テラーノベル
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第3話 「ぶつかる音」放課後のグラウンド。
乾いた打球音が響く――はずだった。
「今日はフリーバッティングせん」
福間監督の一言で、空気が止まった。
「シートノックとケースバッティングや」
ざわつきが広がる。
「またそれかよ……」
「打たせろって……」
ついに不満が、はっきりと声になった。
「監督」
一人の2年生が前に出る。
主力打者の田村だった。
「俺たち、試合で勝つためにやってるんです」
福間監督は黙って見ている。
「こんな基礎ばっかりじゃ、打てるようになりません」
グラウンドが静まり返る。
誰もが思っていたことを、田村が言った。
数秒の沈黙。
福間監督はゆっくりと口を開く。
「ほう」
それだけだった。
だが、次の瞬間――
「ほんなら聞く」
一歩、前に出る。
「お前、昨日の試合で何本ヒット打った?」
田村の顔が強張る。
「……1本です」
「チャンスで?」
言葉に詰まる。
「……打てませんでした」
「それが答えや」
低い声が、突き刺さる。
「打てん理由を“練習のせい”にするな」
空気が一気に張り詰めた。
「野球はな」
福間監督はグラウンドを指さす。
「準備で決まる」
「守備も、打撃も、走塁も」
「全部や」
一歩、さらに近づく。
「お前らは、その準備をやってない」
田村が食い下がる。
「でも――」
「でも、じゃない」
被せるように遮る。
「勝ってから言え」
その一言で、完全に空気が止まった。
その日の練習は、さらに厳しさを増した。
ミスをすれば最初から。
声が出なければやり直し。
部員たちの表情から余裕が消えていく。
練習後。
ベンチ裏。
「もう無理だろ、あれ……」
「やってらんねぇよ……」
数人の2年生が集まっていた。
「このままじゃ、俺たちの代、終わるぞ」
重い空気。
「……どうする?」
誰も答えない。
その会話を、少し離れた場所で聞いていた影があった。
小早川啓介。
声はかけない。
ただ、拳を握る。
(でも……)
今日のプレーを思い出す。
ミスが減っている。
動きが揃ってきている。
ほんの少し。
でも確実に。
(間違ってない)
そう思った。
翌日。
グラウンドに現れた部員たちの中に、田村の姿はなかった。
ざわつく空気。
誰も口に出さない。
だが全員が思っていた。
――チームが、割れかけている。
福間監督は何も言わず、いつも通り整列させる。
「始めるぞ」
それだけだった。
その静けさが、逆に重かった。
第3話 終
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