだ?」
「……なんで私なんですか? 総長が決めてくださってもいいんですよ」
「それだけなつかれておいて、ナマエもつけてやらないのか? あのジュルデレーフェというアクマも、すきにヨべといっていただろう?」
「だからといって私が名前を考えるのですか?」
ロンデルが名前を決める話になると、小さな悪魔がさらに必死に体をロンデルの顔に擦り付ける。その様子を見て、ピアーニャとパフィどころか、同行する大人4人もニヤニヤが止まらなくなっていた。
「ほら、その子は言葉が分かるみたいなのよ。それにそこまで好かれてるなら、考えてあげないといけないのよ」
「にいさんモテモテじゃないか。大事にしてやりなよ?」
「私ももう少し若ければ、その子に対抗してたんだけどねぇ~」
「いや……その……」
揶揄われているとわかりつつも、どう考えても懐かれているせいで、否定しにくい。ロンデルは困った顔で悪魔を見て、ため息をついてから、八つ当たりとばかりにピアーニャの頭を撫でた。
「うぉい! なんでそこで、わちをなでる!?」
「……? アリエッタ、起きたのよ?」
「んぅ……」
山を抜けた丁度その時、パフィの腕の中でアリエッタが目を覚ました。
目をこすり少しぼーっとしてから、左右を見渡し頭をコテンと傾ける。
(あれ~? いつのまに寝てたんだっけ? それに壁ないし)
「ふふふ、アリエッタったら、まだ寝ぼけてるのよ。吸い込んだお酒は抜けたのよ?」
「あうぅ…可愛い…癒されるぅ……」
ミューゼは顔色が悪いまま笑顔になっている。
パフィが頭をひと撫ですると、アリエッタが不思議そうに2人を見上げ、口を開いた。
「おはよ?」
「おはよ~」
「おはようなのよ」
時間は既に夕方前だが、アリエッタが覚えた唯一の挨拶をする3人。
それをロンデルが優しい目で眺め、ピアーニャが必死でロンデルの陰に隠れている。
アリエッタはもちろん、状況が分かっていない。
(っていうか、何してたっけ? たしか、ぱひーと一緒にのんびり待ってたら、ぴあーにゃが帰ってきて、ミューゼが走ってきて……あれ?)
悩んでいるアリエッタを、やさしく見守る大人達。『雲塊』の上は完全にほっこりしていた。
「……みゅーぜ?」(なんか顔色悪くない?)
「あ~ん、アリエッタ心配してくれるの~?」
アリエッタはアリクルリバーの酒を直接飲んだわけではない為か、二日酔いにはなっていない。
ミューゼを見ながら、差し出された手を握り心配していると、だんだん頭が冴えてきた。そしてミューゼと一緒に何をやっていたか、徐々に鮮明に思い出し始め、ミューゼとは違う意味で顔色が悪くなっていくのだった。
(一体僕はなにやってるんだー!? ロボットみたいだからってビームでそうな装置の絵を描くとか、酔っ払いのテンション怖っ! しかも酔ってたノリのせいで実現化したし!)
ミューゼの顔を見たまま、ちょっぴり涙目になり、小刻みに震えて内心取り乱している。
(ミューゼと一緒になって、思いっきり自然破壊しちゃったんだけど! 絶対怒られる……下手したら捨てられるんじゃ……)
言葉の分からない正体不明の子供だと自覚している為、2人に嫌われる事が何よりも恐怖なのである。そしてそんな状況になる程の大失態…と思える事をしたのが初めてという事もあり、幼い頭では処理しきれずに顔や行動に出てしまう。
「……どうし……!?」
(いやだ……捨てられるなんて嫌だよ……みゅーぜと一緒にいたいよ……)
不安でいっぱいになったアリエッタは、大粒の涙を零していた。
「何があったのよ!? なんで泣いてるのよ!?」
「ぐすっ……みゅーぜぇ…ぱひー……」(お願い一緒にいさせて……)
「どうした!? アリエッタになにがあった!?」
急に泣き出したアリエッタを囲んで、一斉に大人達はうろたえる。
周りが何を言っているのかも分からない上に、感情が崩壊した今のアリエッタには、周りが全く見えていない。ただミューゼの手を握り、ミューゼとパフィの名前を呼びながら、泣き続けた。
「そっか、そういう事なのよ……ミューゼの顔色が悪くて心配したのよ。やっぱりとっても良い子なのよ」
「うぅ…ごめんねアリエッタ。あたしがお酒に弱いばっかりに……」
ミューゼの顔をずっと見て、それから泣いたという経緯を考え、ミューゼを心配する余りに泣き出したという結論に至ったパフィ。
「なんて良い子なんだ。俺までもらい泣きしそうじゃねぇか」
「ははは、お前もう目が潤んでるぞ……ぐすっ」
「はぁ……なんでこんなにイイコなんだ……せめてワガママならキョゼツできるんだがな」
「おいパフィ。その子は絶対に守って、幸せに導いてやれよ? 俺みたいにはならせるな」
「良い言葉が最後で台無しなのよ、パパ」
泣いている意味を知ることが出来ないまま、勘違いが伝染していく。その中心でアリエッタはミューゼに抱き着き、泣きじゃくっていた。
しばらくして泣き疲れたアリエッタは、寝起きだった事もあり寝る事はなかったが、顔色が悪いままのミューゼに優しく抱かれながら、おとなしくしている。
(帰る前に、なんとかして名誉挽回しないと……)
腕の中で頭や頬をやさしく撫でられながら、冷静になった少女は、本来意味の無い闘志を熱くみなぎらせているのだった。