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コンラッドさんの依頼を終わらせて、それから1週間は冒険者ギルドの依頼を受けていた。
今日も今日とて依頼をこなし、今は冒険者ギルドの前で立ち話をしているところだ。
「はい、今日もお疲れ様でした。
……このあと、ちょっとアドルフさんのお店に寄ってみませんか?」
「そうですね、わたしたちの滞在もあと3日ですし。
アイナさんの剣、そろそろできる頃でしょうか」
「そうあって欲しいですね。
まぁ、私は使えないんですが……でもオーダーメイドって、心がときめきますよね!」
「あはは、分かります!
わたしの十字架もオーダーメイドしたものですけど、そのときはとても楽しみでしたから」
そう言いながら、エミリアさんは十字架を取り出して見せてくれた。
「おぉ……素敵な十字架ですね。ちょっとアクセサリっぽい?」
「あまり派手なものは禁止されているんですけど、これくらいなら良いでしょう?」
「さりげない装飾で良いですね!
……ああ、そういえばアーティファクト系の何かも作ってみようと思ってたのに、完全に忘れてた……」
その言葉に、ルークが反応する。
「ところで最近、錬金術はされていないんですか?」
「うーん。コンラッドさんの一件で、何だか燃え尽きちゃってね……」
「ああ……。
そのあとがまた、すごかったですもんね……」
守銭奴で有名だったコンラッドさんは、『性格変更ポーション』によって金払いのやたら良い貴族さまへと変貌してしまった。
そして突然発表された鉱山夫たちの賃上げが話題となり、ミラエルツはにわかに活気付いている。
……具体的には、宿屋の食堂での酒盛りみたいなのが増えたかな?
賑やかな場所がさらに賑やかになって、カオスな状況もちょこちょこ見え隠れしていた。
「そのきっかけを私が作ってしまったと考えると、少し錬金術から離れてみたくなって……」
「しかしこれが好景気の始まりになれば、アイナ様の名前もずっと伝えられていくでしょう。
現にオズワルドさんやガッシュさんたちは、アイナ様が何かやったのでは……と、すぐに聞きにきましたし」
「そんなことで、名前を伝えられてもなぁ……」
「とはいえ、賃金の不満はある程度あったのでしょう。
アイナ様はきっかけに過ぎないと思いますので、そんなに気を病まれなくても」
「そうです、そうです。はい、ヒール」
何故かエミリアさんがヒールを掛けてくれる。
何ですかコレ、気休めですか?
「それにしても、あれからもう1週間も経ったんですね。何とも早いことで……。
ところで滞在はあと3日の予定ですけど、冒険者ギルドの依頼はいつまで受けます?」
「うーん、最後の2日はお休みしても良さそうですよね?
折角なので、色々と見て回りたいです!」
「私もそれくらいが良いかと思います」
「それじゃ、明日はまた依頼を受けて……。
明後日からの2日間は、お休みと出発の準備に充てますか」
「はい」
「はぁい」
「はい、それで決定!
では、アドルフさんのお店へ行きましょー!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんにちはー」
「いらっしゃい。お、アイナさんか」
私の挨拶を返してくれたのはアドルフさんだった。
いつものことながら、他のお客さんは1人もいない。
「お久し振りです。剣の方はいかがですか?」
「おう、できあがってるぜ!」
そう言うとアドルフさんは、店の奥に行って鞘に納められた剣を持ってきた。
「さぁこれだ。どうだい、持ってみるかい?」
「はい!」
アドルフさんから剣を受け取ると――
「――重ッ!!」
剣の重さがまともに腕に圧し掛かって体勢を崩す。
すぐにその重さからは解放されたが、それはアドルフさんとルークが剣を支えてくれたからだった。
「はっはっは、すまないな。
でも、最初は買い手のアイナさんに持ってもらいたかったんだ。
それに、剣の重みも分かっただろう?」
新品のものは誰よりも先に触りたい……というのは、確かに!
でも剣の重みは……分かる必要、あったかな?
「よし、それじゃルーク。お前さんが持ってみな!」
「分かりました」
ルークは剣を受け取り、鞘から刃を抜いた。
その刃は白銀色に輝き、装飾と宝石を模したガラス玉がさりげなく、しかし美しく煌めいている。
「おお、これはかっこいい!!」
「……ふむ、これは素晴らしいですね」
「確かに、確かに!
英雄っぽさが凄いですね!」
「ははは、なかなかの大仕事だったぜ。
でも、たまにはこんな仕事もしないとな」
「想像以上です、ありがとうございました!」
「なんのなんの。
それでな、一応だが一通りの説明をしておくぞ?」
「え? はい、お願いします」
アドルフさんは紙に剣の絵を描いて、説明を始めた。
「概ねのところは最初の話通りに作ったから安心してくれ。
それでな、ちょっと挑戦したことがあって、それが成功したから伝えておくんだが――」
「挑戦?」
「ああ。
まず、ここに魔石スロットを埋め込んでみた」
「へ?」
「神剣デルトフィングっぽいものとはいっても、さすがに神器ではないからな。
それにそもそも魔法剣にも使えないナマクラ剣だから、これくらいは良いだろう」
「え、ええ。
別にそれは問題無いんですが――」
「ちなみにスロットは5個付いたぞ!」
「「「えっ」」」
「いやぁ、成功するかどうかは10%くらいだったんだが、これには俺もびっくりだ。
はっはっは!」
普通には使えない武器に、なんてものを付けてくれるんですか……。
いや、別に困ることは無いから良いんだけど。
「ちなみに……神剣デルトフィングには、魔石スロットはありましたっけ?」
「いや、付いていないぞ。話によれば、他の2つもそうらしい」
「へ、へぇ~……」
「まぁ、それは賭けでやっただけだから、どうでも良いんだが――」
……ちょっと、アドルフさん。
金貨30枚のシロモノで賭けをやらないでください。
「他にもここに、宝石を埋める穴があるだろう?」
「はい。とりあえずガラス玉を入れてもらっている感じですか?」
「うん、今入れているのはガラス玉なんだけどな。
そこも良い感じで魔力経路が繋がったから、ちょっと細工をしてみた」
「……細工、ですか?
ぱっと見、特に何も変わったことはないような……?」
「装飾的にはな。
本当だったらただの飾りにする予定だったんだが、特殊な石を入れられるようにしておいたんだ」
「……特殊な石?」
「魔力経路から魔力を取り込んで、そこで力を蓄積させるんだ。
簡単に言えば、川の途中に大きな池を作ったようなイメージかな。つまり刃自体に、より多くの魔力を宿せる……というわけだ」
「おお、良く分からないけどすごい……!」
「ただまぁ先日言った通り、神器と魔法剣は魔力の流れ方が違うから――
……魔法剣としては使えないから、そこは注意してくれ」
「はい!」
「ちなみに切れ味も最初に言った通り、しっかりナマクラになったからな。
いや、今回はここ数年で一番良い仕事ができたんだが……しかし、戦闘では役に立たない剣で……とはなぁ」
そう言いながら、アドルフさんは頭をぼりぼりと掻いて笑った。
いくら良い仕事が……持ち得る技術で最高の仕事ができたとしても、どこか腑に落ちないのだろう。
「――役立たないことなんてありません! いつかこの剣が、世界最強の剣になるんです!」
「うん……?
そうかい? ま、期待しておくよ。アイナさんには何か目的があるみたいだしな」
「お任せください!」
……もしもこの剣で神器を作ることができたら、そのときはこのお店に凱旋することにしよう。
アドルフさんの驚いた顔が、今から楽しみだなぁ……!!