いつからだろう。
付き合っている理由が分からなくなったのは。
〈深澤side〉
深 “今日はご飯いる?”
そうLINEを送って3時間後。
岩 “いらない”
どこか素っ気ない返事だ。
スーパーのレジ袋を握りしめ、俺は呟いた。
深 “もう材料買っちゃったよ。”
俺、深澤辰哉は、しがない会社員。
毎日言われた仕事をこなすだけの日々。
そんな俺にも恋人がいる。
IT企業で働いている照だ。
3年前、照からの告白だった。
岩 “一生幸せにする。”
“俺と付き合って欲しい。”
男同士だなんて、気にならなかった。
性別関係なく、照が良かった。
照とずっと幸せに暮らせると思っていた。
でも、そんなのは全部理想。
月日が経つにつれて、照は素っ気なくなった。
付き合った当初は毎日していたキスも、
今は1年以上していない。
思えば、最後に照に触れたのは、
目を合わせたのは、
まともは会話をしたのは、いつだろうか。
最近は、照は俺が起きる頃に家を出て、
俺が寝る頃に帰ってくる。
俺を避けてるのかと思うくらいだ。
何かあったのかと聞いても、
岩 “仕事が忙しいんだよ。”
それ以上は答えてくれなかった。
俺は怖かった。
照の気持ちがどんどん離れていく事が。
ただ、照に愛されたかった。
今の俺は、
“愛”という水を求める枯れた花だ。
今日は付き合って3年の記念日。
今日くらいは、一緒に過ごしたい。
俺は早起きをして、照が家を出る前に聞いた。
深 “今日、早く帰って来れる?”
照はこっちを向かないまま答えた。
岩 “多分、8時ぐらいには。分かんないけど。”
俺は心の中でガッツポーズをした。
仕事をすぐに終わらせ、定時で退社した。
スーパーで高い肉とワインを買った。
深 “奮発しすぎたかな、”
そう思ったけど、照が喜んでくれるなら良い。
それだけで俺は幸せだった。
俺は家に帰って急いで準備に取り掛かった。
赤身のステーキと赤ワインが輝いて見えた。
我ながら完璧だと思う。
時計は8時を指していた。
深 “照、もうすぐ帰ってくるかな。”
少し緊張しつつ、照の帰りを待った。
でも、照はいつまで経っても帰ってこなかった。
ふと時計を見ると、もう0時を過ぎていた。
深 “照、どこいるの?”
返事はなかった。
電話を掛けてみても、3コール目で着信拒否。
その時、俺の中の何かが崩れた。
気づいてしまった。
照には、もうとっくに俺への愛がない。
大粒の涙が頬を濡らした。
あんなに輝いていた料理も、
今となってはゴミのように見えた。
俺はそのまま家を飛び出した。
渡 “こんな時間になんだよ。”
インターホンを鳴らすとすぐにドアが空いた。
出たのは、俺の親友の翔太。
良き理解者で、とても信用している。
渡 “てか、お前泣いてんの?”
家に行く間で少し止んだ涙が、
その言葉で溢れかえってきた。
俺は翔太の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
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やだ泣きそう