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ナギサノサナギ
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ああ、第10話……読み終わってしばらく動けませんでした。 「夢みたい」と呟くライの声があまりに優しくて、胸がぎゅっとなりました。百年前にはできなかったことを、今、二人で一つずつ取り戻している——その一つひとつが本当に眩しいですね。 「泊まる?」の問いかけの前に見せた、あの少し不安そうな目。あの表情を書けるのは、この物語をずっと大切に紡いできたからこそだと思います。 続き、待っています🤍
「文化祭まであと一週間でーす!」
担任の声に、教室が一気に騒がしくなる。
七月中旬。
クラス中が文化祭モードになっていた。
「ライー! 看板こっち手伝って!」
「今行く」
「マナは飾り付け!」
「はーい」
放課後の教室。
絵の具の匂い。
笑い声。
騒がしい空気。
その真ん中に自分たちがいることが、マナにはまだ少し不思議だった。
前世では、こんな普通の高校生活を送れなかった。
放課後に残って準備して。
くだらないことで笑って。
恋人と目を合わせて。
そういう青春を、途中で失った。
だから今は、一つ一つが眩しい。
「……ライ」
脚立の上で看板を描いていたライが振り返る。
「何」
「楽しい?」
ライは少し目を丸くして、それから静かに笑った。
「うん」
その笑顔を見て、マナも自然に笑う。
すると近くにいた女子がひそひそ声で言った。
「ほんと仲良いよね、あの二人」
「付き合ってる感すごい」
「え、やっぱそう?」
マナの顔が一瞬で熱くなる。
ライは平然としていた。
なんでこいつこんな強いんだ。
「……ライ」
「ん」
「ちょっとは隠せ」
「なんで」
「なんでって!」
ライは少し考えるように首を傾げた。
「好きなの隠す意味ある?」
「あるんだよ世の中には!!」
周りで笑いが起きる。
マナは机に突っ伏した。
無理だ。
この人、本当に無自覚で爆弾落としてくる。
その日の帰り。
「……で、結局みんな気づいてると思う?」
「気づいてるんじゃない」
「軽っ」
夕焼けの商店街を並んで歩く。
ライは自然にマナの手を握った。
もう逃げる気もないらしい。
「でも嫌じゃなかった」
「え?」
「恋人って思われるの」
マナの心臓が跳ねる。
ライは前を向いたまま、小さく笑った。
「むしろ嬉しかった」
反則だ。
そんな顔でそんなこと言うの。
マナは赤くなった顔を隠すように俯く。
「……俺も、嫌じゃない」
「ん」
「……ちょっと嬉しかったし」
ライが目を見開く。
次の瞬間、すごく優しい顔で笑った。
「かわいい」
「やめろ!」
手を繋いだまま騒ぐ二人を、夕日が長く照らしていた。
文化祭前日。
準備は夜まで続いていた。
「終わったぁ〜!」
飾り付けを終えたマナが机に突っ伏す。
周りでも歓声が上がっていた。
「お疲れ」
ライが隣へ座る。
「ライもお疲れ〜」
何気なく肩にもたれかかると、ライが少しだけ身体を寄せてきた。
最近、こういう距離が自然になってきている。
「……マナ」
「んー?」
「前世でさ」
ライが静かに言った。
「文化祭、一回も行けなかった」
マナは目を瞬かせる。
そうだ。
病気が見つかったのは、高校二年の夏だった。
そのまま入退院を繰り返して。
文化祭どころじゃなくなった。
「……そっか」
胸が少し痛む。
ライは窓の外を見ながら続けた。
「だから今、変な感じ」
「変?」
「夢みたい」
その声があまりにも優しくて、マナは胸が熱くなる。
ライはずっと、“叶わなかった青春”を抱えていた。
恋人と文化祭を回ること。
一緒に写真を撮ること。
放課後に笑い合うこと。
全部、百年前にはできなかった。
「……じゃあさ」
マナは笑った。
「明日、いっぱい回ろうぜ」
ライがこちらを見る。
「たこ焼き食って」
「うん」
「写真撮って」
「うん」
「青春全部やる」
ライの目が少し揺れた。
それから、小さく笑う。
「……楽しみ」
マナはその顔を見て、胸がいっぱいになった。
今度こそ。
今度こそ、幸せにしたい。
百年前に終わってしまった恋を、ちゃんと未来まで連れて行きたい。
帰る頃には、外は真っ暗だった。
校門を出たところで、ライがふと立ち止まる。
「……マナ」
「ん?」
静かな声。
振り返ると、ライが少し迷うような顔をしていた。
珍しい。
「今日」
「?」
「泊まる?」
マナの心臓が止まりかけた。
「……は?」
「もう遅いし」
「いやでも」
「嫌ならいい」
そう言いながらも、どこか不安そうな目。
マナは一気に顔が熱くなる。
泊まる。
つまり。
恋人の家に。
一晩。
「……っ」
百年前にも、一度だけ似たようなことがあった気がする。
病院を抜け出して、夜の海を見に行った日。
帰りたくなくて、ずっと手を繋いでいた。
ライはあの時も、今みたいな顔をしていた。
「……マナ?」
「い、行く」
勢いで答える。
ライが目を丸くしたあと、少し笑った。
「ん。よかった」
その笑顔を見た瞬間。
マナは「これ絶対心臓もたない」と本気で思った。