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「おっ!見えてきたぜ!」

ガゼルの声に顔を上げると、漸く目的地が視界に入ってきた。

石の建造物が多く並ぶそこはガゼル達に聞いていた情報通りのバガーニスタン王国王都だった。

そう。

3人の魔族達と争いにはならなかった。

終始喧嘩腰だったエゼルだったが、最後まで二人に止められていた。

俺としても負けるとは思っていないけど、どういう戦いになるか想像出来なかったから助かった。

相手の出方次第では、俺は無事でもガゼル達を守り切れるかどうかはわからないからな。

「城っていうよりも要塞だな」

流石戦争が多い地域ということか?

普通の城でもある程度は攻められることを前提として建てられるが、基本外観は見栄えを重視する。

しかしここの城は見た目が質実剛健というか…兎に角飾り気は一切無いシンプルな四角形だな。

街の建物も壊されづらさを重視したような見た目だ。

あれなら火矢を放っても燃えないだろうな。

「さっ!さっさと行こうぜ!」

「ああ。約束を忘れるなよ?」

立ち止まって街を眺めていた俺をガゼルが促した。

みんなは早く酒が飲みたいだけだろうが、俺は違う。

待っててくれ…可愛いお姉さん……






これまでの酒屋とは違い、ここは床にカーペットのようなモノが敷かれており、椅子はソファーでテーブルも高級感のある黒塗りだ。

「おい」

「この酒も中々旨いぜ!」

「そうだな。このつまみにも合う」

コクコク

3人が飲んでいるのは何かしらの果汁が入っている焼酎のようなお酒だ。

ツマミはサラミの様な油っぽい加工肉の薄切りだ。

いや…そうじゃない……

「おい」

「うふふふ。こっちのお兄さんは緊張しているのかしらね?」

「大丈夫よ。お姉さんは優しいから」

「た、たすけ…」

3人に気付かれない俺は、ついにストレートな言葉で助けを求めたが……

3人は大きなテーブルを挟んだ反対のソファーに座っている。

俺の両隣には化けも…ゲフンッゲフンッ

お年を召したレディがいた。

チラッ

あっ!

ガゼル今こっち見たのに無視しやがったっ!?

絶対許さんからなっ!覚えとけよ!3人とも!!




〜時は遡り〜



酒が飲める場所を求めて歩いていた時。ガゼルが通行人に『綺麗な姉ちゃんがお酌してくれる良い店はないか?』と聞き、連れてこられたのがこの店だ。

もちろんガゼルの美醜感覚が狂っている訳ではない。

もしそうなら飲み友達としてそっとしておいてやる。何も言わないのも友としての重要な要素だと俺は知っているからな。

この店に入って酒を頼んだまではいい。

酒と共にやってきたのは仮面をつけた二人の女性だった。

俺は最初そういう趣向の店なのかとワクワクしていた。

ガゼル達は酒にしか興味がない。

丸っ切り無いわけじゃないが、女に使う金があるなら少しでも多く酒を飲みたいと思うようなダメ人間豪傑なのだ。

『俺達は良いからその男をもてなしてやってくれ』

3人は女性にそう伝えると、3人掛けのソファーの対面に仲良く腰掛けた。

俺は女性に挟まれる形で3人掛けのソファーの真ん中へと座った。

そして、事件は乾杯後に起こった。

6人で盃を交わすと女性達の仮面が壊れ始めたのだ。

少しずつひび割れていく白い仮面……

頬の部分が剥がれ落ちると中からはシミだらけの皺の寄った皮膚が……

『あら?あなたもう化粧が崩れてきているわよ?』

『久しぶりの接客で頬が緩んだのかしらね?』

そう。仮面ではなく、ただの厚化粧だったのだ……

その後はもちろんお通夜だ。

確かに声はしゃがれていたけど……こういう店で働いているなら仕方ないなと思っていたんだ……

まさか素でしゃがれる年齢の乙女だとは思わないじゃん……

ガゼル達は終始こちらを見ることなく、ボトルを空にした。

流石に追加注文してここに長居する程彼等は鬼畜ではない。

しかし出されたお酒を飲み干すのは酒飲みの流儀だとは言え、この時ばかりはそれを呪ったのは言うまでもなかった。






「何処が美女なんだよ……化け物じゃねーか……」

もう言葉を誤魔化すのはやめだ。

あれが化け物じゃないというのなら、後は妖怪くらいしか言葉の表現を俺は持たない。

あの店を出てすぐの俺のセリフがこれだ。

「悪いなっ!店の奴に聞いたら、戦時中らしくて王都に傭兵がいないから若い女の子はお金稼ぎの為に王都を出て行っちまったようだぜ」

客がいないなら仕方ないか……

「だが…俺はあの時俺を見捨てたお前達を許さんからな…!!」

どんな理由があろうとも仲間を見捨てる奴は許さん!!

「わかっている。次は俺に任せてくれ。

必ずセイの期待に応えてみせよう」

俺が怒りを露わにすると、バックスが名乗りを挙げた。

そこまで自信があるなら否とはいわん。良きに計らえ。

俺達はバックスに先導されて王都を出立した。

美女がいないならこんな街に用はねぇ!!






ここは…町なのか?

バックスに連れて行かれた所は、王都から半日の距離にあるそこそこ大きな村(?)だった。

「まともな店があるとは思えないんだが…」

森を切り拓いて造ったであろう土地はそこそこ広い。

だが家屋はまばらにしか存在しない為、人口は少ないと予想できた。

「騙されたと思って着いてきてくれ」

いや、実際すでに騙されてたんだけど?

俺の思いとは裏腹にバックスの足取りは軽い。

俺を含めた3人は不審に思いながらもバックスについていく。




「ここだ。少し待っていてくれ」

バックスが示したのは周りの家屋よりも少し大きめの一軒家。

どう見ても店ではないが、言われたまま待つことにした。


バックスが建物に入って10分程。漸く出てきたかと思えば俺達を手招きした。

俺は軽いトラウマを抱えている為、恐る恐る建物へと入っていく。

中はやはり普通の家だった。

リビングとは名ばかりの椅子とテーブルがある部屋に通された俺達は、バックスに促されて椅子に座る。

対面にバックス達3人が座り、俺は真ん中。両隣は空席だ。

怖い…これって罰ゲームじゃないよな?

「どうもお待たせ致しました」

そう言って入ってきたのは……爺さん?

「この村の村長でございます。この度は依頼を受けてくれるということで、まずは歓迎の宴を」

うん?

「どういうことだ?」

俺は爺さん…村長の言っている意味が分からなくて堪らずバックスに聞いた。

「セイ。ここは任せてくれ」

何故か自信満々に答えられた。

そこまで言われたら何も言えないじゃん……

パンパンッ

そうこうしていると村長が手を叩いた。

まさか…ボケたか…?

「入りなさい」

その言葉の後、部屋へと入ってきたのは……

ありがとう。バックス。お前は心の友だ。

「右からアーニャ、シータ、イルゼ、メータでございます。

お客様を…いえ、セイ殿を歓待しなさい」

お客様の所でバックスが咳払いをした後、村長はそう言い直した。

アーニャはまだあどけなさが残る18歳くらいの美少女だ。高校の時であれば学校一の美少女と言っても過言ではない見た目で、もちろん俺には縁のないタイプの茶髪の子だ。

シータはアーニャより若く見え、背も低いが……何処とは明言を避けるが、非常に発育が良く素晴らしいと思いました。まる。

イルゼ、メータは包容力のある美女であり、ついついママと甘えたくなる雰囲気がある。俺にそんな勇気はないが。

四人ともそれぞれ違った良さがある美女美少女であり、俺はバックスに生涯の忠誠を誓っても良いんじゃないかと思えてきた。

兄貴!何処までも着いていくぜっ!

「失礼します。アーニャです。セイ様どうぞ」

アーニャが左隣に座り、お酌をしてくれた。それを一気に飲み干す。

「まぁ!お強いのですね!ささっ。私のお酌でもどうぞ」

メータが右隣に座り、空いたコップに酒を注いでくれた。

地球産の酒に慣れている俺には美味しくないお酒でも、美女美少女に注がれるとここまで美味くなるものなのか……

俺は新たな酒の旨さを発見して、その日を存分に楽しんだのだった。






「いててててっ…」

翌朝、二日酔いの頭痛と気持ち悪さで目を覚ました俺は、周りを見渡した。

「そういや部屋を借りて寝たんだったな…」

周りにはあられも無い姿の女性達が……いるわけもなく、普通にガゼル達が転がっていた。


3人も順次起きた後、村長宅で朝食を頂くことになったのだが……

そこで昨日の代償を支払うことになってしまった。

〜ぼっちの月の神様の使徒〜

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