テラーノベル
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狩猟大会から皇宮に戻ったその夜、煜峰は暁明皇太子と共に皇帝に謁見を求めた。
部屋の中は人払いがされており、三人の他には誰もいない。
皇帝も狩猟大会で画人が一人襲われ、亡くなったことは既に耳に入っていたようで、暁明皇太子の話を静かに聞いている。
雲嵐の作品に呪符が仕込まれていた事、その作品の贈り主に呪符を送ってみた事、皇太子の妃たちの宮を出入りする風水師が買収されていたこと、そして今回の暗殺の件……。
一通り話し終えた皇太子に皇帝はしばらく考え込んでいたが、ようやく口を開いた。
「胡氏がやったという証拠は得られていないのだな?」
「あるのは成俊昊殿から贈られた、雲嵐の作品の中にあった、こちらの呪符のみです。他の作品も念の為調べましたが、こちらは効果を発揮した後なのでしょう。先程説明したように、呪符は効果を発揮すると燃えて無くなってしまいますので」
皇太子は仕込まれていた呪符を取り出し、実際に見せた。
呪符は直ぐに寺院に持っていき、呪いの力を取り払って貰ったため、ただの紙切れとなっている。
「それでは他の作品にも呪符が仕込まれていたという確証は無いわけだな」
「……はい。呪符を火鼠という店で購入し、雲嵐に渡していた宮女は特定出来ましたが、その宮女も既に、何者かによって殺されております。現在は逃げている火鼠の集団を追ってはおりますが、呪符を売ったという証拠は出せても、胡氏の指示によってよって呪符が仕込まれたと言えるほどの証拠は得られないでしょう」
「捕まえた暗殺者はどうしている?」
「直接依頼をしてきた人物は吐かせたので特定できましたが、その者も既に……。その先を辿ることはまだ出来ておりません」
「風水師の方は?」
「こちらもまた殺されており、依頼主にたどり着くのは難しいかと」
狩猟大会にいた暗殺者のうち二人は生け捕りに出来た。自害出来ないよう拘束し、聞き出した情報から依頼者を辿って行ったが、こちらも既に殺された後だった。
突然胸を押えて苦しみ出したということで、近所の者も家族も心臓の病にでも襲われたのだと思っているようだが、実際には毒殺だろう。
そして男児が生まれにくい環境を作り出すよう、皇太子の妻たちに助言をしていた風水師もまた、突然亡くなってしまった。
「暁明よ、それではまだ憶測の域を出ていない。胡一族がやったという確かな証拠を掴まなければ、罰するどころかお前が痛い目をみるだろう」
「それは重々承知しております。ですが……」
「朕に出来ることはない」
「――っ」
皇帝は抑揚のない、冷たい声で言い切った。
確かに証拠となるものは無く、胡氏を追い詰める材料は乏しい。だからこそ皇帝には胡氏の動きに注意して欲しいし、情報があるのならば教えて貰えないかと乞うつもりだったのだが……。
#異世界転移
花月夜れん
2,559
設楽理沙
880
耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
855
これ以上のことは話したくはないと言わんばかりの態度に、皇太子は言葉を失った。
「いずれにせよ、お前に直接手が下されることはなかったのだ。志勇を皇太子にという声が日に日に増し、焦っているのは分かる。だがな、志勇も朕の子である事には変わりない。お前にばかり肩を持つわけにはいかぬ」
最もらしいことを言われたが、煜峰は腑に落ちない。
自分が冷遇されることはいい。所詮気まぐれに手をかけた下女の子。
だが暁明は皇后との子だ。
慈愛に満ち賢明な皇后は他の妃嬪やその子供たちからも慕われ、皇后としてあそこまで相応しい人物など他にいないくらいに出来た人物。
それなのに皇后に冷たく当たり、皇后やその周辺人物の進言には全く耳を貸そうとしないのだ。
最近では暁明の話にすら、まともに取り合ってくれなくなっている。
「父上」と呼ぶことは躊躇われた煜峰は、「陛下」と呼びかけた。
「公平さと言うならば、暁明兄上や皇后陛下のお声もお聞きください。2年前に行われた暁明兄上が皇太子に相応しいかどうかというあの占い。あれを進言した臣下は胡氏の息がかかった者ではないですか? 占いを取り仕切った礼部の官吏もです。他にも多くの進言が、胡氏の手の内にある者からなされていたのではないでしょうか。例えば、私を陥れるよう進言したのも――」
「黙れ!!」
食いしばった皇帝の歯の隙間から、ふーっと息が漏れた。
「朕が胡氏の傀儡と申すか!」
「そうではなく、皇后陛下と暁明兄上の話も――」
「これ以上話すことは無い! 下がれ!!」
これ以上はもう、無理だった。
煜峰は何度も皇帝の瞳を捉えようと見つめたが、とうとう最後まで、目線を合わせようとはしてくれなかった。
コメント
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第36話「父と息子」、読みました…。皇帝が証拠よりも政治的なバランスを取ろうとして、息子たちの声を真正面から受け止めないもどかしさが、すごく重くて苦しかったです。特に、煜峰が「陛下」と呼びかけたところと、最後まで目線を合わせようとしなかった皇帝の冷たさが、胸に刺さりました…。父と子である前に、権力の駒でしかないこの関係性、これからどう動いていくのか本当に気になります。ありみさんの描く陰謀の輪郭が、少しずつ見えてきてドキドキします。続きも楽しみに読ませてもらいますね🌙