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「いいですか、これは我がウォーウルフ家にとって機密事項になります。そのため、皆さんに力を借りたいのです」
アレンがフローラ達と一悶着起こしている頃、クルーガー=ウォーウルフは自分が最も信頼を置いている商会の人間を集めていた。
その者たちは兄弟子と慕うような間柄でもある。
幼少期より商いの基礎を学び教養を教えてくれた。立場がなければ敬いたい存在でもある。
ウォーウルフ家は王都に屋敷を持たず、自領を構えることはない。
商いのウォーウルフ商会が自分たちの拠点である。
今までの経緯を説明し、協力を仰いでいた。
「……腐っているのは知っていたが、ここまでですかい。ですが若旦那、流石に信用は難しいかと」
説明をしたものの、商会の人間は眉を顰める人、腕を組んでいる者ばかり。
(やはりそうですよね)
クルーガーは予想の範囲内だった。
話せる情報も少なく、納得させる証拠もない。
話せるのはフローラが王子や公爵家の御曹司を薬を使って虜にしている可能性があるということのみ。
レイルの正体を明かすことはできず。
確証もなしの言葉に不安感を覚えるのは当然だろう。
(私らしくないですね。こんな確証もないのに行動するなんて)
クルーガーは少なくとも現実主義者である。核心のある証拠を集め確実性を持たせなければ行動を起こすことはない。
自分でもどうしようかと悩んだが、友を信じるということに決めた。
レイルに正体を明かしてまで協力を懇願されたからと言う理由もある。一番は
彼が国王になれば腐った内政を建て直せると確信があったからだ。
クルーガーは幼少期から社交界に嫌気をさしていた。
お披露目会の際、貴族息女のやり取りで家をバカにされた。言われて当然と言わんばかりに鼻で笑われた。
当時十歳で同世代と比べ早熟していたが、焦燥感を感じた。
『お父様から聞いたぞ!お前金で爵位買ったんだったな!』
その言葉はガスパルに公の場で言われた。
何故そんなことを堂々と言えるのか。何故いい大人が誰も指摘しないのか。指摘するどころか嘲笑っている。
ーーこれが社交界、腐っていますね。
クルーガーはため息をこぼした。
彼にとって社交界は苦痛だ。
こんな奴らと付き合っていかなきゃ行けないのか。
ウォーウルフ家は商家である。貴族相手に商いをすることもある。
クルーガーは幼い頃より教育を受けていた。当時は商で儲けるための基礎も出来上がっていた。
お披露目会では貴族とパイプを繋げておこう。そう思ったのも束の間、クルーガーはどんよりとした。
会話すらなりたたずただただ自分を見下すだけの奴ら。
やれ、自分の領地は何が有名やら、自分の親はこんなことを達成しただの。
親の実績を自分のことのように栄光や武勇を語るだけの奴らと過ごすのは苦行であった。
ああ、早く終わればいいのに。
……そんな時だった。
『お前らダセーなぁ。寄ってたかって群れねぇと何もできないのか?』
白髪で貴族らしからぬ言動に戸惑う者もいた。
ギルメッシュ=ガイアスであった。光が透き通るような白髪に切長の鋭い目つき。
10歳にしてはしなやかに引き締まった体つき。正装も着崩していて、まるで喧嘩をふっかける雰囲気に似ていた。
クルーガーは最初関わり合いたくないと思った。粗暴で自分とは馬が合わないと。
印象に反して、ギルメッシュがヘイトを集めクルーガーを助けてくれた。
そして、クルーガーへのちょっかいは無くなった。
絡んできた貴族息女たちはギルメッシュの睨みに怯んでその場を去った。
「本当面倒だよな。早く終わって欲しいぜ」
「……ええ。本当にその通りですよ」
突然だけど幼いながら張りのある声で話されクルーガーはどぎまぎするが同意する。
その後2人は当たり障りのない会話を続けた。
クルーガーは単なる暇つぶしの感覚で話をしていた。
だが、同じ価値観や考え方を持っていたらしくパーティが終わる間際には。
「本当あいつらうぜぇよな。何様だよ。親の手柄を自分みたいに語るなっての」
「そうですよ。親自慢大会じゃないんですから!」
パーティが終わる頃には意気投合していた。
それからクルーガーは2人の友ができた。
裏が読めない完璧超人の友人に、誰にでも分け隔てなく接するトラブル体質の手のかかる友人。
ーー貴族付き合いも悪くないものですね。
初め貴族になったことを後悔していたが、友人たちと出会ったことで考えを改める。
訳あり貴族に分け隔てなく接してくれたことに感謝することが増えた。
……だから、クルーガーがレイルに協力を惜しまないのは恩返しみたいなものだった。
「……今は確証がありませんし、詳細を話すわけにはいきません。ですが、今は私を信じて欲しい。どうか……私に協力をお願いします」
誠意を表すためクルーガーは頭を下げた。
その声は震えていた。そんなクルーガーに一同言葉を失うも、すぐに声をかけた。
「はぁ、ウォーウルフ商会の次期会長が易々と頭を下げないでくだせぇ」
「お顔を上げてください。私たちは若旦那の手足です。なんでも申し付けください」
言葉をかけられクルーガーは大きく息を吐いた。
巻き込んでしまうこと。信じてもらえるかわからない不安感。それらを全て吐き出していた。
「……ありがとう」
晴れやかな気持ちになるクルーガーは皆にそう一言伝える。
「では、まず状況整理から行いましょうか」
クルーガーに先程まで見せていた迷いは無くなっていた。
(私は恵まれていますね)
一瞬全身の力が抜けそうになったが、持ち直して再度説明を開始したのだった。