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春に近づくにつれて、放課後の空が少し明るくなった。
その日も、琉光子は竹細工工房へ向かっていた。
バスを降りて、細い道を歩く。
風に揺れる竹林の音が、遠くから聞こえた。
工房の戸を開ける前に、スマホが震えた。
クラスのグループからの通知だった。
――今日の準備、誰か早めに来れる?
――琉光子、来れそう?
画面を見つめたまま、立ち止まる。
断れば、またあの空気が生まれる。
引き受ければ、何も起きない。
いつもなら、考える前に指が動いていた。
今日は、少しだけ違った。
琉光子は、短く打った。
――今日は行けない。ごめん。
理由は書かなかった。
「しんどい」も、「用事」も、付けなかった。
送信。
胸の奥が、きゅっと縮む。
でも、逃げ出したくなるほどではない。
しばらくして、返事が来た。
――了解!
――また今度な。
それだけだった。
工房に入ると、いつもの匂いがした。
「今日は遅かったな」
「ちょっと、連絡してました」
それ以上、何も聞かれない。
琉光子は席に座り、竹を手に取った。
少し歪んで、少し細くて、完璧じゃない一本。
力を入れすぎないように、割る。
ぱき、という小さな音。
きれいに割れたわけじゃない。
でも、失敗でもない。
琉光子は、そのまま手を動かし続けた。
――表向き、やんわり。
それでも、内側は、前より少しだけ、息ができている。
それだけで、今は、十分だった。